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スラップ・ベース符割細分化の進化 [ベース]

 つい最近、ツイッターの方でスラップ・ベース関連の話題を語り合う事が出来たりしたのですが、例えばアクエリアス・スパークリングに本田選手が出演されているCMでは、近年あまり耳にするコトが無くなったスラップ・ベース・フレーズを聴くことのできる顕著な例なワケですね。それが亦、ガツン!と埋め尽くすタイプのガテン系なスラップなので、なんか嬉しくなっちゃうんですな。


 汗かきスタイルのフレーズとても言いましょうか、まあ古くはルイス・ジョンソンや後藤次利やらのスラップを彷彿とさせてくれるかのような系統なんですが、kenkenさんというベーシスト、私は全く知らなかったので呟いてみたら、なんと!あのベースの音はアトリエZの音だったという・・・。私が感じていたベース音のキャラクターはスティングレイの中落ち系、またはBONGO系と予想していたんですね。あの音の特徴は、指板も塗装された様な例えばリッケンバッカーでバキバキとスラップするかのような独特の「エグみ」がギラついた感じがありまして、あのエグみが残るような音だったのでついつい予想してしまったらアトリエZだったと。

 私の勉強不足&知識不足には疑いの無い所ではあるものの、鉄面皮左近治は悔いる事なくクダ巻いているのでありますが、ファースト・インプレッションは確かに劇的ではあるものの実は本質を見ていない(聴いていない)モノなのだなぁ、と実感するワケです。特に、普段自分自身が備えていない系統の音へのファースト・インプレッションなどかなりいい加減なモノなのだとあらためて痛感させられたワケです。

 BTW、言葉も音楽も時として、ややもすると陳腐化されたような本当ならもう少し工夫して咀嚼して自分流の表現にしたいモノがあったとしても、そうした自己流のエッセンスを強く反映させ過ぎてしまうと途端に興醒めされてしまいかねないシーンなんてよく遭遇したりするモノでして、結婚式のスピーチなんてまさにそういうモノだと実感するのでありますが、自分自身のエッセンスを投影させたいキモチは判るモノの、それらの慮る言葉の「重み」を苦もなく操れるコトの出来る人など実際にはほんの一握りでして、そういう人ならいくらでも自分流に対処できるのでありましょうが、結果的にそういう人達と同等に操ることができなければ、陳腐化された様な言葉を手本に乗っかっていた方が宜しいコトなど多々あるもので、言葉も音楽も実は似たようなモノです。

 体系化された世界を習得して行く事の方が重要な時期だってあるワケで、誰も使っていない様な言葉(=言語!?)を喋った所で自分以外の人間が理解できるワケもない(笑)。聴いた事のある音(言葉含)に乗っかって情報を伝達するというのが言葉であり音楽なんですな。


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 で、ようやくベースの話題になるんですが、ベースというのは奏法が多様なので符割はもっと細分化していくだろうなというイメージを抱いていたのが80年代の頃の私。まあなんと言ってもスタンリー・クラークのソロやRTFやらで、アレンビックのみならずアコベであれほどの速弾きを聴かされていたので、ああいうベースを超えるような符割などそうそう聴けるモノではないだろうと思っていた当時の私。83年の終わり位だったでしょうか、タラスのビリー・シーハン(ビリー・シーン)の「NV4 3345」を聴いた時は、更なるベース・フレーズ高速化の幕開けを予感したモノです。因みに曲名の「NV4 3345」を上下にひっくり返すと図のように「SHEEHAN」と見える事からネーミングされているようです(笑)。

 スラップの方での高速化というのはスタンリー・クラークのソロ・アルバム「Time Exposure」に収録されているルイス・ジョンソンとのツイン・ベースでアルバム冒頭から繰り広げられる飛び道具系ショート・ジングル・タイプの曲「Play The Bass^3」(※実際の曲名に「^」はありません)以降、急速に高速化競争が始まったように思えますが、延々と高速フレーズを繰り広げるのではなく、オカズ程度に16分音符より細かいフレーズを入れるようなタイプは80年代以前から少ない乍らも存在したモノでした。

 そうした小ワザタイプの物で代表的な曲が次の通りです。

リー・リトナー/Rio Funk (マーカス・ミラー)
ブレッカー・ブラザーズ/Squids/Heavy Metal BeBopより (ニール・ジェイソン)
デヴィッド・サンボーン/Run For Cover/Voyeurより (マーカス・ミラー)


 これらの曲でのベース・プレイの最大の特徴は16分音符よりも細かい半拍3連タイプか若しくは32分音符が入るタイプで、それらの細かい音符が半拍以上継続して弾かれるようなタイプの演奏はまだまだ聴くことはできなかったモノでした。そうした所に一石を投じたのがマーク・キングだったワケです。

 マーク・キングという人は、ある意味では一般的なタイム感の倍テン(=倍テンポ)感覚が研ぎ澄まされた人でありまして、おそらくや練習段階において多くの曲を高速テンポにて練習しているのでありましょう。マーク・キングという人は本当の意味でのジャズ心は濃くない人だとは思いますが、タイム感においてはアラ・ブレーヴェ感=「2分の2拍子」感覚で弾くのはジャズの世界では真骨頂ですので(実際に2分の2拍子を用いている事は少ない)、こうした感覚が研ぎ澄まされていて、そうした速いテンポでも追従する自身のタイム感というのはマーク・キングにはしっかり備わっているモノだと思いますし、逆にこうしたアラ・ブレーヴェ感覚を身に付けるという事は別の側面からとても重要な事なのです。


 その前に「アラ・ブレーヴェって何!?」と思われるかもしれませんが、拍子記号で4/4を「C」と表記する事がありますが、アラ・ブレーヴェというのは2/2拍子であり、セント表記のようにCに縦線が入る「¢」という表記が2/2拍子です。4/4が2/2になっただけやん、と思われる人が多いと思いますが、2/2にした時点で絶対的な速度は倍化します。つまり、アラ・ブレーヴェ感というのは、通常の四分音符でのbpm=150辺りのテンポを難なく「倍加」させて弾く事を意味しておりまして、bpm=150の4/4拍子表記が2/2になると、絶対的なテンポは四分音符のbpmで聴いた時の倍というコトを意味します。
 これに対応できないような腕の鈍い人はテンポが速くなるとリズムが甘くなって、速い音価では当てずっぽうに音を詰め込もうとするきらいがあります。これを克服できないのは自身にアラ・ブレーヴェ感を養っていないのが最たる理由なのです。


 アラ・ブレーヴェというテンポ感覚は、一般的な四分音符のテンポ界隈でbpm=240~320辺りの感覚で弾きこなすという事を意味しますが、こうした領域を手中におさめると、高速フレーズを体得するのは勿論の事、細かい休符の対応を体得するコトが出来る様になるんですな。
 以前、私がヴィニー・カリウタのドラム・クリニックを見させていただいた時の記事にも述べた事がありましたが、カリウタ先生は四分音符でのbpm=110位のテンポでしっかりと32分の裏を把握しておりました。

 そういう世界観を有すると、細かい音の揺れやらヒューマンな符割も、非常に細かい本来なら再現が難しい符割として受け止める事ができるモノになるワケです。

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 例えば今回用意したMP3サンプルにおいては、最初のドラムのオカズを除いて4小節のベース・フレーズを作ってみましたが、違いが判るでしょうか?各小節、3拍目のリズムは微妙に変えています。
 各小節の3拍目を見てもらうと一目瞭然ですが、おそらく譜例の最初の全休符を含めた3小節目の5小節目の符割の「在り方」とやらが、この曲を聴いた上で記譜上の「均し」として捉えられ易い記譜でありまして、記譜をこうしてしまうと、細かいニュアンスが全て「平滑化」されて認識されてしまうことになりかねません。
※本記事アップ当初に此処で例に出していた譜例中に用いているダブルシャープのフォントは本来微分音表記を意図していたのですが、フォント置換が行われずにそのまま誤りに気付かずにアップロードしてしまっていた為現在は修正を施しております。なおE##音として今回表記している微分音については過去の記事の表記を参考にしていただいた上であらためてご理解いただきたいワケですが、実際にはE音よりも111.1セント高い、という意味ですのでお間違いのないようお願いします。

 もっと「土着」的なノリでグルーヴを演出したい時は、今回の記譜例だけが全てではありませんし、更に細かいニュアンスでの「異端」な符割で表現するでしょう。実際に私は今回このようにしてサンプルを作っているワケです。譜例の4小節目の5連符のあとの4拍目のB音(=ドイツ名H音)は、キモチ突っ込んでいただくとイイかもしれません。デモの方もほんの少しだけ突っ込ませています。突っ込ませ方としては32分音符ひとつの音価よりも細かく&64分音符ひとつの音価よりかは遅めのキモチで突っ込んでいただけると有り難いかな、と(笑)。

 いずれにしてもこうした演奏のメリハリの違いが認識できるように、それもリズムがヨタったとか認識されないようにするには常にそうしたメリハリが際立っていないと素人耳にもあてずっぽうな揺れ方程度にしか感じてくれないモンなんですね。特に今回のベースパート部の奇数小節は重要ですから是非とも体得していただきたいと思わんばかりです。ホントなら7連符まで視野に入れてほしい所なんですが(笑)


 で、アラ・ブレーヴェを語った理由というのは、高速フレーズを手に入れたいあまりに音を詰め込む指向ではなく、テンポが早まった事により音が沢山詰まって来ちゃった!という状況の方を重視すると、アタマ抜きの休符とか、執拗なまでに裏を打つようなリズムにも強くなるんですな。

 嘗て私が、高橋ユキヒロの「Saravah!」収録の故加藤和彦作曲の「La Rosa」での坂本龍一のハモンド・ソロでの1拍12連に関して、倍テンを感じたうんぬんかんぬんというクダリを覚えていただいている方いらっしゃいますでしょうか!?ああいう綺麗な1拍12連というのは、音を詰め込もうとするタイプの人のモノだとどっかが11連符っぽくなったり2拍で23連みたいな時があるモノなんですが、綺麗に詰められているのはアラ・ブレーヴェ感覚が研ぎ澄まされている人の特徴なのであります。中にはアラ・ブレーヴェでの演奏など視野に入れることなく自身の感覚を研ぎ澄ましていった方もいるでしょうが、きっちり刻める人の体得法の早道としてはアラ・ブレーヴェ感を強化することなのでまず間違いなく倍テンに強い、それに伴う演奏技術があるという事が判るワケです。こういう綺麗な演奏を見ると、私からすればエディ・ジョブソンの高速フレーズの方がよっぽど「詰め込み」タイプでして、アラ・ブレーヴェ感で言えばエディ・ジョブソンよりも坂本龍一の方が研ぎ澄まされていると思います。どちらもハイパーな和声を好むタイプですけどね。エディ・ジョブソンでハイパーな和声を聴きたい方なら「グリーン・アルバム」は持っておいた方がよろしいかと思います。UKで留まるコトなく。


 楽譜の簡便的な記譜に、自身の表現力が均されてしまってはいけないと思うんですな。勿論あまりに伝わりにくい表記を施した楽譜にまで常々理解せよ、という事は申しません。少なくとも楽譜というのは伝わり易さが第一の事である共通の話法でもあるワケですから、それを小難しい表記で再現すら難しいようでは本末転倒だろうと仰る方もおりますが、録音物というものが出現してからは特に顕著ですが、作者の意図せぬ演奏をされぬように事細かい符割や表現方法を施す場合もありまして、亦テンポもラルゴのような遅いテンポでも曲中でテンポの抑揚が著しく変化しない事を防ぐために64分音符や128分音符など細かい符割で表現で表現する事もあります。ごくごく標準的なテンポでにおいて16分音符程度の絶対的な速さが、そうした遅いテンポでの細かい符割だという事ですね。音を追い易くテンポを細かく表現できますが、ほんの数小節でも長い演奏時間になったりもします(笑)。


 いずれにしても、普段親しむことの少ない符割に慣れることが重要だと思うワケですが、それらに慣れて来た時細かい符割での「休符」への受容。ここに馴染んで来たら高速フレーズへの欲求を強めてイイ頃合いだと思うんですね(笑)。


 しかし、中にはスラップ・ベースにおいて「16分音符より細かい音符を弾くことができない」という人も居るとは思いますが(笑)、ある程度のリズム感さえあれば、スラップがソコソコ出来るようになったベース歴1ヶ月程度の者でも16分音符より細かい音符を弾かせる事は可能なんですね。bpm=130位で。それはどういう符割かというと、いきなり1拍6連や半拍3連の世界観を見せるのではなく(笑)、2拍9連を叩き込ませるワケですわ。

 2拍9連ってぇのはジャズ・ワルツ亦はシャッフルのワルツとかで知られている、まあビル・エヴァンス風のアレ、みたいに思っていただければ宜しいのでありますが、実はこの手のフレーズに慣れておくのは後々プレイの幅に響いて来ると思うので、私が誰かにベースを指南する時は必ず2拍9連を叩き込ませます(笑)。

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 いずれにしても2拍9連は例にも示している通り、ベーシックな部分は2拍3連の部分にアクセントを置く事が可能です。そのひとつひとつを3分割したのが2拍9連なワケでして、サム連打+プルひとつのようにして2拍3連を細分化するように弾いたりすれば、すぐに掴めるタイム感なのであります。1小節弾ききった時には16分音符よりは速いワケですな(笑)。6連より遅いんですけどね。


 ベース弾きってぇのは本来スピードに挑戦するモノではなく、グルーヴ感を演出するための事細かい表現を手中に収めるコトが重要だと思うワケです。徒に偶発的なノリとして表れてきてしまうような「ヘタ任せ」なヒューマンなノリに「グルーヴ」などという象徴的な言葉に凭れ掛かるのではなく、それこそ下手な人のノリですらも採譜して、そうした演奏の差異を譜面で表記してしまうような理解度が必要ではないかと思うワケです。故に見慣れない休符の扱いや符割に遭遇するコトになるワケですが、私自身としてはこういう表現方法は知っておいた方が役に立つかと思うんですが、いかんせんそうした細かい休符を扱うコトなく唯単にフレーズが高速化してきた背景には少なからず哀しい部分はありますね(笑)。

 ラリー・グラハムは親指のアップダウンで引っ掛けるように弾いていたワケですが、コレをソフィストケイトさせていったのは江川ほーじんを筆頭に挙げるコトができるかと思います。彼の良い所はゴースト・ノートに頼らないノリとフレージングを信条としているので細かい符割(=16分音符より細かい音価の意味)においても意味のあるフレージングを施します。その「意味のある」というのは、例えば半拍で32分音符を4つの音を鳴らそうとした場合、今で云う所のロータリー奏法だったりすると、その4つの音全て同じ親指のダウンアップでの音みたいな、そういう「詰め込んじゃった」的なフレージングになりがちですが、そういうフレージングではない「唄う」、ただ単に一連の音を連打するだけではなく横への拡大されるようなフレージングで組み立てたりするんですな。

 ところが速い音価とてハンマリング・オンとプリング・オフがやたらと組み合わさった、それこそACCEPT聴いてんじゃねえか!?(8フィンガー・タッピングとか)的なプレイを聴かされると哀しくなってくるんですわ(笑)。近年のマーカス・ミラーもヴィクター・ウッテン系に寄り添う事となって、テクニックさえ考えれば相当巧みになっているものの、旧来のマーカス・ファンから言わせてもらえば、ああいうのはマーカス・ミラーがやるべきではないプレイだと考えております。グローヴァー・ワシントンJrの「Let It Flow」を思い出せ、とか「See Me」や「Pessimisticism」思い出せ、と言いたいのが本音です。とはいえ旨いハンバーガー屋さんがラーメン始めました!的に考えれば今でも十分楽しめますので、2012年4月の新譜「ルネサンス」は期待したい所であります。


 扨て、ロータリー奏法において重要視されるのは親指のアップダウン(ダウンアップ)のオルタネート・ストロークなワケですが、勿論ロータリーとはただ単に親指だけがオルタネートに弾かれているのではなく、「親指ダウン→親指アップ→人差し指」というのが基本的な流れでして、私の場合は人差し指以降→中指→薬指まで連結させた動きをさせたりします。
 加えて、この方法だと左手ミュートの動作が全くないのですが、私は左手ミュートでダブルストロークを噛ませる事ができますので、親指ダウンシングル→親指ダウンダブル→親指アップ→左手ミュートシングル→左手ミュートダブル→人差し指という風に弾いたりもします。これで半拍半フレーズで32分音符が決まると、とってもキモチが良いモンだ♪と鯛焼きクンのキモチが判るようになります(笑)。


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 まあ、そんなハナシは扨て置き、ロータリー奏法のコツは親指のダウンアップがキモなワケでして、恰好の練習曲となるものがあります。それがザッパ先生の「Andy」なワケですね。アルバム「One Size Fits All」収録で、まあ聴きドコロは「Inca Roads」のジョージ・デュークの7/8拍子ソロとか色々あったりするワケですが、Andyのベースとドラムのトゥッティは是非ともマスターしておきたい所ではないでしょうかね。今回用意した譜例全ての音が4弦5フレットで済むワケですから(笑)。
 原曲の方では実際にはベースはピック弾きです。ピック弾きとなると途端に忌避してしまうベース弾きが居たりするので食わず嫌いはして欲しくない所でして、非常に良い曲でもあるのでご存知無い方は是非とも聴いていただきたいと思います。

 この曲の練習材料としてイイ所は、アタマ抜きでのフレーズが現れる所です。つまり譜例3小節目3拍目は、オルタネートを目指すならサムのアップから入る必要があるワケですね。ココが決まるか決まらないかで4小節目までのフレージングのメリハリに差が出て来ます。我流でまとめてしまってオルタネートを無視して先のアタマ抜き部分をダウンから入ってしまうと、それで対処できても他の曲において気の利いたフレーズの応用に昇華し辛くなると思いますので私としてはアップストロークから入るのをオススメします。


 こうしたフレージングに慣れて来ると、先ほど例に出した2拍9連でのタイム感がココで功を奏するようになるのです。2拍9連の細分化は2拍3連を根幹に据えたモノであるため、2拍3連を3つに細分化したモノではなく今度は4つに細分化する、という風に見ると、これは1拍6連の音価を得るワケです。

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 1拍6連をそのままに6連でキメるのもカッコイイものだったりしますが、6連を4つでノる、というのも結構イイものでして、例えば「ブルーノートと調性」の著者である濱瀬元彦の付録CDでの6連フレーズはこの4つフレーズを顕著に扱っておりますね。慣れて来たら8分休符1つ入れてから6連4つフレーズ始めたりとかすると、タイム感は研ぎ澄まされる様になるでしょう。因みにジェントル・ジャイアントのアルバム「The Power and The Glory」収録の「So Sincere」では、1拍6連を4つでノるタイム感が要求されますので、こうしたタイム感も体得したい所です(笑)。


 でまあ、まとめとして語ると、土着的なフレーズにおいても勝手に符割をアタマの中でデフォルメするな!という事が先にありまして、細かな符割だろうと休符であろうとそれを強く意識するには高速テンポに慣れる所から始まり、そうしたタイム感で馴染んで来た頃に細かな符割に挑戦してみる、という事ですな。

 ベース・フレーズが細分化してくる歴史では、スラップの側面を中心に語ると、ヴィクター・ウッテンの登場が挙げられますが、彼が名声を得た時は正直な所、シーンではスラップは完全に敬遠される様になった、それでも許容されていたのはレッチリやFlea位のモノで、一部の「芸達者」の様な扱いだったのは否めないのではないかと思います。スラップそのものがアナクロ志向から避けられたワケですな。ジャズ・ベース・ブームも去って覇権をスティングレイに譲った時期の到来ですな。今はプレベですけどね。

 正直なハナシ、ヴィクター・ウッテンがシーンに貢献したとは思えず、マーカスとて過去の栄光にすがって悠々自適な立ち位置に存在するのかというと微妙な所でしょう。勿論スラップが敬遠されるような前の時代においては文句無しに良い仕事をしておりますが。ただ、マーカス・ミラー自身もウッテン系のファンに迎合してしまうようなプレイ・スタイルを身に付けてしまったのは非常に残念な所であります。とはいえフィンガー・スタイルでのマーカスと言えばポルタメント(=グローヴァー・ワシントンJrの「ワインライト」の様な)や、ブリッジ付近に手を置くミュート・サウンド位でしか特徴はなく、それが無ければ、スラップ・サウンドがあまりに個性的であるがためにフィンガー・プレイだと途端に影を薄くしてしまうように映ってしまうのが、スラップ敬遠時代での立ち位置を難しくしてしまった所であるでしょうか。

 加えてマーカス・ミラーがEBSのアンプを使い出した頃には、マーカス・サウンドとやらも一部ではかなりその方法論の体系化が進んで、知れ渡る様になるため、結果的にマーカス・ミラーの音が普及し出して有り難みが減って来てしまった所にスラップが敬遠される様になったのが追い討ちをかけるワケで皮肉といえば皮肉なんですな。

 更にはDAW時代が幕を開け、スタジオ・セッションではなくギミックが更に拍車をかけてくる様にもなり、フュージョン系の音楽にとってはノー・ギミックである方が良いのでしょうが、先が読めない系の、いわゆるプログレ三昧で語られていた「作業系BGM」として全くマッチすることのない音楽は隅っこに追いやられる様になるワケですな(笑)。故に無理矢理4 on the floor化するのかと言うと、ハウスとて97~98年頃は裏打ちはキメてもキックは4つ打ってるのは少ないモンでした(笑)。こういう所に活路を見出そうとスムース・ジャズ化していくワケですが、珠玉のフレーズは音圧ブームによって忌避されてしまい、オブリガート程度で充分な役割になってしまいます(笑)。オーセンティックとも言うべきホントの昔のジャズなら新参者に歓迎されるワケですが、過去の名だたるジャズマン達を超えるようなアーティストもなかなか登場しない。そういう、ジャズ系或いはスタジオ系の人達にしてみればこの四半世紀は不遇の時代だったのではないかと思えます。

 曲作りにおいて、プレイこそが全てではなく、楽曲の作品としての在り方にウェイトを置くべきだったんですな。スラップのフレーズ目当てだと、聴き手がやがてそれを弾きこなす様になった時によっぽどの楽曲全体のクオリティを保っていなければ飽きられてしまうワケですよ。美人は3日で呆きるとか言われますが、フレーズだけで食い付かせる類の曲というのは概ね長い事愛されないモンです。それが神格化しているのは器楽的心得が希薄なリスナーによるものか、長い事そのプレイを体得する事の出来ないリスナーに愛されているか、ノスタルジーに浸って聴いているか位のモノかもしれません(笑)。

 私はマーカス・ミラーのサウンドを追究したモノですが、グルーヴはシャカタクのジョージ・アンダーソンの付点8分音符感覚が好きでしたし、トム・バーニーの方が好きでしたし、ウィル・リーのサドウスキー・チューンのベースに憧れていたりしたモノでした。とはいえマーカス・ミラーもかなり追っかけましたけどね。


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 でまあ、今でこそロータリー奏法もかなり体系化され、指弾きではフィンガー・ランプを用いた高速フレーズやら新たなステージに入っておりますものの、ヴィクター・ウッテンや江川ほーじんという先駆者ばかりではなく、キース・ネルソンというベーシストをきちんと評価してほしいのでありまして、今回最後にレコメンドするワケですが、この人のサムのオルタネイトがとても秀逸な曲は、ネルソン・コールというキーボーディストのソロ・アルバム「Tattoo」(嘗ての日本版のタイトルは「Up!」)で、ヴィニー・カリウタが参加しているアルバムなのですが、それに収録されている「Monterey Getaway」という曲のキース・ネルソンのプレイは秀逸です。

 CDタイム3分13秒~辺りを譜例のようなリズムで弾いております。サムのオルタネイト開始が8分裏に聴こえるかもしれませんが実は違います。半拍3連のケツの部分から開始です。譜例の方の解説を見てもらえれば一目瞭然ですが、半拍3連のケツ部分のタイム感を会得することや、6連を4つでノる事の重要性というのはこういう所からもお判りになるかと思います。


さらにさらに最後に、ツイッターの方で語りきれない事をあらためて述べておくと、Late 80sから90s辺りのオススメのスラップ・ベーシストで、ジャドソン・スペンスの1stソロ・アルバムに参加のスペンサー・キャンベルが弾いている下記の曲など結構オススメですので機会がありましたら聴いてみて下さい。タイプ的にはインコグニートの「One Hundred Rising」やバーシアの「Sweetest Illusion」に参加しているジュリアン・クランプトン系の人だと思ってもらえればよろしいかと思います。

アルバム「Judson Spence」より
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Yeah, Yeah, Yeah
スペンサー・キャンベル(bs)、リック・マロッタ(ds)、ジェリー・ヘイ(tp)、マーク・ルッソ(sax)

Attitudes
ジェフ・ポーカロ(ds)、スペンサー・キャンベル(bs)


これらの曲の著名な人達を抜粋してみました。興味があったら是非とも聴いてみて下さい。