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ベース信号のパラレル出力 [DAW]

 扨て今回はエレクトリック・ベースでの音作りのひとつとしての「パラ出し」という方法に拘っていこうかと思います。ベースに限った事ではないのですが、エフェクトを介在させる際にはどうしても避けては通れぬ「位相の乱れ」という事に直面します。勿論この「乱れ」という物も、その語句そのものがネガティヴな印象を受けてしまいがちなので「位相が変わるなどけしからん!!」などと近視眼的に怒りのスイッチが入ってしまう様な愚か者も居たりするのでタチが悪いのですが、そもそも「好意的な位相の変化」に耳を傾けるべきなのであります。


 イコライザーにしたって立派なエフェクトのひとつなのでありますが、色んな可聴帯域を弄ってはいても、回路には特定の周波数範囲の音質変化が得意なものなど特性というモノがありまして、帯域毎に異なる回路(=コンデンサー)が使われていたりします。コンデンサーとは蓄電なので、ほんの僅かな時間蓄えているによって他の帯域との僅かな遅延が生じます。この位相差が特定の周波数の周期に作用する様な遅延差が生じている事でスポイルしたり或いは強調し合ったりして音色変化があり、イコライザーが特定の周波数コントロール以外の部分でも僅かな音色変化や差を生むのはこうした回路の特性に依るモノです。

 マイクでもダイナミックやらコンデンサー型がありますが、コンデンサー型に使われる類のコンデンサーはコップに水がなみなみ注がれていて表面張力すら起こしている様な所に、僅かに水滴を垂らしてこぼれる水を信号として拾っているタイプの蓄電のタイプで、他にもコンデンサーはコンビナートのような大きな容器に蓄えてから放出するかのようなタイプのコンデンサーもあったりします。いずれにしても遅延差は生じているワケです。

 デジタルエフェクトといえども回路のシミュレートを意識している物は総じて遅延差を生ずるこうした回路の特性をシミュレートしない事には「クセ」を生み出せないモノなのでもあります。


 扨て本題に入りますが、ベースという楽器は大胆なエフェクトを掛ける事は比較的少なく、素材を活かした音作りの方が多いと思いますが、生の音に拘るが故にエフェクトを介在した時の生の音との差異感の大きさという物は概ね「コシ」という部分を強く意識する筈で、コシが失われている様な類の音は途端に音が細く感じるかと思います。こうしたシーンに於いて絵顕著なのは、基音を含む低次の倍音に対して音色変化が作用してしまったため低域のスポイル感として表れている事であり、これは何もギターだけでなくどんなソースに対して掛けるエフェクトに言える事なのですが、低次の音を損なわないがためのエフェクトの方法が「パラレル出力」なのであります。


 前回レコメンドしたザ・フュージョン・シンジケートの3曲目「Molecular Breakdown」でのビリー・シーンが参加している曲の音など最たるモノで、ああした歪みを得乍ら基音をしっかり出しているのはパラ出しに依る物である事は疑いの余地はありません。最も重要視すべき点はパラ出しに於いては「オーバーラップする周波数帯域」の取り扱いが重要なのです。

 例えばベースの信号を2本にパラ出しする際、ひとつは500Hz以上カット、もうひとつが500Hz以下をカットとした場合、この方法だといずれも同じ基準周波数から分断させておりますが、これだと実は基準とした周波数周辺がスポイルしてしまう事があります。だからこそ「オーバーラップ」させる妙味が必要となってくるのです。


 例として今回の図を見ていただくと一目瞭然ですが、「1」の信号では500Hz以上をカットしていて、「2」の方では330Hz以下をカットしています。つまり、330Hz~500Hzの間の周波数はそれぞれが持ち合っている為、オーバーラップが生じている事になります。
Bass_Parallel.jpg


 オーバーラップを施した際にもうひとつ重要なのは、「2」の信号は低次側の信号はカットしている事で基音や比較的低次の倍音に深く作用しない帯域となっている為、こちらの帯域の位相を反転させる事で生じる音質変化をも視野に入れる事が可能でもある、という点です。位相反転はマストではありませんが、方法論のひとつという意味です。


 でも、どうせ歪んだ音でのパラ出しの例でしょ!?と思われてしまう方もおられるでしょうが、コレは歪んだ音専用ではなく、指弾きだろうがピック弾きだろうが、それこそスラップでもクリーンな音での音作りにフルに活用できる方法なのです。

 歪み系のエフェクトをベースに直差しされた方ならお判りになるでしょうが、エフェクター単体がパラレルに対応していない限り、基音や低次倍音のシェイプが歪みというステップによってシェイプを変えられ細められてしまうため、そうした細くされてしまったシェイプは高次な倍音のシェイプの断片にも似通ってしまったりする事で、意図せぬ高次倍音ばかりが目立つようになり、軈ては歪みはどんどん大きくなり基音や低次倍音は痩せ細って行くという音色変化は生ずるモノですが、パラ出しでの歪みというのは、先の図で言えば「2」の信号側でサチュレーションを増幅させるという意味ですので、こうしたパラ出しを施している場合直差しよりも歪みコントロールを深く掛けても天変地異を起こすかのような歪んだ音とはならずに自然にサチュレーションが増幅していく様を体験できるはずです。


 歪んだ音ですらこうしたナチュラルな歪みを演出できるワケですから、クリーンな音作りの場合は僅かなサチュレーションは音艶の演出の為に活用できるというワケです。そうした前提で周波数をオーバーラップさせ乍ら、図での「2」の信号において位相反転を試すと、オーバーラップしている周波数にも依りますが、ローカットしてしまうようなスポイル感はなく、高次の倍音の干渉と狭い周波数のスポイルによって生じたメリハリがエンハンサーの様な効果が働き返って高次倍音がギラついてくれる効果も感じ取る事ができる事でしょう。


 今回私が披露するサンプルは2小節のスラップ・リフを18小節の尺でループさせつつ、図での「2」の信号側のカット基準周波数をオートメーションにて「130~330Hz」の間をゆっくりリニアにスイープさせて音色変化させているという例です。つまり、18小節の間にゆっくり「130~330Hz」動かしているのでありまして130Hzの時だとオーバーラップされる周波数帯域は最も広く「130~500Hz」がオーバーラップする事となります。

 そしてもう1回18小節の尺の方では「2」の信号を位相反転させた物で先のオートメーションの推移は全く同一というデモとなっております。デモ自体はとてもベタなリフですのでその辺りはご容赦を(笑)。

 「2」の信号で推移する「130~330Hz」間での帯域は、たった200ヘルツという狭い帯域に思われるかもしれませんが、この200ヘルツ間ですらこれだけゆっくりリニアにスイープさせてもコレだけの音色変化を得られる事に注目していただきたいワケであります。このオーバーラップの帯域をお好みで弄る事で色んな音作りができる事でありましょう。因みにマーカスミラーは「1」の信号をアンプだったりラインだったりと使い分けているようです。このオーバーラップを巧みに使い分けると、マーカス・ミラーなら「S.M.V.」で聴かれる類の「コシ」のあるフォーカスが凛と定まったような音を得る事ができるでしょう(笑)。あのアルバムでのマーカスはトランジェントも弄っていると思われますが。