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複合拍子と混合拍子 [サウンド解析]

 今回はタイトルにある通り、拍子構造における「複合」と「混合」という取り扱いの違いを判っていただけたらと思いブログの題材にしてみることに。音楽理論書では基礎中の基礎であるがために、私自身中学生時代の「器楽」を学んだ頃にまで遡る事になるのですが、もしかしたら現在では呼称やら変わっていたり私の記憶が変質している可能性もあるのでビビり乍ら題材にしているのですが(笑)、まあ間違いはないだろうという核心から今回のテーマを掘り下げてみるコトに。


 抑、今回の様なテーマを語りたくなった理由は、ツイッター上でのやり取りにおいて、先日私はヴァイオリニストの千々岩英一氏からとても有り難い返信を頂戴してあらためて思うコトがあったので今回の題材を語る事にしたのです。

 千々岩氏はそもそも「三三七拍子」という律動が他の外国作品にもある、というコトを呟いていらしていた所に、私は四拍子系のリズムを違ったリズムで刻む(これこそが複合拍子)コトについて引っ張って、その例としてレッド・ツェッペリンの「For Your Life」を例に出して千々岩氏とのやり取りに至ったワケであります。


 扨て、「複合拍子」とは「単純拍子」ではない拍子の事を指しております。この《単純》とは単純音符で構成される音符(または休符)という事を意味する物です。

 単純音符ではない音符というのは「付点音符」の事を指します。拍子の基本構造が2であるのか3であるのか、という違いが古い歴史から脈々と続いて来た為、そうした体系の違いが今猶こうして確認する訳でありますが、基本の拍子が「3」と採るのは付点音符であり「単純音符+付点」という構造が複合化する。故に複合拍子とは基本構造が「2」と採らない=単純音符で構成された物ではない構造である訳です。

 それ本来は通常の拍子構造であり乍ら、《ミソラ ヒバリ》という3つの括りを《ミソ ラヒ バリ》という風に3と2の括りを読み替えたり、《ダメ ダメ ダメ》という歌詞を《ダメダ ダメダ》という風に2と3を読み替えて強行するのはヘミオラと呼ばれる物です。

 また、4拍子であるのにアクセントは3の周期を刻んだり、本来の入れ子に対して異なる拍節を充てて強行する「リズムの嘯き」という概念こそが「ポリリズム」として知られるモノであります。つまりはPerfumeのポリリズムというのはまさに「単純拍子」上のポリリズムなワケです。拍節のアクセントが2を基にしてはないものの、2で割り切れるもの、という意味ですね。

 複合拍子の概念は、元が3拍子の曲において2で刻むという事も同様です。現今社会に於けるジャズ/ポピュラー音楽社会から観測するとまどろっこしい概念かもしれませんが、これはシャッフルの様なスウィングの楽曲を平滑なビート(1拍3連符を2連符すなわち八分音符に平滑化)する状況と変わりなく、これは複合拍子での入れ子(=拍子の基本構造)を単純拍子の入れ子に読み替えているという概念を省いて楽曲を捉えている訳で、実際にはこうした入れ替えには「リステッソ・テンポ」という読み替えの概念が働いています。

4/4拍子なのにひとり7/8拍子を刻むのは単純拍子上でのポリリズムです。

 その混合拍子の最たる例というのは先のツェッペリンの「For Your Life」という曲のリズム構造。Aパターンは明らかに「3+3+2/8拍子」で乗りつつ、Bパターンは4拍子なワケですね(ブリッジのみ9/8拍子)。この「3+3+2」の「2」の部分は局所的なリステッソ・テンポなのです。

 つまり、ツェッペリンの連中は、フレーズそのものは「2に収まる」モノであっても「3+3+2」と「4」を使い分けて複合拍子と単純拍子との乙張りを付けているワケです。

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 意外な驚きとして千々岩氏はツェッペリンの「For Your Life」をご存知ではなかった様なのですが、私はそれをあげつらうかの様に「ツェッペリンも知らないの?」等とツッコミを入れたりするような下衆なコトなど申しません。

 知らないと嘯いてくれて私どもにわざわざ寄り添ってくれている可能性すらあるワケですので、そうした詮索をする事抜きにツイッターにおいてコミュニケーションを取ってくれておられるアクションそのものが寄り添ってくれている証だと思うのでありますが、いずれにしてもプロ中のプロのヴァイオリニストの方がクラシック畑ではなかろうとも知らない曲を「知らない」と仰るスタンスはとても凄い事だと私はとても「驚いた」のであります。氏が本当に知らなかったとしても、こうして謙虚な姿勢を貫くのは音楽に対してとても正直だからこそだと思えるワケですね。

 私等、あらゆる音楽ジャンルにおいて知らない音楽ばかりです。ある意味では誰もが知っていそうな曲ですら知らない事の方が多かったりもします。そういう方面で人との共通する話題を共有できないモノだから、ついつい力んで楽理方面の分析をしてしまうコトで、誰もが知っていそうな曲ですら包含してしまおうとするきらいがあるのではないか!?と自分自身ですら危惧することがありますし、それこそ「ジャズのこの曲知らないの!?」などとツッコミ入れられそうモノなら私なら知ったかぶりしてしまうコトがあるかもしれません。

 とはいえ私の場合、音楽を数多く知ることを是としてはおりませんので、それこそ私が普段見向きもしないようなジャズの定番中の定番のアルバムやらをしたり顔でレコメンドしようとは思いませんし、それを知らないコトが恥だとも思ってはおりません。多くのジャンルにおいて私はそんなスタンスではありますが、正直な所、クラシック界だけはきちんと知りたいモノです。長いクラシック音楽の歴史からすれば自分の寿命を軽く埋め尽くすほどの時間が必要なのかもしれませんが、若い頃などクラシック音楽を理由も無く卑下していた者だっただけに悔いが残ります。

 いずれにしても、音楽に対して真正面に向き合えない時が一番怖いモノでして、千々岩氏のそうしたご対応に、私は「驚いた」ワケですが、後から私のツイートを読み返してみると、140文字に咀嚼することが難しいと思い込んでいるコトを前提にして言葉を端折ってしまい、その驚きの真意が全然伝わっておらず、あたかも「ツェッペリンを知らない事に驚いた」とも解釈可能な文章になってしまっている事に反省しきりなわけです。

 恐らく千々岩氏は、私の驚きの真意はお判りになっていらっしゃるでしょうが、誰もが目に触れることができるそのやり取りに、誰かが誤解をしてしまう可能性があるのでは!?と思ってあらためて「拍子構造」を題材にこうして語ることにしたワケです。

 また、誤った理解をしてしまいがちになってしまいかねない状況は他にもありまして、今や楽譜浄書ツールとしてFinale上での機能の取り扱いが、拍子構造の呼称の解釈を曲解してしまう恐れもあるために、私はそうした方向から偏った知識だけにとらわれずに拍子構造を理解してもらいたいというキモチもあってこうして語っているワケであります。

 扨て、そうしたFinaleの機能に於ける理解と拍子構造の理解を深めるために更に掘り下げて行きますが、Finaleでは「混合拍子」という機能がありまして、本当の混合拍子との扱いとゴチャ混ぜの理解にしない様に語るのが今回の最大のテーマなワケです。

 ツェッペリンの「For Your Life」のAパターンが「3+3+2/8拍子」なのは先述の通り。仮に記譜をするとして、4/4拍子で収まるリズムではあっても、少なくとも音符の連桁が「3+3+2」で繋がるとすると非常に見栄えがよく、楽曲本来の意図が伝わりやすい記譜となります。

 しかしFinaleでは通常8分音符は4つずつの音を連桁で繋げてしまうのがデフォルトであり、それを解除しても今度は拍子の表記とは別の『混合拍子」の設定を入力しないと、連桁が巧いこと機能しなかったりします。しかし、Finale上における「混合拍子」とはあくまで「複合拍子」を明確に「連桁のために」見やすく設定するための呼称なのでありまして、本来の「混合拍子」というのは別の事なのだと私は声高に申しておきたいワケですな。

 そこで今回の譜例「fig.2」を見ていただくと一目瞭然なのですが、「3+3+2/8拍子」という風に拍子を譜面に表した場合、「1小節目=3/8拍子、2小節目=3/8拍子、3小節目=2/8拍子」という、これらの規則性は拍子変更がない限り、こうして小節線が区切られるというのが「本来の混合拍子」の在り方なのでありまして、1小節内を連桁ありきの複合拍子のために調整する事を混合拍子と呼ぶFinale独特の呼称につられて混同した理解にしないようにして欲しい、というのが今回私が語っている所なのであります(笑)。

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 つまり、本来の混合拍子とは、先のfig.2の譜例に倣えば拍子変更がない限り4~6小節目も先の周期性を保った拍子になるワケです。こうした拍子の理解がない人がFinaleで混合拍子を作る際、fig.1の1小節目「8/8拍子」の部分を「3+3+2/8拍子」と置換してしまい、そうして置換してしまうと2小節目と3小節目は拍子変更の記載が無くとも「3+2拍子」をキープしなくてはならないのに、fig.1の様に拍子変更を余儀なくされる表記だと「嗚呼、この人は複合拍子と混合拍子の違いを理解していない人だ」という風になってしまうワケですね(笑)。

 因みにfig.1の譜例は、先のツェッペリンの「For Your Life」のAパターンからBパターンに移るまでのブリッジ部を入れたリズム表記です(笑)。1小節目は「8/8」表記にせずとも「4/4」でよかろうに、と思う人もいるかもしれませんが、6/8拍子を基にした構築なので、どうしても分母が8というのは譲れなかったワケです(笑)。