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Lydian AugmentedスケールをGGの「Way Of Life」に見る [プログレ]

 扨て、GGのアルバム『ガラスの家』収録曲の「The Runaway」について前回は語っていたので、その序でに今回は同アルバム収録の「Way Of Life」を語る事に。アルバム・タイトル曲の「In A Glass House」の変拍子を変拍子に感じさせない程の素晴らしい唄メロも本当は取り上げたいのですが、それは別の機会に取っておこうと思います。本題に入る前に、前回のブログ記事にて画像をまとめていたGGのブート音源の内、オフィシャル・ライヴ・アルバム以外で当時から高い評価を受けていた物をこの際紹介してみる事に。


「A Stake in the Heart」・・・過去に「Playing The Foole」としてリリースされていた物。LP時代はジャケ内の男がマッチ箱を持っていて、そのマッチ箱には堂々と日本語が書かれていたというモノ。
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「Playing The Foole in Wonderland」・・・こちらもLPで流通していて古くから知られている音源のひとつ。
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「Playing For Fools」・・・CD時代となって他の音源とは違い音質が良好で知られるブート盤のひとつ
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「Dog's Life」・・・ジャケットはなぜかサード・イヤー・バンドの「Music from Macbeth」のジャケをパクっているモノで、コチラも音質は比較的宜しいモノです。
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 今回の記事タイトルにもある通り、この曲のAメロというのはリディアン・オーギュメントとリディアンのメリハリを作る事で僅かな半音の変化が見られますが、あまりにさりげない其れに気付かない人も居る位です(笑)。デレクのボーカルのピッチが若干甘めなのもメリハリが若干ぼやけてしまう一因なのかもしれませんが、返って如実に本性を現さないのがこの曲の良い所なんですね。リディアン・オーギュメンテッド・スケールの音並びというのは不慣れな人にしてみればとても忌避したくなる程の旋法的な情緒の希薄な音並びなので、如実に歌の冒頭から耳に厳しい旋律をあからさまにアピールするよりは「ん?」となる位の曖昧さが返って功を奏するとも思います。
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 瞠目する楽曲には目くじら立てて分析する私でも当初は唄い出しのリディアン・オーギュメンテッドを唯のリディアンと思い込んでいた私でして、それに気付くのはGGの2枚組の未発表曲などを収録したボックス「Under Construction」がリリースされた時に遡る事ができまして、そもそもケリーがデモ作曲中の音源を聴く事が出来て原曲の構造が判ったのであります。
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 そんな譯で本題に入りますが、「Way Of Life」の唄い出しAメロは次の様な3拍子フレーズで旋法的に唄い分けております。Ebリディアン・オーギュメンテッド・スケールはCメロディック・マイナー・スケールの第3音をモードとするモノなのでして、「なるほどなるほど・・・!?チョット待てよ。Cメロディック・マイナーをモードとするならばハ短調の旋律的短音階としての変化とも読み取れるのに、何故調号がト短調!?」という風に疑問が沸くかもしれませんが、先ずはこの辺りを解説しておく事にします。



 確かにリディアン・オーギュメントを当て嵌めるのに最も適切なのは「短調のIII度」としてお馴染みですが、短調のスケール・ディグリーをジャズ&ポピュラー形式に倣うと「♭IIIM7aug」を与えるに相応しいので、本来ト短調と振る舞うにはB♭をルートにした時にB♭リディアン・オーギュメントとして出現するのが適切なのではないか!?という所に疑問を持つ人が居ると思います。

 然し、實際には短音階(=ナチュラル・マイナー)をドリアンで「嘯く」事が往々にしてある様に、GマイナーをGドリアンで嘯けばその音並びというのは、嘯いた側のスケール・トニックから五度上の音をスケール・トニックとする短音階(ト短調をGドリアンで嘯けばGから五度上のD音を主音とするDマイナー)の音並びで「代用」できる、というのが変格旋法であり、モード奏法の第一歩でもあるワケですね。


 つまり、それと同様にコチラのリディアン・オーギュメントも嘯いていて、五度上の「調域」を嘯いているワケです。モード奏法とは常に五度上で嘯くモノではありませんが、変格旋法という物は五度上に本来の調域が見えるという大前提はあらためて忘れない様にしてください。但し、これは一般的に知られている変格旋法の使い方とは少々異なります。

 更に序でなのでこの際語っておきますが、例えばAマイナーをAドリアンで嘯く、という行為は変格旋法を用いた事なのですが、変格旋法を当て嵌めた主音の四度下が本来の姿なのですね。Aドリアンはト調(平行短調がEマイナー)であるため、Aドリアンの四度下はEエオリアンという事です。先の「Way Of Life」の嘯きは四度では五度下の調域を用いた方法ですので、嘯き方が別の側面であるのでその辺りを注意して下さいね、という意味で語っているのです。


 とまあ、譜例にした様に3つ目の音形ではE♭リディアンを示している様に、これが本当の調域です。「to」の所がB♭(=独名B)なのですね。かと思いきや、ココで落ち着くのではなく3小節目の「in your〜」の部分ではCミクソリディアンとして嘯くので結果的に本来のキー=Gmでの第六音はE♭であるのですが、Cミクソリディアンの第3音はE音ですので、ト短調のシャープ・サブメディアント(=ナチュラル6th)として亦々嘯いてくれているワケなんです。
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 「Way Of Life」の樂理的側面で凄い所は、ブリッジ部の展開ですね。ギターとクラビネットがインター・プンクトの様に互い違いに絡んで来る様に、上下の音程から他調方面からの刺繍音を与えて多調的演出を繰り広げてくれます(調性外の二度音程上下から「刺繍音的に」絡まるのですが、多調での対位法的アプローチであるので言葉にも注意して下さい)。


 
 バルトークのミクロコスモス144番の短二度と長七度を弦楽四重奏アレンジに仕立てるとこういう風に発展出来るのだろうか!?とついつい思えてしまったり、私にはココのブリッジ部の展開は弦楽四重奏が似合う曲想だと勝手に思っておりますのでそうした表現になるのですが、ややもするとギデオン・クラインの弦楽三重奏の第一番のアレグロを想起させてくれたりするので、私はついつい心酔してしまうのであります。



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 余談ですが、ギデオン・クラインの弦楽三重奏第一番アレグロの曲開始直後の冒頭では、チェロの旋律がメジャーを醸すフレーズで複調的に表れ、その直後すぐに「等音程」フレーズ(増三和音の分散と完全四度等音程)で揺さぶりを与えているのがお判りかと思いますが、等音程を使い乍ら周囲を「砕く」やり方というのは、この時代の做品でも既に見られる譯でして非常に興味深いと思います。冒頭では等音程等の揺さぶりで最後はGmM9という(G、B♭、D、F#、Aという構成音)マイナー・メジャー9thで終わるという心憎さが堪りません。この曲は私に取ってウォルター・ベッカーやウェイン・ショーターにも通ずる部分を感じ取っているので(その理由となる遠因材料は過去の私のブログをお読みください)、そうした方面をあらためて吟味していただこうかなと思う事しきりです。



 短三和音に長七度を加えるという、いわゆるマイナー・メジャー7thの類では、レンドヴァイ著「バルトークの作曲技法」に於いては「ハイパー・マイナー」と語られておりますが、それにさらに長九度音を付加したマイナー・メジャー9thをごく普通にこうして耳にする事ができるワケですね。聴き所はそればかりではない、もっと高次な側面があるのですが、それは何れ語る事にしましょう。長くなってしまいますので(笑)。今後、ギデオン・クラインも含め、等音程を活用した「砕き方」の一例とやらを再度語るコトにしようと企てております(笑)。

 ギデオン・クラインの弦楽三重奏では、ダニエル・ホープ等も近年演奏しておりますが、YouTubeで見ることのできるコチラも非常に好きであります。YouTubeの方ではヴィオラ奏者であるエンリケ・サンティアゴの姿もありますが、この人の演奏はヒンデミットのヘッケルフォーン三重奏做品47、クラリネット四重奏での演奏で知る事になった方で私はとても敬愛するひとりでもあります。
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 まあ、話はGGからギデオン・クライン、ヒンデミットと飛躍してしまっておりますが、注目してもらいたいのは複調・多調的アプローチとして、あるフレーズに對しての刺繍的なアプローチに加え、既存のフレーズに對して虫がまとわりつく様な等音程からの揺さぶり(等音程そのものは他調由来の音)など、こうした所を今一度興味を抱けるように語ってみようかと思います。


 それと、微分音の理解も今一度高める為にあらためて申しておきますが、オクターヴの分割という古い音楽の歴史に於いて「テトラコルド」という仕組みが出来て、オクターヴ内には2組のテトラコルドを全音忒いとなる様にして(C - F、G - C)構築されており、夫々一組のテトラコルドがさらに細分化されて全音・半音が生じているのでありますが、實はこのテトラコルド登場時に既に四分音の存在もあった事はあまり知られておりません。

 テトラコルド発生時には、幾つかの種類のテトラコルドは全音階的・半音階的・四分音的と3種類に分けられ、夫々が「ドリア・フリギア・リディア」という風に分類されていた合計9種類の体系があり、四分音を生ずる音列にもドリア、フリギア、リディアという性格を与えられていたのは瞠目すべき事実ですが、四分音の導入はすぐに廃れてしまった様であまり語られていないのですが、この辺りは「音樂の物理学」217頁にも書かれておりますので、今一度思い返して欲しい部分です。


 以前にもカデンツの機能を語った様に、増三和音を中心軸システム内で見ると、等しくひとつずつトニック、ドミナント、サブドミナントの機能と成る音を持ち合っている、という事は記憶に新しいかと思います(例:Key in C/Amでの短調のIII度を生ずるCaugという増三和音の中心軸システムでの和音構成音の各機能はC=トニック、E=ドミナント、G#=サブドミナント)。こうした「機能」の分布を、等音程が作った通り道の後にどういう和音を配置して進行すると面白くなるのか!?という側面を踏まえて語って行こうかと思います。等音程の後には複調的コントラストが増すのだ、という先行理解があれば宜しいかな、と。