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フリー・ハンドのお手々はケリーの手 [プログレ]

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 扨て2012年2月29日に再発予定とされるジェントル・ジャイアント(以下GG)の2タイトル「インタヴュー」「フリー・ハンド」が発売が間近となって参りました。フリー・ハンドの場合はこれまで特にCDリリースにおいてマスター起因によるエラー続発だったので、実はコアなファンからするとコレクションとしてはかなり興味深かったモノでした。その手の話題についてはGGのオフィシャル・サイトで詳しいのでご覧頂きたいと思います。私のブログでは嘗てアルバム同名タイトル曲の「Free Hand」の特徴的な対位的手法から得られるハイパーな和声を語った事がありました。


 ハイパーな和声観というそれを今あらためて振り返っていただければ、バイトーナルな観点を用いるという手法が通常の枠組すらも超越する和声を活用するというコトがあらためてお判りいただけるかと思いますので、私の過去のブログ記事を今更読んでいただいても、言いたい事は一本筋を通して語って来ている事なのでして、その手の筋道は続けようとも思えば何処までも続けられるモノでもあるんですな(笑)。先が見えないのではなく、可能性としてあまりに広大だからこそこの手の話題というモノは枯渇しないのでありましょう。平均律の枠組ならば和声やらは計算によってその種類を導くこともできるのでありますが、まあ昔のDX7のパラメータが何通りあるか!?みたいなモンでしょうかね(笑)。数字の上では有限ですが有限を議論するには余りに広大というモノ。

 勿論、ある和声の魅力に誰かが気付き、その和声とヴォイシングこそは異なるものの転回した時の共通する体系的な枠組に収まる和声に紐解ける状況に噛み砕いた和声と同じモノを他の誰かが使う可能性はあります。人間の可聴域など限られているワケで、和声的に響かせる音域という範囲でも限定されてくるものなので、徒にハイパーな和声だけを求めても平均律での枠組もいつかは枯渇するかもしれないと言われているのは今に始まった事ではありません。そうしたまだ見ぬ限界を机上の空論として嘆く人はそれ以前に和声の全てを吟味してからボヤくべきだと思います(笑)。現状では平均律を基準とし乍らもその音律に当て嵌まらないソースを一緒に使っているのが現状ですから、杓子定規に計算された可能性の有限性を嘆いても仕方ないワケであります。

 誰もが知るコトのできる初歩的な音楽理論方面で学ぶコトのできるコードの種類だってそれを全種類吟味して使いこなせる人がどれほど居るのか疑問です(笑)。でもまあ、私の語るハイパーな部類は取り敢えずはその辺の先くらいを語っているコトですのであらためて「吟味」していただけると助かるワケですな。


 そこで、GGのアルバム「フリー・ハンド」について語るワケですが、プログレにしてはやけに聴きやすさを備えているのが本作であります。私が嘗てYMOブームに乗っかっていた頃、親類から「こういうのを聴け!」と云われてダビングされてきたのがGGの「The Power and The Glory」と本作「フリー・ハンド」でありました。その後スリー・フレンズをダビングして貰ったという記憶がありますが、いずれにしてもYMOに毒されていた当時の私ですら食い付いたのがGGだったとはその当時は思いも依らなかったモノでした(笑)。


 私はGGを生まれて初めて触れたのは「The Power and The Glory」の方だったのでありますが、その後カセット・テープは八百万の再生数を施され、擦り切れんばかりのうなり声を挙げるほど聴いたであろうGGのアルバムは再生の回数で言えば「フリー・ハンド」の方が多かったのが当時の私でした。私の当時の耳では「Talybont」の四声の対位法(3つの調性を用いたポリトーナリティー)だけでも極上モノでして、また3分に満たない小曲であるから幾度となく巻き戻しと再生を繰り返されていて、今やCDやiPodのクイック・アクセスから比ぶれば拷問にも等しい時間の消費が当時のカセット・テープでの一連の操作は、こういう小曲だと尚更功を奏するものであります(笑)。


 で、私自身も色んな器楽的な経験を経る毎にGGの魅力をあらためて知って行くコトになるワケですが、私が自分の胸の中だけで囁いている邦題「類友」という曲(笑)、「Just The Same」においてはメロディだけが(四拍子×3)+2拍子という合計14拍子で繰り返され首尾よく辻褄が合うという構造なのでありますが、この曲の間奏部に登場するシンセの音。コレがソリーナの音であります。80年代後半に都内の某楽器店で投げ売り状態となっていたのが今でも忘れられません(笑)。Prophet VSも破格の価格で投げ売りされていた時代が懐かしいモノです。


 「On Reflection」は、プログレ三昧でも取り上げられた曲なのでご存知の方も多いかと思いますが、この曲のフレーズの「All around、All around」のメジャーとマイナーを行き交うようなそれが、フーゴー・リーマンの対位的手法にも置き換えていただけると楽理方面においても理解の手助けになるのではないかと信じてやみません。こうした対位法の語法をスンナリ聴かせるのがGGの素晴らしい所で、こうしたフーガを得意とするアレンジ力はケリー・ミネアーの才能によるモノであるコトは疑いの余地はありません。

 「Free Hand」に用いられている冒頭の短三度で並立状態にある二声の16分のシークエンス(シーケンサーじゃありませんよ)は、過去にも取り上げたようにふたつの調域を用い乍ら、ひとつの調性からは生み出すことのないハイパーな和声を演出させている様が心憎いワケです。過去にはキャピトル盤とテラピン盤では1回目のAメロ後にゲイリー・グリーンの頭抜きのギターがあったり無かったり(笑)。この辺りもコアなファン心理をくすぐるモノでもあります。キャピトル盤においてもリムにEMI-JAXが刻印されているものとそれとは別の刻印があるモノもありまして、CDの背部分も微妙に印刷レイアウトが異なるバージョンが出回っていたりしますが、この手の中古品なら誰もが足を運ぶ某店でもこの辺りは頓着せずに値付けされているようでして興味深い事実であります(笑)。フリーハンドのその後の3拍8連(=付点16分)フレーズのブレイクやら語りたいコトはいくらでもありますが、その辺は過去にも語っているコトなので参考にしていただければと思います。
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 アルバム「フリー・ハンド」において最もGGらしい作品と云われれば、私なら「His Last Voyage」を筆頭に挙げるでしょう。まず楽曲の美しさは素晴らしく冒頭の、その後のコア・フレーズとなるベースの一連のフレーズは実はフェイク・ビートでありまして、今回例に挙げた一つ目の画像を確認していただくと、6/4拍子で記載の上段部分としてベースのフレーズを聴いてしまいそうなギミックが施されているワケですな。しかしそのベース・フレーズの正体はシャッフルを基にしたフレーズで組み立てられている音価で構成されており、シャッフルをベースとするフレージングに見立てた場合は下段に示す様に8分3連一つ分「食ってる」シンコペーションとなっているコトがお判りになるかと思います。

 冒頭はベースから出現するワケですからコレをのっけからシンコペと判断するのは初見じゃあまずムリですわ(笑)。聴き慣れている人ですら曲終盤のコア・フレーズを聴いて、それをギミックと判っていても固定観念が災いしてしまって何度聴いても譜例通りに聴こえない!と苦悶の表情を露にする者も私の周囲におります(笑)。一旦譜面にして玉を追わせると固定観念の呪縛って解き易いんですけど、その知人は楽譜読めないんですわ(笑)。タブ譜にしてやった所で音価追ってなくてフレット追ってるんで意味ないんですな(笑)。

 で、下段の弱起を除いた1小節目4拍目の一番最後の音をスタッカート表記にしておりますが、一番ケツを8分休符3連にしても良さそうなモンですが私は敢えてこの表記に拘ってみました。

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 更に付け加えると、ベースのこのコア・フレーズというのは曲終盤では一連のフレーズの最終小節である4小節目を2拍子に変化させますので、次の様なフレーズの音価になっているワケですな。この合計14拍子という(四拍子×3)+2拍子は、「Just The Same」でもあった構造で、こうした所からも統一感というものを溶け込ませているという心憎い演出が施されているんですな。


 扨て、GGというのはこういうビートのギミックを施す第一人者のバンドでもあったワケですが、つい先日にもアルバム「インタヴュー」収録の「Design」で示したようにフィル・スミス氏の譜例を元に語っていたワケですが、「Design」では9/8拍子でも拘らず拍頭は6つで書かれていたりする独特の書法があったりするんですが、9/8拍子というのは16分音符で区切ると合計18個の玉で表すことができますが、その18を「3」で割るコトによって6拍子というギミックを得るワケですね。こうしたギミックはアルバム「In A Glass House」収録の「Experience」が最右翼となるワケでして、「Experience」の場合はついつい4つ系のフレーズで聴いてしまいそうなんですがオーセンティックな姿は実は27/16拍子=4/4拍子 + 5/4拍子の姿だった!というコトが曲終盤によってようやく謎を解くコトができるワケですが(笑)、曲冒頭の内からアレを27/16拍子として読み取る人というのは薬物ヤッてる様な人じゃない限りムリなんですな(笑)。曲冒頭からギミックありのビートなのにギミック系だけではなくオーセンティックな姿も垣間見せるドラミングを披露してくれている叩き具合が演出されている好素材が、キング・フラワー・ビスケッツ・ライヴ盤での「Experience」なので、興味のある方は是非聴いてみて欲しいと思います。


 こうしてGGのギミックは多岐に渡るワケですが、シャッフル表記をベースにすればイイのかそれとも6/8拍子系として表記すれば良いのか!?という迷いが私自身生じたのは事実です。例えば「Design」ではシャッフル・ベースではなくハチロク系ベースなんですね。両者の違いは楽譜上でどういう違いになるのか!?というとですね・・・つまりはこーゆーこってす。


 「His Last Voyage」の一連のベースのコア・フレーズを終えると唄メロのAパターンに入って来ます。ここで使われるアルペジオの音価は、コア・フレーズをハチロク系にした場合次のような4連符ベースになってしまいます(笑)。
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「Design」の方ではフェイクのハチロクがそのまま残っている事が多く2連符亦は4連符の出番が少ないためハチロク系としての表記が功を奏するワケですが「His Last Voyage」ではこのように破綻しかねないワケです(笑)。こうした表記は例えばジャズ・ワルツでもあったりします。よくあるビル・エヴァンス系の。ハチロク系の2拍子の「1」が9つ状態。つまり2拍9連で埋めることが可能な3連状態。しかしこの9つを4つに割ってみたりするフェイクのビートなどよく出現したりするモノなんですが、シャッフル表記だと曲そのものが弱起スタートだったり「食って」入られると表記そのものが難しくなるのが災いして時としてハチロク系を選択されてしまうコトが往々にしてあるワケです。全ての曲においてシャッフル・ベースでの表記が当て嵌まるワケではないのですが、「His Last Voyage」の場合はシャッフル・ベースが適切であろうと考え今回はこういう風に表記しているワケですな。ハチロク系で無ければシャッフルからフツーに8分音符でのアルペジオをベースとした表記としてAメロ以降を記譜するコトが可能となるワケです。

 GGのアルバムをひとたび語れば本当なら各曲解説してみたいモノですが、数あるGGの作品の中で多くの人が語れそうな事をわざわざ語っても私のブログでは無意味ではないかなという気がしますので各曲コラムみたいなコトは致しません。高次な音楽理論の側面を語ることのできる曲を抜粋しているワケですが取り上げなかった曲が「低次」なのではないのでその辺りは誤解なきようご理解ください。取り上げている曲における高次なネタを用意すれば、それを牽引材料に他の曲を眺めることへの助力となると思いますので、全ての曲は語らない様にしております。ましてや私が全ての曲語ってしまったら月日だけが経過して行くばかりでブログなどいっこうに捗らないコトは自明ですので(笑)。

 四半世紀くらい前などGGってぇのは初期4作品中の「Three Friends」を除く三作品がやたらと注目されているばかりで「Three Friends」や「ガラスの家」に脚光が浴びるようになったのはインターネットの功績なんですよ。ブラウザのMOSAIC使って、ネット黎明期からGGのオフィシャル・サイトというものが機能していたワケです。GG周辺の情報というのはそれくらい少なかったのだとご理解いただければ助かるかな、と(笑)。その後ネットの力が功を奏してアウトテイク集としての「Under Construction」がリリースされて以降GGの作品群は再び脚光を浴びるようになるワケです。国内ではMSIさん界隈の力が大きかったですな。正当な評価をされていたと思います。

 GGを語るのはこれが最後なワケではないので近々亦語るコトがあるでしょうから、今回はこの辺で切り上げて再発CDの到着を待つとしましょうか。今回用意したデモはクリックに合わせてHis Last Voyageのオーセンティックなビートに乗せて作ったドラムを用意してみるコトにしました。これはいずれケークリでリリースされることになるGG関連のフェイク・ビートの似た手法と音のスニーク・ピークとも云えるかもしれませせん(笑)。

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 あっ!因みにフリー・ハンドのアルバム画像はUS盤ではなくUK盤の画像がケリー本人の手のようです。