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ウェイン・ショーター/モト・グロッソ・フェイオ(アマゾン河)CD比較 [アルバム紹介]

 2012年11月21日にリリースされたブルーノートのBNLAシリーズ第1弾の当該シリーズ品番の初っ端を飾るアルバムがウェイン・ショーターのアルバム「モト・グロッソ・フェイオ」という、このCD化を待ち焦がれていた方は多いのではないかと思います。まあ今回はウェイン・ショーターの楽理的考察というモノではなく、単純にファン心理としてのアルバム考察を語ろうかと思います。
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 BNLAシリーズ第1弾に於いては実は本作はもとよりウィリー・ボボの「Tomorrow Is Here」もCD化された事で、本当は私にとってはそちらのが方がビッグ・ニュースだったのでありまして、いずれはウィリー・ボボの方も語ろうかとは企てておりますが、私のそんな興奮を和らげられる理由は唯単に既にCDを有しているからなのでありまして(笑)、実は本作は海外ではOne Way RecordsからCD化がなされていたのであります。


 とりあえずクレジットは以下の通りです。

ウェイン・ショーター
ジョン・マクラフリン
デイヴ・ホランド
ロン・カーター
ミロスラフ・ヴィトウス
チック・コリア
ミシェリン・プレル


 とまあ、こーゆークレジットを見れば自ずと凄さを実感できるかと思いますが、いかんせんショーター御大の音楽語法は、その辺の名うてのジャズ語法をも軽く超越してしまうアプローチを備えていて解釈が難しい所があるため、一部の近視眼ジャズ・ファンの連中からはキワモノや変わり者っぽい音楽として受け止められてしまい、クセの強い音楽として避けられがちな向きがあるのも確かではありますが、楽理面では本質を捉える事ができない乍らも彼らが朧げに感じ得る共通する所というのはおそらく、他の参加アーティストがショーター作品の中で萎縮するかのような、のびのびとプレイされる事が少ないから一部の人間は過小評価するのだと私は思います。

 寧ろそれは、のびのびというよりは常に緊張感が漂っていて、もはやそれは他人様の家にお邪魔して足を崩す事も許されぬ様なアウェー感が色濃く出てしまうのはショーター作品には多くある事です。ドラムを除けば他のパートはいつもとは違う雰囲気を醸し出すというのが多くの共通する見解ではなかろうかと。


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 ショーター御大のもうひとつのブルーノート作品である「Odyssey of Iska」収録の「De Pois Do Amor, O Vazio(After Love, Emptiness)」はショーター作ではありませんが、他者作品の方が他の奏者はやりやすい様な表現すら感じ取れてしまう皮肉な側面もあります。そうです、ショーター作品は取り扱いが難しいのであります(笑)。おそらくそれはプレイヤー・サイドも同様の思いを抱かれていたのではないかと察します。


 ウェイン・ショーターの語法は追々語る事にしますが、特徴的なのはジャズがモード化されてなるべくなら煩雑化するかのようなキー・チェンジを回避して少ない調域で音楽を串刺しして演奏しようというのがモード・ジャズの試みの中にあって、想起し得るモードと別のモードを併存させるのがショーターの最大の特長なのですな。

 モード・ジャズはブルーノート4100番台辺りではかなり体系化が進んでおり、誰もが共通理解をする様になっています。聴衆の中にはモード・ジャズの新しさに心酔している者もおりますが共通理解が齎す「予定調和」も生まれつつあるのも事実。但し、その辺のお兄ちゃんがマイナー・キーを総じてドリアン充てて悦に浸る様なおバカなプレイにしてしまうような予定調和とは異なり、予定調和を見抜く事も難儀するのが当時の演奏の実際でもあるワケで、「なーんだ、4100番台以降って大した事ないやん!」などと決して思わない様にして下さいね(笑)。


 モードの共通理解という事は、概ね皆が描いているモードはマイナー・キーで例えるなら、そのまんまマイナーの姿か、ドリアンとしての嘯く姿かのどちらかであるというのが一つの共通理解でもあります(これだけではありません)。ショーター御大の場合はここにもうひとつの世界があると思えば宜しいでしょう。それは追々私のブログで語って行きますので、今回は単純にファン心理の側面でアルバムを語る事にしましょう(笑)。


 扨て、「モト・グロッソ・フェイオ」というのは先述にもある通り、海外ではCD化がされており、中古市場では比較的レア盤として扱われていたもしておりました。一部の近視眼ジャズの人はチック・コリアがピアノじゃなくてマリンバ弾いてるのが気に食わない人も居たりするのでしょうが、概ねこーゆー人達がショーター御大を過小評価してしまうモノですからタチが悪いったらありゃしないのでありますね(笑)。
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 今回のCD化で最も気になる点は、BNLAシリーズは総じて24bit 192kHzリマスターであるというのが結構興味をそそるのでありますな。


 EBU R128やらのラウドネス・コントロールが整備されるまでの音圧競争に辟易している音楽ファンの中には「どうせまたなんちゃってリマスターなんだろ!?」とか「SHM-CDとかBluスペックとか、あんなキャッチコピーには唾棄したくなる!!」とか怒りの声が蔓延していて私の周囲でもそういう話題で花を咲かせる事があるモノです。そうです。RVG盤ですらこき下ろされておりましたからね(笑)。怒り新党で是非やってほしいテーマのひとつでもありますね(笑)。

 私もそんなリマスター部分のスペックは頓着する事なく「CD化されただけで充分」程度に身構えていたモノでしたが、今回のリマスター、よもや999円で売られているのが驚きな程非常に良いというのを断言しちゃいます。

 そのリマスターの良さと旧盤(=One Way盤)との比較をするにあたって、今回私が最も注目した曲が2局目の「Montezuma」。One Way盤の方ではこの曲に限らず超高域までの伸びはそれこそ22.05kHzの深淵まで伸びている類の物で、リリースから結構年月が経つCDでデジタル録音の方法論も色んな方法が模索されていた中で、こうしたDDコンバートをやってのけていたのは恐れ入るばかりなんですが、こうした限界ギリギリまで伸びている類の音は実は弊害の側面もありまして、DACが優れていないとノイズ・シェイピングをきちんとしてくれないので折り返し周波数付近の音がエイリアス・ノイズとして実音方面に跳ね返って来る事も。

 これは、幾らデジタル信号が緻密な量子化によって周波数帯を細かく計算しているとはいえ、音波が合成される時(ギターやシンバルとか)というのは「合成波」として基音や倍音部分以外の周波数のスペクトルにも影響を及ぼすのでありまして、仮に10Khzの音が作用していたとしてもピンポイントに10kHz部分だけが音量に現れるのではなく、10kHz周辺の広範囲に渡って合成波というのは作用するのでありまして、DACが安価である場合、こうした合成波に対応できないため結果的に再現度も低まりエイリアス・ノイズとして変換されてしまったりもするワケです。


 安価なPCの類にはこうしたDACが搭載されており、WindowsというOS標準に搭載されているアクセサリ「レコーダー」にある通り、エイリアス・ノイズをカットするという処理はOSレベルでは皆無です。これを逆手に取ってサンプルレート周波数を8kHz位まで低めてエイリアス・ノイズで「汚して」わざとデジタル・エフェクトを施してローファイ系の音にしたりと色んなテクニックもありましたが、ASIOを使わない限り標準ハードとソフトだとPCはおろか安いDACを搭載している類のモノだと、先の様な音源では返って解像度が悪くなったりする事があります。

 翻って今回のBNLAリマスターはどうなのか!?というと、超高域は21kHzでスパッと切れてはいるものの、21kHzまで行けばかなりイイとは思いますが、驚くべき点はキワまで伸びていない音源ではあっても、解像度が全然違うと思わせるほどのコシのある音なのであります。


 それらの音の違いを明確に聴き取る上でも、先の「Montezuma」はとても良いチェックにもなる曲でして、曲冒頭のドラムのライド・シンバルを比較するだけでも如実に違いが判ると思います。

 One Way盤のそれではライド・シンバルは少々フォーカスが細く、スティックのチップが当たる周波数帯(=低い方)までの音が所々スポイルされてしまって聴こえるかのような粒状感すら抱いてしまう様な感じなのですが、私はBNLA盤を聴くまではコレでも充分満足しておりました。ところがBNLA盤でのライド・シンバルは、チップが当たるというよりも本当にコツコツと鳴り響いている様が如実に判り、距離感がグッと近くなった位フォーカスが向上していて、これは他の楽器にも言える事ですが、距離感は近くなり、各楽器との分離感とコントラストがより一層明確になっているんですな。コシの強さを秘めているライド・シンバルのそれはBNLA盤の方が上まで伸びているのではないか!?と逆に錯覚に陥るほど違いがお判りになっていただけるかと思います。勿論ショーター御大の息づかいも物凄くリアルでして、今回の24bit 192kHzリマスタリングはかなりの出来だと私は思います。

 まあOne Way盤との若干のジャケ違いを確認していただくとしますが、BNLA盤、価格が安いとはいえ侮れないシリーズです。RVG盤など不要なのではないかと思えるくらいです(笑)。
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