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微分音表記におすすめのフリー記譜フォントEkmelosがバージョン2.3に [楽理]

 2019年初となるブログ記事投稿がよもや2018年の話題になろうとは思いもよりませんでしたが、いつもの冗長な記事とはメリハリを付ける意味で、前年(2018年)師走の音楽方面の話題に触れる事ができればと思い立ち、今回は微分音を表現するにあたりうってつけのフリー・フォントのひとつであるEkmelosフォントをレコメンドする事に。


 Ekmelosフォントは、先のリンク先にてトーマス・リヒター氏が無料頒布しているフリーの物であり、氏がこれまで矻々と細かなバージョン・アップを繰り返して来ている中で、今回の2018年12月の2.3へのバージョン・アップはかなり大幅な追加が行われているのでレコメンドする事にしたという訳です。

 私自身、過去にEkmelosフォントに関してはTwitterの方で呟いて紹介した事はあると思いますが、リヒター氏は特に微分音表記の方に力瘤を蓄えてデザインしている様なので注目してきたフォントでもあるのです。

 氏はFontForgeでデザインした物をSMuFL(スムーフル)準拠のフォント・スロットでデザインしている様です。SMuFL準拠のBravura(ブラヴューラ)フォントというのはスタインバーグ社のノーテーション・ソフトDoricoに使われる標準記譜フォントでありますが、やはりBravuraフォントのプロポーションを踏襲する様な感じであるのか、やや墨痕淋漓としたフォルムになっているのは多くの記譜フォントの中でも目立つ存在となっているのは確かでありましょう。

Ekmelos2_3-2.jpg


 前バージョンの1.14では合計318種のキャラクターとなっていた様でしたが、今回の2.3では724種と大幅に増えた模様です。記譜用フォントとしてかなり充実した内容になって来た為あらためて今回紹介しようとしたのはこうした背景があっての事だったのです。

 今回のバージョン・アップはそれまでのバージョンから大幅追加となった物の実際には削除されている物もあります。特に注意したいのがエズラ・シムズのシムズ・ノーテーション用のキャラクターの多くは今回のバージョンで割愛されています。シムズのそれは他にMICRO3という有料頒布されているフォントがあるので、もしかしたらそちらに配慮して大幅に割愛したのかもしれません。シムズ・ノーテーションは複数の変化記号を組み合わせた表現にもなっている為、複数のキャラクターを組み合わせてそれを1グリフとしたフォントが割愛された様です。

 とはいえ今回のバージョン・アップは単に微分音記号のオプション的扱いで用いるのは勿体無いほどに豊富に揃えられており、音部記号、符頭、休符類も併せて用いる総合的な記譜用フォントとしてのグリフ数の充実度は目を瞠るものがあるので、あらためてこうして紹介する事としたのです。以前のバージョンでも符頭や休符はあったのですが、16分休符までとか大分制限されてしまっていたのです。強いて挙げればフラジオレット(ハーモニクス)用の白抜きダイヤ型(菱形)の符頭があれば記譜用フォントとして更に成熟するのではなかろうかと個人的に感じる所であります。
 
 こうして相当充実した記譜用フォントとして育って来た物の、連符の数字はまだ改善の余地があると思います。先の譜例画像を見ていただければお判りですが、私は連符の数字にEkmelosを用いておりません。

 連符表記を単体の数字として表す時にEkmelosの数字部分を用いるだけであるならば、デフォルトのフォント・サイズは小さめであるものの、サイズを変更して用いるならば問題はそれほどありません。問題が生ずるのは「比率表記」をしたい状況でありまして、Ekmelosの数字用フォントは字間が狭いので比率表記にした時に前後の数字やコロン「:」等のいずれの字間も詰まってしまうのであります。

 Finaleでは連符用のフォントを変更する事は可能であっても、その連符用のフォントの字間を調整する事はできません。また、連符用の数字として任意のフォント内に収録されている他のフォント・スロットから異なる数字のプロポーションを選択するという事もできません。つまり、こうした状況が必要となった場合Finale単体での編集は無理なのでIllustratorなどにEPSデータを取り込んで編集するか、連符用の数字だけはEkmelosを使わずに他のフォントを選択せざるを得ないという状況になってしまうのです。

 無論、連符表記が数字だけであるなら字間を気にする必要はないのですが、数字のプロモーションが結構好い感じなので、この辺りが改善されればもっと使える記譜用フォントとなるのは確実でありましょう。

 また、今回追加された微分音用の記号で興味を惹くのはイーズレイ・ブラックウッド(イーズリー・ブラックウッド)風の、火星の記号の様な「♂」(←傾いておらず垂線が貫通)記号が「U+F610」「U+F611」オプショナル・グリフとして追加されているのはなかなか気の利いた物であると思います。