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Walter Becker 「Circus Money」 in Depth 「Door Number Two [スティーリー・ダン]

ウォルター・ベッカーのオフィシャル・サイトにてとりあえず始まった有料配信。


今の内アルバム全曲のMP3($9.99ポッキリ)買ってくれたら、6月5日以降にアルバムより5日早くダウンロードできるぞ、と。買ってくれた御礼に1曲だけ早めに渡しておくね♪キャンペーンをやっております。

一足先にダウンロードできる曲はアルバム1曲目の「Door Number Two」。MP3と一緒に1曲分の歌詞が載ったPDFファイルもオマケに付いてきます。

ベッカー師匠に心酔する私が買わないはずがない(笑)。CDも勿論購入するワケでありますが、とりあえずアタマん中グルングルン響き渡っているほど物欲に苛まれている左近治、目先にエサちらつかせられりゃあ買わない理由は無いというワケで購入、と。

コレを機に、今作「Circus Money」の全曲を各曲詳細を楽理面で語っていこうかな、と思っております。

とはいえMP3で配信というワケでiTMSのAACとは違うワケですね。アルバムアートワークも無いし、アルバムや曲名やら手入力せにゃならんのか、と思いきやタグが埋め込まれているお陰でiTunesにブチ込んでも手作業する必要ありませんでした(笑)。

アルバムアートワークが無いとはいえ、iTunesでは歌詞やらライナー部分というのはまだまだ発展できる要素を秘めておりまして、未来のiTunesは歌詞がタイムコードに沿って流れたり、複数ページを閲覧できるようなアルバムアートワークのサブページ的な扱いでライナーを見れるような感覚で閲覧できたりするんだろな、と思いながら、そんな付加価値など全くI don‘t careで購入したというワケです。

アルバムリリースされたら恐らくどこかからiTMSでも配信されるんでしょうが待ち切れなかったんですね。クリサリスとクレジットされているので、日本だとEMIになるのかなと思いつつも、これだけ極上のアルバムと目される曲でも、前作「11の心象」ではウォルター先生の凄さを理解できた人はかなり少なかったのかもしれません。器楽的な面でも一定以上の心得がないとなかなか難しかったかもしれませんし、何より中古ワゴンじゃ「11の心象」を見かける頻度は高かったので、国内セールス的には芳しくなかったのかもしれません(笑)。だから国内発売も二の足を踏んで決定していないのではないかと思っている左近治。

「11の心象」で提示された世界を理解できない人はどういう耳でスティーリー・ダンの音を聴いているのか皆目見当がつかないのでありますが、私の周囲ではジャズ心やプログレ心(いわゆるバロック的な王朝系の脳幹ブッ直撃なプログレとは違う耳を持つプログレ層の方)のある方は「11の心象」を好む人が多いように思えます。

まあ、左近治周辺の友人・知人なのだから概ね好みも似ているワケでありますが、「11の心象」を理解できるorできないというのは確かに判るような気がするんですよ。

ベッカーを敬遠している人でも今作の凄さは一度聴けばすぐに理解できるでしょうから、今作こそ売り時だと思うんですが、国内発売はないんでしょうかねえ(笑)。いくらCD業界低迷しているからといって、チャート物扱う層を優遇してばかりじゃあ本当に日本のレコード屋終わりですぜ(笑)。


では曲の解説の方へ行くとしまして、この曲はGをトーナルセンターとしながら♭9thや♭6thを強調させているワケですが、Gマイナーっぽく攻めるのかと思いきや♭9thを織り交ぜ、調性をフラつかせモーダルにして、時たまGから見ればメジャー3rdの音であるB音をまぜて、そういう時になると♭6thではなくE音を使ったり、と。

実に叙情性すらも希薄にしながらスパニッシュ・モードをふらつかせたようなモーダルな動きとなっています。個人的には女性コーラスのハモりが実にSavath&Savalas風というか、心地良い倦怠感みたいな雰囲気が非常に好みでありまして、こうした女性コーラスのガイドメロディを普通に聴かせることなく、浮遊感漂う希薄な調性感で引っ張るのはとてもイイと思いますね。酒飲みながら聴くにもよし、夜が似合う曲調ですな。

ピアノは旋律的に、ローズは長二度や短ニ度ぶつけで攻めて、聴き手の行き着きたいはずの調性のグラビティを玩ぶ様で実に心地良いモノです。

いわゆるBメロはD♭△7(+11)で引っ張りつつ、このD♭へ言ってくれることで調性感を得るようにやや安心感を伴いながら聴けるのでしょうが、キモはやはりAメロに移る直前の2拍に渡って8分音符のブリッジ。

ここはアッパーの主旋律は「B♭→F→B→F」というモチーフですが、ここでベースは「A♭→G♭→D→G♭」とハモっておりまして、こりゃまた凄い毒ッ気タップリのハーモニーなんですが、各8分を分解してみると次のような和声で動いているワケです。


G♭△7(+5)(onA♭)→G♭△7→Dm△7(#11、13)→E♭m△9(onG♭)


これが8分で動いているワケですからね(笑)。メチャクチャ凄い和声です。ベッカー先生、かなり判り易くアプローチしてきたとはいえ、スゴイです。

バド・パウエルやらガレスピー、モンクの世界が好きな人ならドンピシャかもしれません。例えばブルーノート1500番台期の頃というのは、特殊なモードを当てはめて旋律的に叙情性を利用しながら、そのモードによる構成音を「欲張る」タイプの和声が結構多く聴ける時期ですので、ヒントになるかもしれません。

ただ、ベッカーが時折見せるそれらの「欲張りコードの解体」はモンクのアプローチにも似た所もあるので一概には言えないものの、この毒ッ気はスゴイですね。この曲にこれだけの秘密があるとは思いませんでした。

曲の中盤辺りでもう一度イントロに戻る所のスネアとピアノの音場感の違いというか、少々音が散逸していくようなリバーブ感はこれまた結構興味深い演出ですね。ハッと我に返るようなトキメキと覚醒から覚めるような効果があると思います。

それにしても弦モノしかり、根幹の据わった実にクッキリとした音像を全体的に聴かせてくれています。ハットの処理が巧いなーと感じながら左近治、酔いしれております(笑)。