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幻想即興曲を用いたコンサート・ピッチとリバーブの取り扱い一例 [DAW]

 ツイッター上でとあるフォロワーさんとのやり取りで旧来のコンサート・ピッチの事を呟いていた為、今回はそうしたコンサート・ピッチの話題も含めてどれほどの差異感を生じるのか!?という事を語って行こうかと思います。 話題にしていたのはショパンとリストの時代です。この時代のフランスでの基準ピッチは432.4Hzだった様で、現在のコンサート・ピッチ=440Hzと比較すると≒30.16セント程低い音となります。ほぼ1六分音と言って差し支えないでしょう。

 そもそもコンサート・ピッチは時代のそれとも各国でも曖昧で、現在の様に440Hzを基準になったのは第二次大戦の頃なのであります。コンサート・ピッチが高く推移して来た理由のひとつに音の張りが伴う事で、軍隊の隆盛に伴う影響下で音量や迫力を得るための物だったというワケで、吹奏楽器は特に軍隊の隆盛と共に進化して行ったと言っても過言ではないでしょう。


 因みに、先日取り上げた原田知世の「ハンカチとサングラス」は442Hzの様ですが、近年のDAW環境を伴う類の音楽ではほぼ間違い無く440Hzというのが一般的で、これはシンセ類の調律ステップがそれほどきめ細かく設定できない事に加え整合性を保つためにも440Hzで一貫していた方が他の楽器にも影響を及ぼしにくい事からこうしたコンサート・ピッチを選択する理由のひとつになっているかと思います。442Hzや443Hzに設定しようとしてもハードウェア・シンセの中には小数点のステップ幅が粗く、設定しようとしても飛び越してしまったりする物が多いという意味においての「粗さ」です。

 例えば他にも、Logicではアプリケーションが総括してコンサート・ピッチの上げ下げを行う事はできますが、これに追従するのはLogic同梱のプラグイン類だけで他のメーカーでは追従したりしません。EXS24を使っていれば追従しますが、Kontaktを併用しているとKontaktの方ではLogicのそれに追従せずKontaktの方でピッチを変更してあげる必要が出て来るワケですね。MIDIメッセージにおいてコンサート・ピッチは定義されているものの、ホスト側のアプリケーションやハードがMIDIで定義するよりももっと高精細だったりする時はMIDIに倣う必要性はなく、或いはコンサートピッチなど弄る事のできないハードウェアもあったりするワケです。


 まあ、MIDIメッセージに伴うコンサート・ピッチの取り扱いの注意点やらをこのように挙げつつ、今回はホスト・アプリケーションにLogic、サンプラー・インストゥルメントにKontaktを使って2種類のコンサート・ピッチで再生したデモを聴いていただく事に。

 デモそのものはショパンの幻想即興曲で、ピッチは432.4Hzの物と440Hzの物を2種類用意しました。音源にKontaktを選んだ理由はNIのAkoustic Piano用に出ているベヒシュタインのピアノを使いたかったからなのであります(ショパンと云えばベヒシュタイン)。また音源にAkoustic Pianoを選択せずにKontaktで読み込ませている理由は、Kontaktで読み込ませてからステレオのパノラマ・イメージを弄るのがAkoustic Piano後よりも弄りやすいからです。ステレオ・イメージを弄っているのは奏者視点の定位を左右反転させて聴衆視点にしている点とパノラマ・イメージの偏りをDirection Mixerで補正しています。この「補正」はマストな物ではなく、演奏される音域から生じる大局的な左右の偏移バランスを考慮したモノで徒にパノラマ感を弄っているワケではない編集です(笑)。

 また、このデモにはIRリバーブを用いていて、インパルスにはKontaktで使われるホール系のIRプリセットを44.1kHzから96kHzにリサンプリングしたIRファイルをSpaceDesignerに読み込ませております。プリ・ディレイは91ミリ秒で、840HzにHPFを6dB/octのスロープにて通しております。

 最後に僅かなリミッティングとEQを施しておりますが、これらのエフェクトは全て432Hzのデモ用に編集した物を440Hzではピッチだけを変更してエフェクトは全く432Hzの方と同一にしております。ピッチが変わる事で実は音そのものが変容する事も感じ取っていただける事でしょう。


 432Hzのデモに於いて私が先のエフェクトにてとても注力した部分が次の譜例の部分の3拍目の右手パートの最高音であるH音の所。コレは実際には27小節目に相当する所で、デモの方では0:42~0:43秒の所の部分です。このフレーズは曲冒頭7小節目とほぼ同じですが、ペダル使いが若干違います。譜例は勿論27小節目を指しております。
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 どのように注力したのか!?というと、27小節目の3拍目「H - A - Gis~」と続くフレーズのH音のハンマーの音の「コツコツ」とした感じが印象に残るようにEQを施しています。もちろんこのH音だけに作用するような狭いQ幅のイコライジングという意味ではなく、そこを巧く鳴らせる様なイコライジングという意味合いです。この音の基音を基準にしてイコライジングをしてしまうのは早計です。

 またリバーブにおいてもH音からGis音まで下行する3度音程の部分は基本的に明瞭になりやすいのですが、その間に生じるA音というのは埋もれやすくなります。この「A音」が埋もれないようにするリバーブの深みを緻密に弄るのがテンポの変わらない音楽でしたらオートメーションにて弄ればイイのですが、こうしたクラシック音楽は音響の在り方というのも奏者は感じ取ってテンポの変更に依って音を埋もれないようにしたりして音楽を弄ってきますので、このデモの曲中のテンポ変化に依る最もA音が埋もれないリバーブの深さとセッティングとプリ・ディレイの在り方と、その直前のH音のハンマーの音の際立つ僅かなイコライジングの作用というモノを私は注力しているというモノでありまして、それが27小節の3拍目という事で今回譜例にしているのであります。


 こうした注力部分を440Hzのデモでも同様に聴いていただくと、440Hzでのデモがどれほど先のエフェクトでは適合していない物かというものがお判りになるかと思います。リバーブの深さやらEQも先と同一のセッティングですが、二度音程の連なりは淀んでしまうかのように埋もれてしまい、埋もれた残響が音像そのものを太くしてしまい音圧感は増すものの濁り感が出て来てくすんだ感じがでてきます。ピッチそのものは高いので音そのものに明瞭感を感じる筈なのに音が変に太くなっているアンバランスな音に聴こえてしまうのがお判りいただけるかと思います。


 リバーブのプリ・ディレイが91ミリ秒って長過ぎじゃねーの!?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが決して長いモノではありません。今回の私のデモを聴いて不自然だと思われる方はご自分の方法論でやり方を探るべきだと思います。私の例がお手本というワケではありませんので。