SSブログ

減四度とは? [楽理]

 何も難しく考える必要なかろうに…と思う人も居るでしょう。「減四度」とは見かけは長三度音程幅と等しいのであり、フレット楽器や鍵盤楽器で見るならば「4フレット分」という音程のコトです。扨てその音程、なにゆえ長三度ではなく減四度なのか!?というコトを掘り下げてみる必要があるかな、と思いまして今回はそうした話題を語る事に。


hindemith.jpg
 ヒンデミットの「和声学」105頁の5の項では重要な事が書いてあります。但し、それほどまでに重要な内容はたった7段の文章で収まっているので、あまりにスラスラとうわべだけを読んでしまうと、本質的な理解を得られることなく読んでしまう(私の経験では本当にこういう人が大半)人が多いので、ヒンデミットはどういうコトを語ろうとしているのかきちんと「読み解く」必要があります。

 ヒンデミットのそれは後述するとして、減四度という音程は確かに聞き馴れない呼称かもしれませんが、ひとたび音楽の世界を踏み入れた者ならばごく普通に取り扱われる音程でもあるので、短音階を例に語ってみる事にしましょう。

 短音階というのは「自然短音階」という物がありますが、グレゴリアン・モードでいうならばエオリアの姿です。唯、音楽の長い歴史を振り返ってみると、エオリアがそのままの形で使われる様になったのはまだまだ100年程度の事であり、第7音は導音化する必要性が生じ、それに伴い第6音も半音高められる事も多々あり、結果的にこれらの可動的変化はムシカ・フィクタと呼ばれ西洋音楽に於て極めて重要な振る舞いであったのが事実でありまして、「短調」的世界観を演出する際に必要な主音への導音化が起こる以上、自然短音階を基に考えるのではなく少なくとも導音化された短音階を基にして本来ならば誰もが触れている「減四度」を実感してもらう必要があります。

 そういう訳で下記の2つの譜例を見てもらう事にしましょう。一つ目はA音を主音とするハーモニック・マイナー・スケールを2オクターヴに亙って示した物です。二つ目はA音を主音とするナポリタン・マイナー・スケールを示しております。

dim4th.jpg


 これら両スケールの1オクターヴ目の導音=「vii」から上行を採って2オクターヴ目の「iii」までを確認してもらう事にしましょう。これらの「四度音程」こそが「減四度」です。四度音程であるのは、その音度から導き出される音梯の階数こそが全てを物語っております。

 フレット楽器や鍵盤楽器からすれば「物理的な」距離は減四度も長三度も同じです。ですが、物理的に同じだからといって己の理解しやすかろうの方を選択するかのように四度音程を三度音程に置き換えてしまってはいけないのです。

 異名同音とは、確かに一義的に読む事ばかりではない多義性を孕んでいる事を示している物ですが、これは決して音楽的な方便として用意されている物ではありません。ロ長調の導音は「A♯」であり決して「B♭」ではないのです。

 但し、「A♯の異名同音は!?」と聞かれた時、ひとつの答えとして「B♭」があるだけの事で(※他にも異名同音は存在します)、まるで音楽の世界には異名同音という方便が用意されているかの様に用いてはならないのです。

 これらを勘案すれば、導音を持つ短調種の「vii」=導音から上行を採って「iii」=短調上中音まで数えた時の4つの音度由来の音程は決して長三度ではなく「減四度」であるのです。

 前掲のもう一つの例ではAナポリタン・マイナー・スケールを挙げましたが、このスケールでは減四度をもう一組持っているので例示したのです。こうした意図を酌んでいただいて、あらためて「減四度」という物をきちんと理解していただきたいと意う事頻りです。また、これより日付の新しい記事ではスティーリー・ダンを例に「減四度」を語る関連記事もありますのでご一読ください。


 ヒンデミットの和声学では「こう言えば、それが前提なのだからいちいち触れなくとも判るだろ」という風にも感じ取れるくらい読み手には厳しいモノでありましょう(笑)。ではヒンデミットが語っていない部分をどう読み取れば良いのか!?というヒントを私が読み解くコトにしてみますが、これくらいは読み解かなければどんな音楽理論書を読んでも真の理解はほど遠いのが現実だろうと思います。


 ヒンデミットが述べていない前提とは、減七の和音が短調の七度に現れるというコトは、現在のポピュラー流儀に倣って解釈するとAマイナー・キーを元にすればG#dim7を元にそこから「変化和音」を生む、というコトを述べており、その「変化和音」というのはハーフ・ディミニッシュのコトも述べているのであります。つまりG#m7(♭5)というコード表記です。

 更に読み解かなくてはならないのは、この変化和音の2頁前では短調のIII度についても述べております。つまりAマイナー・キーを元にするとCM7augのコトを暗に述べております。短調のIII度に出現する増和音というのは、私はスッ飛ばして「メロディック・マイナー・モード」を前提にしますが、秩序ある理解で順序立てて考えると、短調のIII度というのはハーモニック・マイナー・スケールのモードを前提(=和声的短音階)としても生まれる増和音であることをあらためて申しておかなければなりません。

 もうひとつ、私が「メロディック・マイナー・モード」という言葉を使う時は、その体系が、メロディック・マイナー・スケールというのは古典的な世界では上行形がメロディック・マイナーであるものの、下行形はナチュラル・マイナーという理解とは異なり、「上行&下行いずれもメロディック・マイナー・スケールの秩序を遵守した時に生ずる世界」というコトを意味している言葉が「メロディック・マイナー・モード」でありまして、「モード」というたった3文字を付加しているのは実はこうした深い意味がありますので、「メロディック・マイナー・モード!?何言うてんねん、コイツ!?」とか勝手に解釈しない様にお願いしますね(笑)。
A_HarmonicMinor.jpg


 扨てハナシを戻しますが、ヒンデミットが語る所の短調のVII度においては2種類の和音が生ずるというコトが「ディミニッシュ7th」が生ずる時と「ハーフ・ディミニッシュ」が生ずる時を意味しています。しかし著書ではココまで語られておりませんね。コレは先ず前提として読み手が知らなくてはならないコトですからね(笑)。ココまで語ればお判りになる様に、短調のVII度において「減七」の時は、Aマイナーでは♭VIを維持する形式となり、Aマイナー・キーを元にすれば六度の音はF音を維持しますが、ハーフ・ディミニッシュの時のAマイナーの六度はF#(=Fis)に変化するというコトを意味します。つまり、F#音が生じた時「メロディック・マイナー・モードの世界観」を生ずる事を意味しており、ここまでは最低限読み解かなくてはならないのです。しかもヒンデミットはここまでの私の説明をたった3段の文章で収めているのだから恐れ入ります(笑)。
A_MelodicMinor.jpg


 で、ヒンデミットは更に御丁寧にハーフディミニッシュにおける導音の在り方において、それを説明する時に「減四度」という語句を用いて説明してくれております。これを含めて先の7段の文章なのですが(笑)、さあて、アナタはどれだけ読み解くコトができたでしょうか!?私の今までの経験では殆どの人はここまで読み解く事はできません。私のバンドでもそうなのですから(笑)。但し、私の今回の様な例を出し乍ら補足すると誰もが目から鱗が堕ちたかの様に理解を進めるコトができます。

 とりあえず重要な事は、「減四度」というのはヒンデミットは是亦述べておりませんが、「四」という数字が語っている通り、見かけ上長三度音程と等しくともそこには階名の数が4つある、という解釈が前提に無ければ全くその先の理解が及ぶコトはないでしょう(笑)。減四度音程に於いて(=見かけ長三度)半音音程が連続せずに出現する音程のパターンは「半音 -> 全音 -> 半音」というパターンしかありません。こういう理解も前提として持ち合わせないと理解が先に進まないのがヒンデミットの和声学の厳しさと優しさでしょうかね(笑)。

 その「パターン」が一体どういう重要な意味があるのか!?と言いますと、通常我々が用いているヘプタトニック(=七音音階)というのは、そもそもその成立は、オクターヴという音程をどのようにして分割してきたのか、という歴史を遡ることが重要でして、是亦事前に理解しておかなくてはいけない知識なのですが、付け焼き刃の人はこういう所もスッ飛ばして体系的になってしまった理論から入り込むモンですから後になってシッチャカメッチャカな理解になってしまうんですよ(笑)。

 でまあ、オクターヴ分割についてですけどね、これはいずれ近い内に亦語りますが、オクターヴが分割されていくコトで「テトラコルド」(=テトラコード)という言葉を耳にした事があるかと思います。結果的にヘプタトニックの世界ではどういう仕来りなのか!?と端折って語るとですね(笑)、ヘプタトニックというのは「2種類の完全四度音程を持ち合っている」コトで成立している音秩序なのです。
tetrachord.jpg


 完全四度音程というのはどういう音程で分割されているのかというと、

「全音 -> 全音 -> 半音」(アイオニアン、ミクソリディアンの断片)
「全音 -> 半音 -> 全音」(エオリアン、ドリアンの断片)
「半音 -> 全音 -> 全音」(フリジアンの断片)

 という風になりまして、これらを駆使して曲は作られるワケですが、「予期せぬ所の導音」というのは、調性を意識し乍ら本来なら現れる筈のない所で導音(=半音)が生じることで、本来とは違った『嘯き」を感じて多様な世界を耳にするのが音楽の多様な世界なのであります。

 また、ロクリアンとリディアンが先にないのは「完全四度音程」として成立しないからであり(四度音程は常に増四度か減四度になる)、これらの2つはプレートテクトニクスで言えば、海溝と海嶺のポイントであるとも言えるでしょう。


 更に言えば、通常のヘプタトニックの世界は2種類の完全四度の音程はそれぞれが「全音で」隔たれており(G音~C音 とC音~F音で、F音とG音は全音で隔てています)、こうして2種類の完全四度を持ち合っているというワケでして、シェーンベルクは、十二音技法とは全く別に、完全四度音程の「等音程」というコトを声高に述べていて、松平頼則は近代和声学にてコレをサラリとレコメンドしているのが心憎いワケですな(笑)。

 とまあ、これくらいの事前知識が要求されるのがヒンデミットの和声学なんですが、読めば読むほど音楽理論の基礎中の基礎、というコトがお判りになるかと思いますが、この辺の理解を侮っている輩が多いので、私のブログで語っている世界が奇異に感じられてしまう様になってしまうワケですね(笑)。


 それとですね「減四度」から読み解かなくてはならないのは、減四度を転回すると「増五度」ですからね。すると、増音程が出現する事の重要性が初めてお判りになるかと思いますし、増五度の理解まで及ぶことがヒンデミットの和声学では重要な事かな、と。これらを先の「たった7段」の文章から読み解く事が「最低限」必要なコトなので、疎かな知識で徒に難しい類の音楽の和声空間を玩ばないよう理解してほしいモノです(笑)。まあ、殆どの人はムリだとは思うんですけどね。本の読み方がなってないのが多いワケですから先ずココを躾けないといけないワケですから(笑)。


 少し前に、ツイッター上においてある方と音楽理論の話に及んで著書の紹介と理解のための順序を呟いた事があったんですが、こうした読み解かなくてはならないステップが紹介した順序でほぼ全ては明らかになるから語っていたワケですね。オクターヴを割譲する際にC音基準にすればF音とG音が出現している歴史をスッ飛ばしてC音から唯単に完全五度音程を6回累積させてト長調を呼び込んで他の調性を得るなんてのはあまりに遠回りなんですわ。完全五度を累積してもオクターヴは得られないので完全五度をどう縮めればイイのか!?と苦悩の時代もあって、机上の計算では31オクターヴを得てようやく解決か!?なんて思わせたのも平均律の出現前の時代のコトです(笑)。シントニック・コンマが簡単に得られてしまう状況が今でもあるのに完全五度を礼賛して累積させて他の調を呼び込む前に、もっと共鳴度が近しい調的関係はもう一歩前からスタートしているワケですな。

 調的支配に隷属せずに情緒だけを維持して調性が希薄になるペンタトニックという世界観もあります。琉球音階を覗けばペンタトニックのそれらは完全五度の4回の累積で全て得られる体系でありまして、琉球音階は主音と下属音と属音の内の主音と下属音に対して導音を与えただけの形式的な音階です。

 これらのシンプルな体系から調性感を希薄に扱おうとしていたのがバルトークであり、ペンタトニックをさらに追究したのがチェレプニンなワケです。

 十二の音だって、通常調性の枠組みにある7つの音は完全五度を6回累積させた体であり、そこから漏れた5音もやはり完全五度を4回累積したペンタトニックの形を成しているワケですな。7つの音を省いて5つくらいにして使うと、元の残りの5音のペンタトニックを行ったり来たりしたって別に構わないでしょう。ペンタトニックなんて「調性が希薄」なワケですからね。チェレプニン音階というのはペンタトニックの羅列じゃなくて、こうした集まりから解いて使うことが重要なんですよ、ホントはね。


 とまあ、こういう理解が「前提」にあって先のヒンデミットの和声学の105頁の全7段の文章から読み解かないと、後々トンデモない理解になりかねないので注意が必要なんですね。

 音楽を学ぶ上では苦労を伴うものですが何か不明な点がございましたら以前にもツイッター上で呟いた通り、ご質問はツイッター上でのみ受け付けますが(あらゆる質問に回答を保証するという意味ではありません)、ブログの方は無効になりますのでご注意下さいね。