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ウォルター・ベッカー「メディカル・サイエンス」解説 (2) [スティーリー・ダン]

とりあえず前回の続きです。


Aメロ前半8小節

Pattern A (1-8)
1小節目・・・・Fdim7(9)/Ab --> Fm9(-5、13)/Ab --> F7(+9) --> F7(+9)/G
2小節目・・・・GbmM7(+11)/A --> B7(-9、+11) --> B7(-9、+11)/A --> B7(-9、+11)/G
3小節目・・・・Dm9 --> E7(-9,+11,-13)/C
4小節目・・・・Dm69 --> FM7 --> E△/G --> Ebm9 --> EbmM9/Gb
5小節目・・・・Fm9(-5)/G --> G7(-9) -->FmM9(13)/G --> D7sus4/G
6小節目・・・・CmM9(11) --> Em7/A
7小節目・・・・Ebm11
8小節目・・・・Ebm9 --> Ebm11(最後の4拍目のみ2nd Bass→Ebm11/F)




なにはともあれ、原曲におけるベッカーの唄の音程が妖しくフラついているように聴こえるかもしれませんが、それは間違い。

実はベッカー本人はベースと唄によって、その多様な調性を聴衆に向けてきちんと唄って&弾いているんですね。ただ、パッと聴きでは耳の習熟度が特に浅い人だと、上記のコード群を想起することは難しいと思いますし、あまり馴染みの薄い特殊なモードの世界を聴かされていることで「ベッカーって音痴だなー」と誤解してしまっている人もいると思います(笑)。私の周囲にもおりました、こーゆーヒト(笑)。

「ベッカーの唄ひどくねぇ?」とか(笑)。

左近治は「おめーの耳がひでーんだよ」といって理詰めで解説してあげましたけどね。それでも引っ込み付かなくなったのか

「楽理的には評価に値するものだとしても、魅力的に聴こえて来ないようではダメでしょ」

などとさらに言い訳をする当時の私の知人。アンタの耳に合わせて曲作ろうものならSDがTKになりかねないってなモンよ(14年前です)。

今でこそ彼はようやくこういう世界観を堪能できるようになりましたが、いざ自分が知れるようになると当時の自分が毒づいていた批判など、まるで吐いたツバを物怖じすることなく飲み干すかのように掌返して絶賛しだすのだからヤレヤレって感じですよ(笑)。

自分の未知で未成熟な感覚は忘却の彼方で、楽理面においても大した知識どころか音楽感もさほど有していないのに、批評したがるのだからタチが悪い(笑)。しかしながらその知人はその音の魅力に気付いたのだからまだマシな方と言えるかもしれません。チョット遅いですけどね(笑)。「Circus Moneyを聴いてようやく判った」と言ってましたから。

ベッカーの曲を例に挙げるまでもなく、多くの人というのは耳が習熟しきれていない所に冒険して入手して理解できないままダメ出しをするのがほとんど。自分の耳のレベルを満たしてくれるタイプの曲が稚拙なタイプだから、そればっかりになるといつまで経っても習熟することがないか、理解までの道のりが極めて遠くなるんですね。

世間一般では、私のように楽理面を解説するようなタイプの人だって少ない。周囲に指南してくれるタイプが少ないのだから理解するのに時間を要しても致し方ない面もあるんですが、そのクセ批判だけは一丁前という人はアレですな、選挙などロクすっぽ足運ばないクセに社会にだけは毒付くのと同じようなタイプなんですな(笑)。

耳の習熟度が浅い人に、「Medical Science」やサーカス・マネーに収録の「Door Number Two」聴かせてみたりしても良さはそうそう伝わるモノではないでしょう。いわゆる「敷居の高い」和声ですからね。

「11の心象」でベッカーの「やさしさ」がある曲は「Junkie Girl」でしょうか。特にギターソロにおけるモードのなぞり方。この音をくまなく追究すればベッカーの想起するモードが、一般的な解釈とは違うことが理解できるだろうと思います。

SD作品ならば「緑のイヤリング」のエリオット・ランドールのギターソロ直前のリード・ギター。「なんでメジャー7thのコード上で♭6thの音使うんだろ?」という所に疑問を持っていただければ、想起しているモードが理解できようぞ!と左近治は思います。


前回のブログでも短九の使い方についてチラッと語りましたが、国内のアーティストでも例を引き合いに出すとやっぱりこの人になってしまいます。坂本龍一。

坂本龍一の「きみについて」の長いイントロ。ほぼ3部構成のイントロと言えますが、イントロのB部分のC部分の一番ケツはホントにSDっぽい使い方です。ドミナント感を強く押し出しているのは「きみについて」においては坂本龍一の方ではありますが、音の持って行き方などはベッカーと似ていると思います。

私がSDや坂本龍一しか知らないのではなくて(笑)、ある程度伝わりやすくしているからこういう例になるというだけです。

ひとつ残念なことは、「11の心象」の「Medical Science」が収録されている日本盤は現在入手困難というところでしょうか。「Medical Science」はおろか「11の心象」の魅力に気付いていない人が多いからこそ中古市場でも投げ売りに近い扱いなんでしょうが(笑)、それにしてもこういう状況であることに憂いてしまうんですなあ。一般的なリスナーと音楽業界に対して(小売りも含)。

ライナーノーツひとつ書かせるにしたって魅力を惹き付けるようなモノは少なく、感想をデコレーションさせただけのようなモノが多い。それだけで値段ハネ上がるのもなんだかなぁ、と感じるんですな。私なら無償で解説本凌駕するくらいのライナー書いてやるよ!と思うばかりです(笑)。

とはいえ小売り店にしてみれば、ベッカーのCD1枚売れるよりも、Perfume100枚売れた方がカネになるんですな(笑)。

30万円ほどの音楽用機材が店にひとつ並んでいても、いつ店に足運んでも売れないのか展示品用なのかは知る由もありませんが、そんな回転しない商品よりもデトロイト・メタル・シティのバンスコ100冊売れた方がよっぽど金になる、と(笑)。これも楽器屋としてのホンネかもしれません(笑)。

私なら、ベッカーはおろかまず店には在庫していないだろうなと思われるCDがあったりすると、その店の仕入れ担当者に敬意を表する意味でPerfumeのひとつやらでも別に買いますけど(笑)、J-POPの類の客層が「Perfume在庫してたからスティーリー・ダンも買ってあげよう」とい購買心理を抱いている方は希有だと思うんですね。

どうにかして不良在庫にしないようにスタッフの涙ぐましい手書きのコメントPOPなどCDや書籍の世界では本当に顕著になりました。謳い文句が無いと付加価値が付かずに不良在庫化させてしまうのは、客が成長していないからであって、そういう店作りが何十年と渡っているからこそだとも言えるんですな。客の耳が成長した時に赴いてみれば、その手の客を惹き付けるようなCDなど店頭に殆ど無かったり(笑)。

そんな音楽業界のことどうでもイイんですが、本当に素晴らしい音楽を手にする機会すら逸してしまう状況を生んでしまっているのは悲しいコトでありますな。Perfumeは私も好きですけどね(笑)。