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The Fusion Syndicateのクレジットに驚く [アルバム紹介]

 扨て、今秋リリースされた「The Fusion Syndicate」という企画アルバムは、ビリー・シャーウッドに依るモノで、そこにプログレ界隈やジャズ・ロック系統の人脈に加えて、更にフュージョン・シーンを代表する人材をも活用して繰り広げられる音世界だというモノで、まあクレジットを見ても驚かされるメンツで、嘗てのスティーリー・ダンのアルバムに名うてのミュージシャンの名前を幾つも見付ける事ができたかのような豪華なクレジットとなっているのであります。
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 曲は全曲ビリー・シャーウッドに依るもの。ハッキリ言うと、この人の作曲能力の非力さが全て(笑)。軽自動車にF1専用の燃料を入れて走る様なモノで全く見合ってないアルバムになっているのが残念な所。各プレイヤーに耳を傾ければ納得いくプレイをしているものの、曲としての統率感が希薄。特にインタープレイやインプロヴァイズを得意とするプレイヤーに於いてはテーマ部においてテーマそのものが希薄なため良さが活かされておらず、オーバー・ダブを重ねたDAW宅録と思しき、各ミュージシャンが自身のトラックのゲインを0dBレベルまでゲインを稼いでしまったがための蓄積でレベルが飽和するのを逆ノーマライズで処理してしまったかのようなのっぺりした音に加え、リバーブの深い時代錯誤に近い音像に折角の各プレイヤーのキャラクター溢れる音も埋没してしまう程の全体像に驚きです(笑)。

 結論を言ってしまえばこのアルバムは各プレイヤーを聴くための存在で、よもやこういう音を逆に「良い音」と感じてしまって、それこそドナルド・フェイゲンの「Sunken Condos」のようなアナクロニカルな音の方を悪い音だと誤認する様な愚か者がおそらくは居るのではなかろうかと危惧してしまう私でありますが(笑)、食い付きやすい素材が総じてイイ物だとは限りませんからね。サブカルが好きな人はサブカルをベタ褒めしてしまうでしょ!?そういう盲信的要素を孕んでしまっているアルバムであるので物事を余り知らないお子ちゃまがついつい背伸びして手に入れやすい所で手に入れたこのアルバムで全てを知ってしまうような勘違いはして欲しくないと思わんばかり。ひとりの女で童貞を捨てて「知ったつもり」になってしまうような愚かな行為はやめてほしいモノ。ただのコレクター・アイテムのひとつでしかなく、本アルバムの評価は5つ星中星ゼロです(笑)。まあ2、3曲は聴いていてガマンできる、ソコソコなのはありますけどね(笑)。
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 クレジットをスキャンしてみましたが、ビリー・シャーウッドは全曲に関わっていて、クレジットに各曲に明記されていない楽器はシャーウッドに依る物と理解してよさそうです(笑)。でもまあ、今の時代よくもまあコレだけのメンツを揃えたモンです。


1.「Random Acts Of Science」
Key:リック・ウェイクマン
Vn:ジェリー・グッドマン
Sax:ニック・ターナー
Bs:ジミー・ハスリップ

 リック・ウェイクマンのメジャーとマイナーを交錯するピアノのフレーズはその後少々ラヴェルっぽさを感じる所があるものの、曲の彩りを付けるには申し分無いプレイではないかと思います。ジミー・ハスリップ(=ヘイスリップ)はしかしイイ仕事してますね。音がイイです。特にウェイクマンのソロが終わりかけの所は音量レベルも上がって来て、ミックスも判ってますね。

 音を聴く前は、ヘイスリップやヴィニー・カリウタ等が組んだユニット・バンドであるJing Chi(=ジン・チ)の様な音を想像していたのですが、ハードなフュージョン路線というよりも、テンポが緩めでヘヴィネスを備え乍らもテンポで聴きやすさを備えるというのはこの曲に限らずアルバムを通した音作りになっている様ですが、80年代中期~後期を思わせるリバーブが深めの音で、音が結構コンプレッションされている為、ホントは私の好きな音像ではありません(笑)。全体的にコンプレッションが強くノッペリ感があるのは勿体無い中で、各奏者はどうにか遊ぼうとしている様は見て取れますが全体的に曲の構成が甘いですね。リフ構築が希薄なのでコアな楽句のリズムに頼る位でしか発展できていないのが曲全体において曲の印象を薄めてしまっているのが難点かな、と。また奏者も楽曲に対して理解が深まらない様子が伝わって来るので、曲の尺に追われている様子が伝わって来るのでありますが、その中でもこの曲は結構良く出来ている方です(笑)。

 ジェリー・グッドマンはZETAのエレクトリック・ヴァイオリンでしょうか。何にトリガーさせているのか判りませんが、ダッキングさせる様にしているので逆回転サウンドっぽい急峻な音量変化のギミックを演出しておりますね。こうしたギミックすら曲のノッペリとした情感にかき消されてしまいそうな理由のひとつに、楽曲の展開にメリハリに欠けているというのが大きいと思います。先述した様にこれはこの曲に限った事ではないので勿体無いのであります(笑)。とはいえジェリー・グッドマンというとヤン・ハマーとの作品をついつい思い返してしまうのでありますが、2人の共同名義のアルバム「Like Children」にはその後のジェフ・ベックの「ライヴ・ワイヤー」でも演奏されていた「Earth(Still Our Only Home)」も収録されていたりするので、ご存知の方も多いかと思います。そうした時代を遡る事のできる名前を確認する事ができるワケですね。
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 曲の一番最後のフェード・アウトしていく時はシンベのビット落としによるダーティー・エレクトロ感のある歪みが施されておりますね。曲全体がレイト80sっぽい深めのリバーブが効いてますのでこういうギミックは逆にメリハリがありますね。全体の聴き所は、曲中盤のジミー・ハスリップのダブル・ストップ以降のブレイク辺りが真骨頂だと思いますが、結構抑え目だと思います。


2.「Stone Cold Infusion」
Lead G:スティーヴ・スティーヴンス
Key:ジョーダン・ルーデス
Sax:メル・コリンズ
Bs:コリン・エドウィン
Ds:ビリー・コブハム

 この曲の冒頭のギター・リフの鮮明さは良いですが、サックスが入って来るとモロにシンセのハードウェアROM内蔵と思しき、それこそ二昔程前のローランドのシンセ販促品に使われたエリック・パーシングの世界観すら感じてしまいまして、こういう曲は本アルバムに幾つかあったりするんですが(笑)、その中でもビリー・コブハム御大のスネアの音の素晴らしさは心地良いですね。しかし重心の低い音のキックがこのアルバムの音作りでは返って裏目かなーと個人的には残念な点。ベースの音もヘイスリップの音よりも際立っているのが良いですね。ただ、タッチの違いで音を作っている感があるのはやはりヘイスリップ先生の方に分がありますね。これはベース個体のキャラクターで持っている音。


3.「Molecular Breakdown」
Key:デヴィッド・サンシャス
Sax:ジェイ・ベッケンスタイン
Bs:ビリー・シーン
Ds:ゲイヴィン・ハリソン

 オーディエンス視点のドラムが良いです。特にハイ&ミドル・タムの音が実に良いです。加えてスネアの音が絶妙でEQのリジェクト具合が絶妙です。ハイ・タムとのメリハリがあって良い音です。5分48秒以降のアンサンブルはジャズ・ロックを感じますね。皮肉にもアルバム全体で、このメンツでのこの曲が一番ジャズ・ロックを感じるのが(笑)。というか予想に反して非常に良いプレイしているという意味なんです。

 B7sus4 ->  E△/D△ -> B♭6(9) -> Fm7(9、11) ~というブリッジでもジャズ的語法ではないのはビリー・シーンのフレージングを聴いていてもそうですし、他の奏者もジャズ/フュージョン界隈の音使いとは異なる物で、モードの想起ではなくコード・トーンに倣ったフレージングである所が返って新鮮ですら感じたりします。とはいえそうした音にあってもコード進行そのものが脈絡に希薄なモノであるタイプなのでジャズ的アプローチだと初見でもある程度展開の読めそうな物に聴こえるモノですが、これにはそうしたアプローチから読めないのが返って功を奏してコードのひとつひとつを凝視してしまうかの様なスリル感を備えているのも特徴でしょうか。ホールズワースのコード進行も似たようなスリル感を感じる事がありますが、私のこの表現にどれほど真意が伝わるのか定かではありませんが、ご容赦を(笑)。



4.「Particle Accelerations」
Lead G:ラリー・コリエル
Key:デレク・シェリニアン
Sax:エリック・マリエンサル
Ds:チェスター・トンプソン

 チェスター・トンプソンのキックのヘッドをベタベタに低くチューニングした音を感じつつもボトムを高く張っているからでしょうか。地を這う様な重心の低い音ではなくフォーカスがくっきりとしている点はビリー・コブハム御大とは実は対極をなす音作りですね。
 アルバム中私はこの曲が最も好きな曲でありまして、ラリー・コリエルらしさが出ているかと思います。個人的な要望としてはラリー・コリエルにはステレオ・ピックアップを用いて左右にパンを振った音で演奏して欲しかったと思います(笑)。各弦にパンポットが付いてるアレです(笑)。


5.「At The Edge Of The Middle」

Lead G:スティーヴ・モーズ
Pf:ジム・バード
Tp:ランディ・ブレッカー
Bs:パーシー・ジョーンズ

 まるでスムース・ジャズの様な曲で、アーバン・ナイトを思い出してしまいました。スティーヴ・モーズの2度目のソロは良いですね。情緒が深過ぎる曲の為、キーチェンジの豊かなブリッジにメンバーの多くがやりやすそうに注力される所が皮肉ですな(笑)。このメンツなら目ェつぶっても歩ける位の調性直視したような曲想だと返ってメリハリなくなっちゃいますよね(笑)。そもそもこの曲に限らず全作シャーウッドの曲というのが目をつぶらなくてはいけない所なのかもしれません(笑)。ベース弾きの視点で言わせてもらえば、ベースにパーシーらしさを感じる所は無いのが残念な点でしょうか。


6.「Atom Smashing」
Lead G:ジョン・エサリッジ
Hammond & Syn:トニー・ケイ
Ds:チャド・ワッカーマン

 冒頭のSE音はおそらくギターのピッチ・シフトに依る物だと思うのですが、ワッカーマン先生、かなりキックが後ノリで引き摺り感が凄いですね。オーバーヘッドの音をもっと出すとチャド・ワッカーマン独特の音になるんですが、そういうノウハウは本アルバムでは排除されておりますね。

 エサリッジの音はクリーンと歪んだ音をパラって出してますね。音も相まってギターが入るとホールズワースっぽさを感じるも、これはシャーウッドの曲(笑)。なんでココでホールズワースの話題が!?と思われるかもしれませんが、ハーヴェスト期ソフト・マシーンにおいてホールズワースの後釜ギタリストとしてホールズワース本人が推薦したのがジョン・エサリッジだったのであります。勿論ジョン・エサリッジのキャリアはダリル・ウェイのバンドである「ウルフ」(=ダリル・ウェイズ・ウルフ)でも知られていたワケでありますが、この人のカッティング・ストロークの速さやグリッサンドに聴こえてしまうような高速ピッキングは特筆すべきものでして、実は本曲でも曲終盤などは流麗な音をそのまま聴き流してしまいそうな位、小難しい事をカンタンにやってのけているので耳を凝らして聴きましょう(笑)。

 余談ですが、コレを機会にジョン・エサリッジについて今後語る予定なのですが、ツイッターの方では既に呟いておりまして、エサリッジとリック・サンダースに依るユニット「2nd Vision」での「Putting Out The Bish」の解説をしていこうかな、と画策している所であります。アルバム発売当初は「First Steps」というタイトルで名義が「2nd Vision」だったのですが、21世紀に入ってのリマスター以降では名義がエサリッジ&サンダースでタイトルが「2nd Vision」になっている所にプログレ界隈の小ネタとしては知っておきたい所であります。


7.「In The Spirit Of...」

G:スティーヴ・ヒレッジ
Key:スコット・キンゼイ
Sax:セオ・トラヴィス
Bs:ジャスティン・チャンセラー
Ds:エイサフ・サーキス


 これもシンセのROMに入ってそうな曲(笑)。一番やっちゃイケない感じの曲。唾棄したくなるフュージョン・サウンド。抱きしめたくなるメロウなフュージョン・サウンドだって私は唾ペッペしたくなるモンですけどね(笑)。でもブリッジ部でそれ迄の展開とは打って変わった「違和感」を備える所が普通に良くなるのだから、メロ部はホントにセンスないですな。シャーウッドの曲は。「違和感」というのは曲の調性やらが大きな要素だったりしますが、つまり終始調性が読めてしまう様な予定調和の音というのは聴いていてつまらないモノなんですな。どんなジャンルに限らず。そうした一定の調性感に埋没してしまう本テーマの長ったらしい展開が続くのは、曲の気だるいテンポ感とリフの希薄な所に起因しているかと思われまして、そこでメリハリが付くのがブリッジ部だというのがとても皮肉な所ですね。

 唯、この曲はアルバム全体を見渡しても最も「デッド」な音像なんですが、それは徒にベースが低域を稼いでおらず巧い事ローカットしているからでもあるでしょう。ダブル・ストップを多用している事で音が曇らない様な配慮が功を奏した、と。サックスのメロディ部はホントに避けたい所なんですが、その後のパターンでのブリッジはイイですね。でもどことなくGRPっぽい音(笑)。

 アルバム全体に渡って、聴き所というのはテーマ部ではなくブリッジ部です(笑)。そういう所に目をつぶりつつも作品の質は楽理的に語る所はありません。多少奇異に聴こえるようなブリッジや展開があってもコレくらいは誰もが理解できる響きですので、敢えて語る必要はないかなと思うワケでして、となると、聴き所は各プレイヤーの演奏になってしまうのですが、楽器のテクニックに食い付くだけの聴き方というのは今の私には出来ない聴き方ですので、この手の音でも慣れてしまっている層からすると曲の惰性感の方を感じてしまうのであります。スティーヴ・ヒレッジのステレオ感のあるクリーン・サウンドは結構凝ってると思うんですが、他のプレイヤーがそれをかき消すような音とアレンジに(笑)。