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ヴィニー・カリウタ再考察 [ドラム]

 先日、ツイッターでも呟いていたヴィニー・カリウタに依るジョン・パティトゥッチの1stアルバム収録の「Baja Bajo」のイントロのドラム・フィルの譜例を今回あらためて取り上げる事にしたのは、アクセス数も好評の様なのでブログとして掲載しておいた方がいいだろうと思ったからであります。結構前にも語っていたことがあったんですが、その時は譜例を用意していなかったのでモンでして。


 ジョン・パティトゥッチの1stは楽曲クオリティもかなり高いので再発も何度か繰り返し行われておりますが、当初のリマスタリングの焼き直しなので、近年のリマスター音源が無いのが少々残念な所。とはいえこのアルバムは結構リファレンス的に聴くにも充分な程アルバム全体に渡ってアンサンブルの音が良く録れているアルバムなのでオススメでもあったりします。
Patitucci_1st.jpg


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 譜例をあらためてご確認いただくと、そのプレイの凄さはお判りになるかと思いますが、やはり付点16分音符のタイム感、コレに尽きます。カリウタ本人にしてみれば32分音符の裏も平気で意識しているので、こういう感覚を磨くにはアラ・ブレーヴェの感覚を徹底的に研ぎ澄ませなければならないと私は信じてやみません。四分音符のテンポで言えば240~360位まで研ぎ済ませられれば大丈夫かもしれません(笑)。







 今回のフィル・インの譜例を参考にチョットだけ応用してみるとしたら、付点16分音符部分に装飾音符を付加、つまりフラムを入れるという風に拡大解釈して叩くと、ヴァリエーションが増えて、練習にも役立つモノになるのではないかと思います。

 譜例が読みづらいという人は、自分自身が音符を追いやすいように楽譜を半分の音価にしてそれをテンポだけ倍加して叩くのも良いでしょうし、工夫を色々凝らしてやってみるとイイことあるかもしれません。


 余談ですが、和声的な方面で今一度「Baja Bajo」を見てみると、今回の譜例に記載した「CmM7(9,11)」の部分は、人に依ってはアッパーが「E♭△9aug」でロウワーがC音という解釈をする人もいるかもしれません。和音をより精確に採ると上声部の5声が「E♭△9aug」といういわば「短調のⅢ度」上にある九の和音の下にCメジャー・トライアドがあるというバイトーナル・コードであるのが実体なのでありますが、下から順に竝べると [c・e・g・es・g・h・d・f] という構造になっているので、同主調の両義的構造の和音であるとも解釈が可能な物であります。

(※何れにしても、私の初稿時の譜例画像内にて表記されるコードは精度を欠いている誤りであるので、2018年9月24日に譜例中のコード表記を修正し、本文も加筆訂正しました)

 他にも同義音程和音の解釈をするならば、上に中音の九度というマーク・レヴィン風に言えば「フリジアン・コード」と呼ばれる物でもあり、属和音である「G7」の下方三度にある中音=上中音を根音とする九度=つまりメディアント9thというタイプの和音が一般的にはコードの体系として捕らえられていないので特殊な扱いを受けている物でありまして、シャイエ著『音楽分析』でも紹介される物ですので、コードのタイプとしては一般的にカテゴリー化されていない物の実際には存在するという物です。その中音の九度に対して下声部がCマイナー・トライアドを採っているバイトーナル・コードとも捉える事が可能な物でもあります。

 いずれにしてもこの和音の真骨頂は、[c・h] が長七、[es・d] が長七、[g・f] が短七、[f・es] が短七、[c・d] が長九という風に、それぞれを転回位置に還元すると長・短二度の音程をぶつけて生硬な響きを得ているのでありまして、更にはそこに同主長調由来の [e] を加える事でクラスターを生じているという二度和音の断片を見る事も出来、それらを巧いこと長七に開離させてヴォイシングを配するというやり方がキモになってくるので、こういうやり方はかなり参考とすべき点でしょう。


 譜例の次の和音、「A7(#9、♭13)」は、実は直後♭13thがナチュラル13thを経た経過音を用いるので、本当は13th音だけの変化なのですが、人に依っては和音表記が仰々しくなってしまうのを避けるためにalt表記で省いてしまう人もおりますが、その辺はきちんと読み取って解釈した方が宜しいかと思います。