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2012年新譜アルバム私的ランキング [アルバム紹介]

 扨て、例年こうしてランキングをやっているのでありますが、それまでの過去のランキングと比較して2012年内に発売された新譜というのは、近年の中で比較してもかなりの当たり年だったと思います。


 音楽産業の衰退が各方面で報じられる様になりましたが、それでも売れるコンテンツは売れる物でして、本来ならレコード会社はライブラリを沢山所有しているワケですから、それらがアーカイヴとして流通しない所に問題があるワケです。ところが売れそうにない物というのは物理的な商品にする所にコストがかかってしまう為、それらを思えばまだまだ日の目を見ないコンテンツがあるのは当然であります。

 とはいえ昔の様に宣材にコストをかけられなくなりネットやメルマガやらに頼って、あの手この手でしのぎを削っている各社でありましょうが、大御所やら魅力あるアーティストの力をバネにして新譜に力を入れようと一念発起というパンデミックが見られたのが今年だったのではないかと思います。それがすぐに利益に繋がっているのか!?という下衆な視点は扨て置き、レコード会社の関係者とてまだまだ諦めていないのだという所を感じ取る事ができた年だったのではないかなーと思うワケです。


 私の過去の例年のランキングを見ればお判りになるかと思うんですが、ベスト10として「10枚」のアルバムも「最良」として挙げる事ができない程、お気に入りとなる新譜に遭遇する事は少なくなっていた為、新譜など年間10枚どころか何十枚と買っていても気に入るアルバムが少ないが故に「今年気に入った新譜収録の曲」みたいにランキングしていたワケですが(笑)、今年は曲を挙げる事なくアルバム数をカウントできる程恵まれたという所はあらためて強調しておきたい所であります。


 今後、私が詳悉に語りたいというアルバムもありますが今回は各アルバム寸評に留めておいてランキングを発表したいので、そんなワケで2012年の私的アルバム・ランキングを発表する事に。



10. Love This Giant / David Byrne & St. Vincent
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 本作はネット配信でも結構パワフルに宣伝していましたからご存知の方が多いと思います。無料配信もしていましたからね。なにせアルバム同名タイトル曲は結構叙情的なフレージングを忍ばせ乍らアーバンな香り(=エレクトロ)と有機的なブラス隊の音の絡みが絶妙で、このさりげないブラス隊とエレクトロの絡みが本作は絶妙なのでありますね。チェンバー・エレクトロ的要素のあると言いますか、弦(=ストリングス)は無いものの、ブラス類の使い方が絶妙で非常に興味深かったアルバムです。

9. Weekend in L.A. A Tribute to George Benson / U-Nam & Friends
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 ジョージ・ベンソンを徹底的にカヴァーして、ゲスト・プレイヤーにも名うてのミュージシャンを起用したという意欲作で、ギター・プレイを聴いていてもかなり弾き込んでいるのでプレイヤビリティに溢れた作品となっていて好感が持てました。


8. Fundamental / Andy Summers & Fernanda Takai
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 今年はエレクトロ方面のジャンルもかなりの豊作だったので、このアルバムがこの順位になってしまうというのが実に惜しいのですが、他の順位もそれくらい犇めき合っているのだという事をあらためてご理解いただけると助かります。優し気なエレクトロとでも言いますか、フェルナンダ・タカイが国内盤で唄っている日本語バージョンは実はかなりの出来だったりします。


7. >> / Beak

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 未だに「>>」の部分は何て読んでいいのか判らず(笑)。ハード・タッチなエレクトロ感が実にイイです。特に音響系に拘ったタッチが非常にイイのであります。「音響系」というのがミソで、音像の配置やLFOのスピードや振幅の大きさひとつ取っても拘りが見えますので、神経の高揚感を作用させようとする狙いがあるような少々ドラッグな感じも抱く作品です。


6. Mind Over Matter / Phil Miller | In Cahoots
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 フィル・ミラーの和声感覚は今回も期待を裏切る事はありません。もはやマイナー・メジャー和音の職人です(笑)。録音そのものは2012年ではないのですが、2012年にこうした音に再び会えるという事は貴重でもありますし、リイシューの類でも無いから貴重なのですね。


5. Shape Shifter / Santana
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 「アンジェリカ・フェイス」という、この曲だけで本作の購買欲を高めるには十二分の作品でしょう。大半の人がこの曲のコード進行にヤラれる事でしょう。私もそうでした(笑)。


4. It's Time / Stanley Cowell
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 「エル・スペイシオー」のセルフ・カヴァーをやってくれているのもイイのですが、この人の四度フレーズというのは半音階からの抜粋という、宇宙が特異点から膨張しているかのように、半音階からの「開離」と見立てると、この人のプレイはもっと深く知る事ができるでしょう。半音階の各音程を開離させる事で生じる「隙間」が脈絡であり、そこで生まれるフレージングを唄う様というのはただのインプロヴァイズではなくコンポージングですね。フレーズひとつひとつの情緒の齎し方は凄いです。ジャズしか知らない人だと耳に馴染む聴き慣れた類のバップフレーズが希薄で掴みどころが無いかもしれませんが、この人のフレージングを判らないようでは一生母親のオッパイのすすってろ!と言いたいですな(笑)。もっと宣伝してあげて欲しいですね。「Cosmology」「Krishna」「I Never Dreamed」「We Shall 2」「Abstrusions」辺りを店頭でヘビーローテーションさせてかければ間違いなくもっと売れますぜ、ダンナ(笑)。これらの曲聴いて何も感じない人はジャズ聴くのやめた方がイイですわ、ホント。


3. HBC / HBC (Scott Henderson, Jeff Berlin, Dennis Chambers)
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 大半の作品が、ウェイン・ショーターなどウェザー・リポートや、中にはビリー・コブハムなどのジャズ・ロック系譜の曲をカヴァーした物ですが、コレが正解。やはり彼らこそがこうした難解な作品を「咀嚼」すべきだとあらためて感じさせてくれるモノでして、その「咀嚼」あって漸く気付く人も多いのではないかと思います。是非聴いて欲しい一枚です。


2. Sunken Condos / Donald Fagen
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 楽曲のクオリティと全曲レコメンド&分析した私からすれば1位にしたかったのは山々なんですが、本作を1位としてしまうと、次に紹介するアルバム・アーティストはいつ1位にすればイイのか!?という位素晴らしい出来、且つ過小評価されているので敢えてフェイゲンを1位から引きずり下ろさせていただきました(笑)。フェイゲンは何処でも評価されますからこの座を譲っていただきたい、と。でも全般的に見ても「サンケン・コンドズ」のクオリティは群を抜いております。一般的な目線や耳、という意味に於いても玄人連中を満足させる「毒」の方面でも。


1. Unearth / Grasscut
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 ロバート・ワイアットが参加する本作は、ワイアット御大の参加云々など無関係に特筆すべき出来エレクトロ感溢れるアルバムで、こうした作品がもっと大々的に扱われない所が悲しい側面でしょうかね、と思うことしきり。ネットやらを駆使しようとも物量は大手が占有したりして、結果的にどんなメディアに赴いても大手や声のでかい連中が無意味に声を荒げて占有する様というのはネットすらも情報ツールの手段として活用しきれなくなった(ある意味での衰退)とも言い換える事ができ、宣材にコストをかけられぬ大手がネット活用と先述した所ですが、こういうアーティストに光が当たらないのはどうかと思いますぞ。過小評価され過ぎではないかと。

 1曲目の「Cut Grass」と8曲目の「Lights」は変拍子のエレクトロニカ・ポップですが、あまりに絶妙すぎて変拍子が変拍子と判らない位。この自然な動機というリフの取り扱いはタダモノではありません。そうしたリズム面だけでなく全ての楽節が徒に複雑でもないのに構築が実に巧みで、その後に複雑経路が判るようにしてある所が心憎いですな。マンザネラ、イーノ、スロッビング・グリスル、クラスター、ノイ!、ファウスト、アシュ・ラ等が好きな人には是非オススメしたい一品。嘗ての渋谷系が好きだった人は間違いなく気に入るでありましょう。先のBeakにも実はこうした系譜を感じさせてくれますが、グラスカットの方が唄モノとしての風合いを活かすので広くオススメです。近年のYMOがやりたい事全部やられちゃってる様な音出してます。9曲目の「We Fold Ourselves」のオペラのサンプリングは良いですね。10曲目の「Richardson Road」は涙が出て来るほどですね。近年此処まで私が気に入るエレクトロ方面のジャンルはマルク・コランの「Two for the Road」の風合いにも似ておりますかね。実に良い素晴らしい。女性にもオススメですね。これは子宮でも聴けます。

※ブログアップ当初、私はグラスカットのアルバムを今作から知ったのもあってグラスカットとアルバム・タイトルとの「アンアース」をバンド名とアルバム・タイトルを混同して覚えてしまっていたので、現在はきちんと訂正して掲載しておりますのでご容赦を。



※次の次点4、5のアルバムは本ブログ記事アップ当初は掲載していなかったものの、数のキリが良いことに加えてやはり取り上げておきたい秀逸なアルバムなので追加することに。


次点5. The Soul Sessions Vol.2 / Joss Stone
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 ハードなタッチのギターがあり乍らもウーリッツァーやシンフォニックな音までも配置していて、各楽器の分離が絶妙なので徒に音圧を稼いだ感もなく聴きこめる女性ヴォーカル物でオススメのひとつ。7曲目の「Stoned Out Of My Mind」がこのアルバムの中では一番好きな曲で、スウィング・アウト・シスターを少しハード・タッチにした感じとして聴く事ができるのではないかと思います。曲想も総じて結構多様なのでよろしいです。


次点4. Rewind / Elizabeth Shepherd
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 ブログ内検索をかけていただければお判りになるかと思いますが、私はエリザベス・シェパードの独特のハイパーな和声感覚や研ぎ澄まされた変拍子感覚などに昔から注目しているひとりでして、今年の春先にも彼女のアルバム「Rewind」をレコメンドしていたのでしたが、エリザベス・シェパードという人は一般受けしにくい人だと思います。曲が難解なのもあるでしょうが、今作は自身が出産されたという事もあって従来の「らしさ」を忍ばせつつもカヴァーで優しくアレンジした内容となっている所がミソで、こうした素晴らしい人が広く周知されるには持って来いの時期なのですが、私としてはやはり彼女自身のコンポージングによるアルバムが聴きたいので、今回はこうした番外ランクとなってしまいましたが、今年は他の作品も豊作なので、こうした番外のランクでも相当評価は高いということだけは判っていただきたいモノです。
 特に、過去のエリザベス・シェパードのウェス・モンゴメリーのカヴァー「Con Alma」のアレンジ力を聴けば、その凄さはあらためてお判りになるかと思いますので、そうした下準備があった上で本作「Rewind」を聴いていただければ彼女の深みのある凄さがあらためてお判りになるかと信じてやみません。お勧めです。


次点3. The Continents(協奏曲「大陸」他) / Chick Corea
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 他のパート・アレンジの時間が足りなかったのかなーと思いますが、チック聴きたさなら十二分に楽しめるかと思うものの、ひとたびDG作品として聴くと、チックも風呂上がりのネコの様に見えるモンですね(笑)。


次点2. Renaissance / Marcus Miller
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 先にもバイトーナル和音で引き合いに出したので語りませんが、意外な方面で高次な和音を聴く事ができたという所が好ましかった点でした。


次点1. ぱみゅぱみゅれぼりゅーしょん / きゃりーぱみゅぱみゅ
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 たまたま自宅の茶の間で志村どうぶつ園を観ていたら、BGMに「きゃりーANAN」が掛かっていて、この曲はCMでもやっていたものの番組中のジングルで食い付いてしまい魅了され買ってしまう事に。ガソリンの匂いや重油の匂いが好きな人が食い付いてしまうような感覚と言いますか、駄菓子が有している体によくないけど魅力ある味と言いますか。こんな私がこういう作品に飛びつくだけでも珍しいので(笑)。きゃりーぱみゅぱみゅ本人に入れ込んでいるワケではありません(笑)。