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マーカス・ミラーの特徴的なプレイ [ベース]

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 2012年4月にはマーカス・ミラーの新作「Renaissance」というアルバムがリリースされるようでありまして、やさぐれプログレな私にしてみるとそういうタイトルはもはや別バンドをアタマの中で
描いてしまっているワケでありますが、そんな私とて四半世紀程前はマーカス・ミラー・サウンドとやらを追いかけていた事もありました。


 80年代初頭の代表的なベーシストと言えば文句無しでジャコ・パストリアス、スタンリー・クラークという扱いがありましてですね、マーカス・ミラーというのはそれらの次点という扱いではありましたが音楽系雑誌などでは礼賛記事がチラホラと目立って来るようになっておりました。

 そういう礼賛記事を目にする機会が増えてきたのは81年頃のコトであり、そこから遡って概ね77年辺りでしょうかね。いわゆるディスコ・ブームとクロスオーバー・ブームが牽引材料となって、一般家庭にオーディがそれほど多く根差しているわけではない所に(70年初頭辺りに家具調一体ステレオブームはありました)、大型ラジカセ・ブームがあったんですね。

 カセット・テープの普及が大きな牽引力となっていたワケですが、そういう所からカーステも変わって行き、多くの人々が「音楽」という娯楽を手にして行く時代がありまして、そんな大型ラジカセに心躍らせた連中はバラコンと呼ばれた単体オーディオ装置へ流れ、レイト・フォロワーの人々(概ねモノラルスピーカーですら充分だった人々)が小型化していくラジカセ、その後のウォークマンの登場やらに乗っかって「音楽」に目覚め始めるという時代にマーカス・ミラーという時代の寵児が登場するのであると私は感じているのであります。


 安物のラジカセ程度ではベースの音とはそれほど再生し辛いものであったのか!?というとそうでもありません。しかし乍ら、金をかければそれに比例するクォリティーを手にすることができ、多様なオーディオの世界を楽しむ事ができた70~80年代のそれというのは、背景にカセット・テープの普及という音楽人口増加の恩恵を受けて、ウォークマンの登場とラジカセのコンパクト化とダビングという発想によって庶民に普及していく中で、マーカス・ミラーのような艶やかな音というのはヘッポコなオーディオ装置でも手軽にマーカスのそれと判るサウンド・キャラクターを知らしめたという大きな特徴があったからこそ広く認知されていく事になったのだと信じてやみません。

 更に言えば、マーカス・ミラーの音とは本来唄モノのバックでこそ本領発揮と言えるべくさりげないベースのオカズの演出というものが心憎かったりしたモノで、ディスコ・ブームやクロスオーバー・ブームを背景にその後王道路線系のMORやらブラック・コンテンポラリーと称されるR&B、ソウル系やAORなど多様に音楽が嗜好される時代にマーカス・ミラーの音はどこでも歓迎されたワケですな。

 そんなマーカス人気を背景に、マーカスが参加すると途端に毛色を変えてしまうかのようなアルバムに遭遇したりすることも少なくなかったりしたモノで(笑)、CD化するほど売り上げが望めないようなアーティストのアルバムにチョコチョコ参加していたりもするマーカス・ミラーであったりします。デイヴ・ヴァレンティンなどマーカス参加の曲で結構イイ曲を残していたりするのですが、初期GRP作品は殆どがCD化されていなかったりするのも残念な所だったりします。

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 少し前にもツイッターでボヤいていた私だったのですが(苦笑)、そのボヤキとは、所謂フュージョン処の再発についてなんですが、未リリースの理由がアルバム・アーティスト本人の訴求力が弱いと判断されてしまうのは早計なんですな。少なくとも参加アーティストによって楽曲のクオリティはかなり異なるジャズ/フュージョン系のジャンルというのは、同一アルバム内でも参加アーティストが全て同じという事自体少なくないので、仮に、他の曲はダメダメでもある曲だけはクオリティが高かったりと醜美の振れ幅がやたらと大きいモノもあるので、こういう所のアルバムが等閑になるケースが往々にしてあるのはいかがなものかな、と思うことしきり。
 デイヴ・ヴァレンティンの初期GRP作品というのは実は、マーカス・ミラーによって食い付くコトのできるような隠れ名作が多いのであります。とはいえCD化がされていないのはそういうセールス的な見方ばかりでなく本人の意思も汲んだ理由もあったりするので一概には言えませんがデイヴ・ヴァレンティンは見過ごす事はできないと私は思っているんですけどねー、どうでしょうかCD化!?


 マーカスの特徴的なプレーは幾つかありますが、中でもスラップの「ットゥクツッペ!」とでも形容すれば宜しいでしょうかね。ハナシが逸れますがアタマに「ッ」が来るなんて韓国語じゃないんだから、とお思いになる方もおられるかもしれませんが、私の皮相的な韓国語の理解では韓国人女性の言葉は特にアタマに「ッ」が来る言葉が多いように思えます。あと破裂音。怒られているかのような具合(笑)。まあそれはともかく先の「ットゥクツッペ!」のコトを語りましょうか。

 そんなマーカス君の「ットゥクツッペ!」を聴いたのは、記憶が曖昧なものの私が異常なほどに当時食い付いていたのがリー・リトナーの「Rio Funk」ですわ。古い時代のマーカスですから音も洗練されたモノではなくヤボったい類の音のマーカス・サウンドなんですが、16分音符よりも細かい音価のプレイを聴く事のできる曲というのは当時では大層珍しく、嘗てはよく練習材料にしたモンですわ(笑)。
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 マーカス・サウンドって純然たるライン・サウンドというとそうでもなく、実はアンプ・ミックスの音をも使い分けているようで、特にそれが顕著なのがデイヴ・グルーシンのソロ・アルバム「Night-Lines」での故フィービー・スノウが唄う「Thanksful 'N' Thoughtful」での音が顕著だと思うんですが、その後は確かジャマイカ・ボーイズかライヴ・アンダー・ザ・スカイ絡みか失念しましたが、オカダ・インターナショナルの広告でマーカスがSWRと映っている写真にてゴライアスにマイクが立ててあるというのは偶然ではなく、これはかなり大きなヒントと成り得るモノでもあるのです。

 ライン録り一辺倒の場合、周波数のミドルカットをするとかなり抜け落ちてしまってバンド・アンサンブルに埋没しやすい音になりがちなんですが、マイク・ミックスだとパンチが残るんですな。音程感の明瞭な部分とアタック感が。但し、会場の余韻が少々ウェットな状況下にあるとマイク・ミックスというのは難しいモノですし、そもそもそういうウェットな状況だとバンド全体のステージ側の物理的な音量も下げざるを得なくなります。これは定在波対策でして、音が不明瞭になりがちな不必要な音に対してエネルギーを与えないようにするための努力でもあるワケですな。ほんの少しそうした定在波にエネルギーを与えるとハウってしまう状況というのは多くの人は経験しているのではないかと思うワケですが、大音量こそが全て!と盲信したくもなりますし、ましてやステップアップした機材を揃えたとなると途端に音をデカくしたくなるものでもありますが(笑)、その思いをグッとこらえてバンドの音のために苦渋の決断が必要なシーンを理解してほしいと思わんばかりです(笑)。余談ですが、極力ステージの音を抑えるため故青木智仁氏はベーアン無しのモニターのみライン出力でライヴを行っていたらしいですね。
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 でまあ、そういうウェットな状況では大径スピーカーよりも小径スピーカーが功を奏する(超低音部分がスパッと切れやすくなる)のでありますが、よもやライヴ時においてもマーカスがマイクミックスをしていると推測できたのは当時としては驚きでした。


 とりあえずアンプ・ミックスのハナシは扨て置き、先の特徴的なフレーズはデイヴ・ヴァレンティンのソロ・アルバム「Land of the Third Eye」に収録の「シドラの夢」などは、あの有名曲「Astro-March」の前に収録されている少々スローな曲ですが、色んなフレージングを鏤めており、その後確立していくこととなるマーカスの定番フレーズが凝縮されているように思えまして、曲終盤に少々弱めの「ットゥクツッペ!」を聴くことができます。


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 こうした特徴的なフレーズを使っていたマーカスがその後ロータリー奏法の方にまで手を伸ばすとは思いも依りませんでしたが、新旧フレーズを符割にしてみると次の様な譜例になります。最初の1~2拍は新しい方のマーカスの特徴的なロータリー奏法でして特に珍しい手順でもないのですが、譜例3~4拍で表しているのがいわゆる「ットゥクツッペ!」のフレーズですね。しかし2種類用意してございます(笑)。

 というのも初期のマーカスは「概ね」4拍目に見られる半拍3連の方のフレージングが多いのですが、本人がそれほど頓着していないのか3拍目の32分で決まったり半拍3連で決まっていたりと一定してはいないのが「Rio Funk」では判るんですな。


 そもそも「ッ トゥ ク ツッ ペ」はどの様に弾かれているのか!?と、実は自分の手癖によってマーカスのフレーズを誤って理解している人も多いのであらためて次の様に記しておきましょうか。今回の例は全て「ミュート」で扱うような例にしております。


ツ・・・サム・ミュート 1st
トゥ・・サム・ミュート 2nd
ク・・・プル・ミュート
ツッ・・左手ミュート
ペ・・・プル・ミュート


 という風に弾くのが正しい順序でして、「トゥ」と「ク」がサムとプルというのが特徴で、プルの直後に左手ミュートを忍ばせるのが最大の特徴です。


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 所謂、スラップの左手ミュートを忍ばせる手順の場合、プルの直後に左手ミュートが来る忍ばせ方がやりやすく、概ねマーカスの特徴的なプレイは次の様な誤った解釈で弾かれているコトが何故か多いものです。この間違った例では2つ目がプルで3つ目が左手ミュートという事を示しておりまして、その他の音はプル以外はサムを示しています。

 初期のマーカスでは符割が曖昧な事が多いのですが、レイ・バーダニがプロデュースのデヴィッド・サンボーンのソロ・アルバム「Close-Up」収録、当時はCD用ボーナス・トラックだった「Camel Island」でのプレイではかなり符割は厳格に32分で決めておりまして、サウンド的にも変化が起きて、実はJBとは違うおそらくF-Bassの音が他のアルバムで随所に聴く事が出来る様になるのもこの年代辺りから顕著になってきます。余談ですが「Close-Up」収録の「レスリー・アン」のフォデラ・モナークと思われるフレットレスのベースは、スラップ以外でのマーカスのプレイの1、2を争うほどの出来ではないかと私は信じてやみません。
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 他にも色々語りたくなってきたので不定期にマーカスのネタを語って行く事に(笑)。