SSブログ

半音の分かち合い [ネタバレ]

春分を過ぎ清明に入り、いつしか虫達もかなり元気になってきました。この辺りの季節は風が吹くとその一回の周期がエラい長い事が多く遭遇する時期でもあって結構走り辛かったりするんですよね(笑)。すっかり肥えた私のカラダをイジメているのでありますが、今となってはお目にかかることも少なくなってしまった明治生まれのご年配の方に「あなたは水原弘に似ているね!」などと冷やかされてしまいました。


よもや懐かしいレコード大賞の名歌手にたとえられるとは光栄なコトですが、当時は私もThe Late水原弘さんを父と同世代の方のように見ていたモノでしたが、左近治はすっかり水原弘さんの年齢も超越してしまっているコトに驚きを禁じ得ない今日この頃です(笑)。

HiroshiMizuhara_HighEarth.jpg


まあそんなコトを頭の片隅に浮かべながらも楽理ネタをドヤ顔でついつい語りたくなってしまうモンでございまして、うるせーコト抜かすヤツぁコンビニのバグキラー放り込んでしまえ!とばかりに虫ケラをスプレーでシュッと一吹きしちゃいたいモンでございます(笑)。皮相的な連中にやいのやいの言われようとも就中楽理ネタに集中したい方はGetting in your hairしちゃってるかもしれませんが、ウザイのはガマンしていってくださいね、と。


扨て、ヴェルディの謎の音階やらドビュッシーのペレアスの和声について語って来ているワケですが、左近治が意図するトコロというのは、謎の音階というのが旋律的という横軸方向での半音の連なりの特殊な例として取り上げる狙いがありまして、その一方でペレアスの和声というのは2つのメジャー・トライアドが長七度/短二度で離れて垂直レベルに構築されている時の響きという「横と縦」という二つの異なる方角から見た特徴的な世界を取り上げているワケであります。

無論、ペレアスの和声というのはそもそもは六声をガツン!と鳴らすコードではなく、長七度/短二度で離れている異なる調的な関係にあるモチーフが併存状態にある時に生じる響きが和声的にどういうものか、というコトを語っているワケですな。元々の成立が対位的な手法だからといって、この響きを得るにあたって今現在も常にその手法を守り続けることなく、垂直レベルに鳴らしても何の問題もありませんが、いずれにしても狭い意味でのポピュラー音楽の手法に留まっているだけではなかなかこういう例に遭遇することはないかもしれませんが、高次な響きというのは知らない所でも存在するモノです。


2つのメジャー・トライアドが長七度離れて存在したとします。これまでの例としては下にBb△、上にA△という例で出しておりました。こういう半音違いの和声というのは過去にも別の記事で取り上げた事がありましたね。オーギュメンテッド・スケールを語った時に生じる半音違いの2つの増三和音とかですね。


001Chord20of20dur-moll.jpg


例えば、2つの増三和音が長七度/短二度で離れていたとすると、これは等しく6つの音をそれぞれ「増三和音」として持ち合っている世界なワケですが、ここで生じている6つの音を上下に「長・短」という風に用いることも可能なんです。以前にも語った事がありますがドゥアモルの和声がそうですね。例えばC△とG#mという長三和音と短三和音があったとすると、構成音は「C、B(=H)、E、D#、G、G#」という風に持ち合うコトも可能なんですな。

以前は、このドゥアモルの和声と半音違いの増三和音というのを一緒には語っておりませんので、その応用例(実は同様)というのは今回始めて登場するコトになるワケですな。

そもそもドゥアモルの和声の形式として重要なのは、上と下がどちらでもイイんですが例えば上にCメジャーのモチーフがあったとしたら下はG#マイナーのモチーフとして現れている、という世界の例でして、マイナー側を平行長調として見た場合、ペレアスと同様の世界観を結び付けるコトが可能とも言えますね。

002dur-moll_bitonal.jpg


こうした上下に二つの異なる調性を持つフレージングが併存状態にあるということでバイトーナリティーの世界だというコトをあらためて実感するのでありますが、今現在ココで例にしている「下にG#マイナー上にCメジャー」というのは、それぞれの声部はあくまでも「旋律的」な状態でアンサンブルを維持している事がバイトーナリティーの世界の「通常」の世界であります。例えば下にG#マイナーのm3rd 音である「B音(=H音)」が奏でられている時、上ではC△の5th音である「G音」でハモったり。すると、次のようにハモらせてみると単一の調性では語るコトができないコトがすぐにお判りになるかと思います。

下声部のG#マイナーのモチーフが「m3rd -> P5th -> Root」という風に動いたとします。結果的にこれは「H -> Dis -> Gis (B -> D# -> G#)と動いております。
一方、上声部ではCメジャーのモチーフが「P5th -> Root -> M3rd」という風に動いたとすると、これは「G -> C -> E」と動くことになり、上声部と下声部をカノンではなく、そのまま同じモチーフ上でハモらせると、それぞれのハモりはしっくり来るモノの、単一の調性を逸脱したハモりを演出しているコトが容易にお判りになるかと思います。これが対位的な方面での、横方向に見た「旋律的な」バイトーナルの世界です。


扨て、今度はバイトーナルの世界を縦の世界として、すなわち「垂直レベル」の和声として見てみることにしましょうか。とりあえず下にG#マイナー上にCメジャーという構造は同じです。

では、このまま「分数コード」的に鳴らしてみると、下にG#マイナー・トライアドがあると上とのCメジャー・トライアドの構成音で短九度でぶつかるように存在してきて、これを出来る限り協和的に「響かせる」には上下が入れ替わったヴォイシングの方がキレイに響いてくれます(必ずしも入れ替える必要は無いんですが、一般的なレベルから考えてのコトです)。

じゃあ下声部にCメジャー・トライアド上声部にG#マイナー・トライアドという風に入れ替えたとしましょう。こうやって上下を忌憚なく入れ替える事を許容できるシーンというのは、先ほどのように上と下との各声部の調性を「旋律的」に鳴らしていないから垂直的な和声レベル方面で上下を転回させるように許容できるワケでありまして、上と下が厳格に入れ替わって欲しく無いシーンというのは自ずと旋律的なモチーフとして支配を強めているシーンであり、逆に忌憚なく受け入れられるシーンというのは垂直レベル的な和声でのみ拘っているシーンだと区別して認識する必要があります。今回のこういう例に限らず多調的なアレンジの際には避けて通れぬ「区別」なのであります。


余談ですが、今回の「ドゥアモルの和声」の例というのはレンドヴァイ著のバルトークの中心軸システムにて紹介のあるドゥアモルの和声に対して移調する必要があります。向こうは「F mollとA dur」ですね。因みにFマイナー・トライアドとAメジャー・トライアドの五線譜を今回載せておきますが、私の場合調号も振っておりますし、しかもそれぞれをトニックとして見立てていないのはある一定の配慮があるというコトを念頭に置いてご確認くださいね。



で、今回は忌憚なく上と下を入れ替えた方の世界を声高に語ります(笑)。


002dur-moll_bitonal.jpg


それぞれの声部の調性を維持することなく「合成」することが先にあるワケなので、ふたつの調性は完全に混ざり合うのだ、という風に考えてみてください。すると、G#マイナー・トライアドとCメジャー・トライアドの「合成」された形というのは結果的にCaugとBaugという半音違いの2つの増三和音にて形成されていると捉えることが可能となるワケですな。


こういう二つの半音違いの増三和音が見えて来たということは、勿論オーギュメンテッド・スケールが視野に入って来ます。でもコレはまだまだ初歩的な扱いですね。例えば半音違いであってもそれぞれがメジャー・トライアドであるペレアスの和声の各声部を次のように変化させたとすると、より一層彩りを増すと思います。

上声部・・・B△ -> Baug
下声部・・・C△ -> Caug

一気に両声部共に増三和音に変化する必要は無いんですが、あくまでも例ですね。ペレアス側は垂直的な和声レベルで見ればマイナー・メジャー9thを包含している響きです。そこから今度はドゥアモルの和声と言いますか、オーギュメンテッド・スケールの全音階的総和音とでも言いますか(笑)、非常に多彩になってくるワケでありますね。まあ、この多彩がどうのこうの言ってても仕方ないんで次にドンドン話進めて行きますね、と。


トライアドというカタチというのは安定的なモノでありまして、中でも長三和音(メジャー・トライアド)は短三和音(マイナー・トライアド)よりも安定的なのであります。チャーチ・モードの世界においては異なる2つのメジャー・トライアドが「全音違い」という形で寄り添っている事はありますが、「半音違い」というのはありません。しかしながら「異なる調性」が併存した時に起こる化学反応みたいなモノとでも形容すればよろしいでしょうか。特にペレアスの和声を例に挙げれば自ずと理解できるかと思いますが、そこには複雑で実に多様な世界を含んでいるものなのだというコトを語って来たワケですね。マイナー・メジャー9thというコードを包含しつつ、鏡像音程に寄り添う、と。且つ属二十三の和音の例にも見られるように結局は高次の倍音列を視野に入れた世界、結果的に半音階的な世界に寄り添うモノだと言いたいワケですね。

答を急いでしまうと、この手のコトはなかなか理解が進まない(特にこっち方面のコトに疎い方)と思いますので、こういうコトが実は普段の日常的な楽音にも存在するコトなのだというコトを色々述べていきながら、音楽の興味深い一面を語って行くことにしましょうかね、と。