SSブログ

金曜★ロンドンハーツと欽ちゃんの仮装大賞にみる微分音《音効》考察 [楽理]

 今回は話題を変えて《音効》という方面の話題を語る事に。「音効」=SE というのは映画・映像放送・演劇などの界隈では能く用いられる言葉で、「音響効果」という仕事を示す事でありますが、辞書に載る様な語句と言えるまでは瀰漫していないのではないかと思います。ハリウッドでもこうした音効の仕事は専門業として存在しますし、元を辿ればトーキー音楽、歌劇に遡る事が出来るのではないかと思います。


 近年ではジェイコブ・コリアーの非凡な才能がSNSなどを通じて広く人口に膾炙される様になった事で、より現実的な微分音の用例などを肌で感じ取る方々も少なくないと思いますし、おそらくはゲーム音楽などにも応用範囲の広い微分音の世界という物にも今後は更に遭遇する事が多いのではないかと推察します。亦、ゲームをはじめサブカルチャー界隈はビジネス的にも活性化しており回転(代謝)が激化しており、衰退著しい音楽産業の人材がサブカルチャーの方へ流れて来ている事もあるので、サブカルチャー界隈ではこれまで以上に高次な音楽が浸透するのではないかとも思うのであります。


 そうした世の情況を反映しているのか、先日テレビ朝日で放送された「金曜★ロンドンハーツ」の2018年5月11日放送分での音効は実にタイムリーであったと思える「微分音」を用いた好例のひとつに挙げられる物だと痛感した物でした。

 企画は「一般女性が選ぶ 私服-1GP団体戦」という物で、1〜30位でランキングしているという物で、30位から始まる時の音が中央ハ音より短六度低い「ホ音=e」から「順次上行進行」するという音のそれが、微小音程を伴って微分音を形成するので興味深かったのであります。ホ音からsesquisharp(セスクィシャープ=3/4音=150セント)上行を採っての進行ですが、各音は幹音を避けて24等分平均律(24EDO)である四分音律に於て「幹音」を避けて半音および全音による順次進行を採っている事があらためて判ります。番組中から採譜したのは概ね次の譜例の通り。

01LondonHearts2018-5-11-Qua.jpg

 斯様なまでに幹音を回避しているという情況が意味する事というのは、開始音以外では多くの楽音から外れる音である為鮮明にそれらの音の違いが浮き彫りになるので、他の音に交わらないかのような喚起も含まれるでありましょう。無論、音高感に乏しい視聴者がそんな音効に拘泥する事がなくとも、他の多くの楽音とも浮き立つ様に音が鳴っている事を意識せずとも耳に届いている事になり、視聴者にも配慮された音になっているかと思います。

 踏切の音も二度音程が重なっている事実がある様に、周囲の音になるべく埋もれない様な喚起として必要な配慮が為されているので単音ではなく二度音程の複合音として鳴らされている訳であります。


 これらの音効と警報音の役割は、器楽的な楽音とは異なる喚起の為の音として効果を存分に発揮している好例であるとも言えるでしょう。一方で、そうした「音」を楽音の一部として分析した場合、記譜する時には既知の12等分平均律などの一般的な記譜法とは異なる書法を要する側面もある訳でして、記譜という側面から見た時の視覚的な異端な状況をも確認できる事になるという例もあるのです。


 先般、『やさしい現代音楽の作曲法』が刊行されたという事を私のブログでも述べたばかりでありまして、そこにはOpemMusicの取扱いについても書かれる良著である訳ですが、微分音を取扱うに当たって先の24EDOを用いた音効を作成するにはうってつけの例となるでありましょうし、こうしたTVの音効の実際と近著のソフトウェアの取扱いの指南はとてもタイムリーな例示とする視聴者&読者の方々もおられるのではないかと思います。

 何よりOpenMusicが手軽に部分音にアクセスできるのは、その微分音表記がIRCAMのソフトウェア取扱いに於て一定のルールが整備されている事も大きいですし、MIDI部分の拡大解釈によってMIDIノートナンバーを更に100分割する事で、既知のMIDI規格内の半音を100分割して細かな微分音を再現できる所にあります。勘違いしてはならないのは、この拡大解釈は外部のMIDIアウトとして出力される訳ではない独自の解釈なので外部のシンセサイザーを微分音で鳴らすという信号が伝達される訳ではないという事です。


 扨て、微分音という細かな取扱いをすると、12等分平均律での「半音」を100等分しようとも、実際にはもっと細かな処理或いはそれでも近傍値としての音は出せる物の精確な処理はできない状況に遭遇する事はあります。MIDIノートナンバーに肖る方面で処理しなければMax/MSPなどでも他の微分音体系として処理する事はできるのですが、単に「周波数」として任意の音声信号を出力させる場合、周波数を主眼に置く状況であるならば其処には某しかの音律に当て嵌める必要など無いのであります。例えば、440Hzというのは通常我々が取扱う音律に於てa音の基準信号という風に標榜する値ですが、茲に443Hzという周波数が必要な状況があったとした場合、12等分平均律では表わす事のできない微小音程となる事は言う迄もありません。仮に770Hzという周波数が必要になる状況であるならば、それが12等分平均律に準則する音ではないという事は判る物の同時に、440:770=4:7という風に、純正音程比という自然七度相当の音が求められている状況というのもお判りになる事かと思います。

 同様に、或る特定の音律に準則する音よりも周波数の「値」の方を重視して求められる音効のシーンの実際という例もあります。例えば、日テレの長寿番組である欽ちゃんの全日本仮装大賞での採点時の音効が顕著な例でありましょう。このSEは近年ではタカラトミーからも製品化された事もある程に知られた音効でありますが、採点時の20個のSEだけを抜粋して判る事は、一部の音は微小音程ではないか!? という物です。通常の音律体系とは少々異なる歪つ(いびつ)な音階で生じている事は、特に器楽的要素を備えておられる人ほど実感している例だと思います。

 ですので、今度は仮装大賞のSEを私なりに考察した内容を載せようと思います。因みに、これらのSEを形成する為に重要な数字というのは次の通りです。

55
5.5
3
2
1

 これらの数字を組み合わせて形成させるのでありますが、扨て「55」という数字の意味する物はコント55号というコンビ名からもお判りになる様に、欽ちゃんを語る上では欠かす事のできない「魔法数」であります。この「55」という数字は、音律体系に於ける「440」の約数となり、「55」を8倍すれば得られる数値でもあります。

 つまり、「55」という数字の倍数から整数倍した音を次の様に羅列しておき、その上でそれらの数字に対して少々の「変調」をしのばせる為に他の数字が必要となるのであります。

01SE-55.jpg


 前掲の数字を更に説明していきますが、「5.5」というのは「55」の1/10というスケールである為こちらも採用します。他にも、「萩本欽一」から得られる「1」という数値および「坂上二郎」」から得られる「2」という数値も重要な数値であり、ご両人が合わさる事で得られる「3」という数値を根拠にして、仮装大賞に使われるSEの音効を「操作」していくのでありまして、それらが結果的にYouTubeで公開した周波数の値となる訳です。

※動画中の物理的周波数を示したテロップに於て、5点目と6点目が同一となってしまっているのは表記のミスであり、サジタル記号で示した物は正しい物です。6点目の正しい物理的周波数は「253.28Hz」であり、253.28=(55*4)+2*((8^2)/100) が正確な表記となりますのでご容赦ください。
01-20.jpg