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ミクソリディアン♭5thスケール [楽理]

 前回の記事で取り扱った今井美樹の「ポールポジション」にてバップ・フレーズに解体するというアプローチの件で補足をしておく事があるので、続きを語る事になります。今回は、普段使い慣れないモードや硬減三和音も視野に入って来る重要な話題となるのでご容赦を。


 扨て、前回取り扱ったバップ・フレーズのアプローチではA♭m→G△→G♭△を充てている、という風に述べておりました。勿論この想起は非常に重要なのですが、デモの実際はG♭△の部分がG♭トライアドの断片ではなく、G♭硬減三和音の断片と謂うべく「b・fes・c・as」という風に楽譜に表しておりました。


 これは、「c音」という表記が抑も間違いなのですが(音名の与え方が間違いという意味で実音が誤りなのではない)、実は私はこれを敢えてブログの題材とする為に敢えてc音という風に表記したのです。本来なら「deses(D♭♭)が正確な記譜なのです。


 元々は私がFinale上にて異名同音変換をし忘れたのが原因なのでありますが、それよりも重要な事を伝える上で敢えて誤った表記にしておこうという意図があったので、今回はその修正すべく側面も含めて語っていくことになります。


 本来なら、私はG♭△の断片を奏すれば良いのですから、その場合は「ges・b・des」を弾けば問題ありません。然し乍ら前回にも注意深く述べていた様に、この和音上ではドミナント7thコードと見なした上に「長属九・本位11度をも想起する」という事を述べておりました。つまり増11度由来の音= c音を弾くと基からあるD♭△とG♭7(9、#11)で明確な下方五度進行を作りかねないから避けるべき、と述べているのに実際にはどうなのか!? という事ですね。

 C音というのは元々長七度があるので本来ならG♭上で♯11th音があろうがなかろうが、そこはそれ程関係はありません。寧ろ前後とのクロマティックな和音連結に依って♯11th音が機能し過ぎるという風に述べる方が適当な物ではあるでしょう。換言すれば、G♭が更に弾みを付けて五度下方進行を進めてしまいかねないと言う方が適当であったでしょう、という意味です。G♭から見た本位11度がcesであり、そのcesとなる音は4拍目では用いていない。そして譜例のG♭△上にて表記される「C音」との整合性は!? そういう所に疑問を抱いてもらえると有難いのです。

 私はそのC音とやらは譜例ではその様に表記はしたものの「実際はdeses」の姿、G♭から見た時の「減五度」由来の音を見ているのです。

 つまり、G♭△では次の要件を満たして和音を想起している事になります。

●ドミナント7th
●長属九(長9度を持つ)
●本位11度を持つ(♯11thではなくナチュラル11th)
●ドミナント7thとなる基底和音の5th音は減五度


 という条件でフレージングしているというのが最尤《さいゆう》であるのです。

 ハナから譜例でD♭♭(ダブルフラット)を充ててしまうと、元の和音の基底音が変化している様に見ざるを得ず混乱を来す事、また、C音という風に便宜的に充てておいて別記事にて詳述するという事で、前回は敢えてそのままの表記に済ませていたのです。抑もはFinaleにて異名同音変換をし忘れた事で敢えて面白い問題提起になるなという例を見た為、この様に話題を繋げているのであります。

 そうなると、想起したD♭△とは実際にはD♭△(-5)という風にした方が良かったのではないか!? と思われる人もいるでしょうが、バップ・フレーズを構築するためならアプローチはどちらでも構わないのです。メジャー・トライアドを先行して想起した方が伝わり易いであろう、という配慮から先の様に説明していた訳です。


 扨て、長三和音の第5音が半音下がると「便宜的」には硬減三和音という体になります。「便宜的」というのは私があまりに固執しているだけかもしれませんが、私がトゥイレの和声学から覚えた事がどうしても頭から離れず拘り過ぎている向きがあるのでしょう。つまり、硬減三和音とは減三和音の第3音が半音高くなった物という風に理解しているので、どちらも鍵盤で白玉で弾けば、同じ音でしかありません(笑)。しかし、長三和音の第5音も硬減三和音に括って然るべきなのか!?(広義ではこの解釈も良いのです)という思いから本当は別解釈にしたいのですが、先人が作り上げた体系に勝手に踏み込んで語句を嵌当するのも馬鹿気た行為なので、今後私は敢えて長三和音の第5音半音下がった物も「硬減三和音」と呼ぶ事にさせていただきます。読み手の方々にもその方が読みやすいでありましょうし。


 という訳で、前回のアプローチでのG♭△というのはプレイ上の実際では「G♭△(-5)」(※本来なら硬減三和音をこの表記にしてしまうのも忸怩たる思いがあるのですが致し方ありません)を充てているという事になります。

 では、私はなぜ其処で硬減三和音のアプローチを採ったのでしょう?


 私がとても影響されているのはチック・コリアのアプローチなのです。以前から何度か紹介した事もあるチック・コリア・エレクトリック・バンド1stアルバム収録の「King Cockroach」での「Ⅰー♭Ⅱー♭Ⅴ」コンバージョンと呼ぶべきアプローチですね。










 それらのコンバージョンにそれぞれにメジャー・トライアドを充てるのではなく硬減三和音を充てる所に多大なるヒントを得ているからです。

 仮にG♭△という和音がある所に5度音をオルタレーションさせた人工的なモードを作る事にしましょう。少なくともそれを「ミクソリディアン♭5th」という風に呼ぶ事ができます。

Gb_MixoLyd_flat5.jpg


 便宜的な和音表記としては「G♭△(-5)」が生まれたのですから、そこに「Ⅰー♭Ⅱー♭Ⅴ」を充てるとすると(※Ⅰ=G♭)、夫々をトライアドの分散を見た場合


G♭・B♭・D♭♭(C):Ⅰ
A・C♯・E:♭Ⅱ
D・F#・A:♭Ⅴ

 という音群を引き連れて来るので、後続の「Em9」に対してのコモン・トーン(共通音)の組織を掠め取る様にし乍ら着地しようとする訳です。


 因みに、今回例に挙げたミクソリディアン♭5thというのは、私がこねくり回して人工的に作ったものではなく、きちんととある体系では用いられている物です。

 また、ミクソリディアン♭5thスケールの第2&5音が更に半音下がると、ブゾーニのヘプタトニック第4番の音階にもなります。


Busoni_HeptatonicScales-a8140.jpg


 バップ・フレーズそのものが卑近だと言うジャズメンは少なくありません。とはいうものの、モードばかりが新しいという訳でもなく、和音進行が五度下方進行を強烈に感じさせる様なシーンでなければバップ・フレーズを決めてしまった方が良い場合もあるのです。

 そうした判断を瞬時に行うには、バップ・フレーズのそれらを色々聴いて学び、そこから体得して行く物がないと難しいとは思います。私の今回のアプローチというのはバップのアプローチの中でもこねくり廻している方なので、バップのアプローチを総じて一義的にならぬ様に濱瀬元彦は幾つかの体系に纏めているのですから。

 勿論『チャーリー・パーカーの技法』を読んで其れ以上に昇華・応用できない限りは体得した事にはならないと思います。せいぜい、1コードにつき色んな近似性のあるスケールを列挙する程度の嵌当を娯しむだけでは、平均台の上をアクロバティックな動作をし乍ら動ける様になった事を誇示するだけの者となんら変わりはないのです。そうしたアプローチとは全く別物だという事はきちんと読んでもらえれば判るでしょうから、そういう部分をきちんと体得していただきたいと思わんばかりです。