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アノマリー [アルバム紹介]

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今回は、つい先日発売されたばかりのレニー・ホワイトのアルバム「Anomaly」について語ろうかな、と。ココんところ左近治が陶酔しきっているアルバムです(笑)。




まあ、早速アルバムについて語ってみますが、とりあえずミックス関連については、アルバム全般においてPan Lawをフルに活かしたステレオ・パノラマ感が左右にまんべんなくパワフルに満ち溢れたような近年多いミックスの音だと思います。曲によってはリバーブが深目なのもあったりするので音のキャラクター的にはLate 80sやアーリー90sのそれっぽさを感じるワケでもありますが、楽曲の雰囲気がそれらの年代の頃とは一線を画したジャズ・ロックを演出したモノであるので、10年代における新たな試みとしてもある意味で新鮮味すらあります。とはいえ楽曲のそれは高次なハーモニーが多いので安直に「あの時の年代の音」を想起してしまうといけません。

7曲目の「Election Day」のキック音は非常によく録られている音で、間接音の妙味を感じ取ることができるようなとても参考になる音であります。よくもまあこれほど上下感(下にある)を演出できるものだと驚かされます。

9曲目「Catlett Out of the Bag」の主メロと他のアンサンブルは少々ダッキングを施しているようなミックスに思えます。非常に遅いリリース・タイムにて主メロのサックスをトリガーとして他のアンサンブルをサイド・チェインのコンプで抑えるのではなくてその逆、他のアンサンブルをトリガーにしてサックスに対して若干エキスパンド(スロー・アタック)させたような手法なのではないかと思います。無論そのエキスパンド量は僅かなレベル差ではありましょうが、このアルバムは全体的なパンニング処理はPan Lawを主体に組み上げられているようなので、僅かなレベル差のエキスパンド量だとしてもそれが全体ミックスでリミッティングされる時にはステレオ・イメージがPan Law故に僅かに変化するんですな。楽器と楽器の間の隙間が見えやすいと言いますか。主メロのサックスには深いリバーブはかかっていないのでその辺りのコントラストが非常に際立つワケでして、かなり緻密な作業をしているんだなと勝手に推測しちゃってます(笑)。


楽曲面で言えば私の陶酔するタイプの曲は以下の曲だったりするんですが、それらは後述を参考にしていただくとして、私はレニー・ホワイトというアーティストは好きなアーティストで、CDを出せばまず間違いなく買う人ではあるんですが、今回のアルバムはそんな惰性のつもりで購入しようとしていたものでそれほど多くのコトは期待はしていなかったのであります(苦笑)。まさかこういうジャズ・ロックの音を演出してくるとは思いもよらなかったので(笑)。


思えばRTFというのはジャズ界隈のグループで言えばかなり英国ジャズ・ロックに近い肌触りを持っていたバンドだったとあらためて痛感するんですな。無論、チック・コリアのスパニッシュな体臭漂わせる曲想というのはそれらのジャズ・ロックや英国ジャズ・ロックの雰囲気とは異質の世界でもあるんですが、そういうチックの独特の世界観が削ぎ落とされた時の世界というのはクロスオーバーの中でもかなりイケてるジャズ・ロックの世界でありまして、チック・コリアの場合は特に顕著ですが曲作りにおいてインプロヴァイズと緻密に計算されたアレンジの境界というのが希薄で組曲タイプに仕上げている事も多かったりします。


そういう意味で英国ジャズ・ロックにある計算高い「あっちの世界」の演出というそれが似て非なるモノではあれど、どこか共通する世界観を演出するためかついついRTFというのはジャズ畑の中にあって最も英国ジャズ・ロックに近い肌触りがあると形容しているのはそういう意味なんですね。人脈などの相関関係というのは全く無縁でありましょうが、その辺りは誤解のなきようご理解ください。まあ細かく言えば、CTIを通じた英国人脈との融合というのは例えばアラン・ホールズワースとアルフォンソ・ジョンソンやら通じるものがあるかもしれませんが、いずれにしてもこの辺の英米が融合していたのはジョン・マクラフリンやヤン・ハマーなどの人脈になってくるのではないかと思うので、少々カンタベリー一派とは変わってくるワケですな。


まあ、そんなワケで曲想については非常に満足しているので中でも左近治が気に入った曲は後述しますが、今作「Anomaly」は全体的に曲間をシビアに扱ってトラック分けしているので、前の曲のテンポの「残像」を巧みに活用して次の曲に移行するので、BGM程度にながら鑑賞させているとメドレーかのような錯覚に陥ります。

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この曲間の厳密な取り扱いというのは次の図を確認していただくとしましょうか。


このようなトラック分けというのは殊更語る必要もないかもしれません(笑)。近年もいつだったか忘れましたがサンレコ誌上において外国人(名前失念)の寄稿で、このようなテンポの取り扱いが記事になっていたのが記憶に新しいワケですが、左記の図のように、前の曲の拍が「残像」として聴衆には必ずしやイメージされるコトでありましょう(実音はありません)。無論、そのテンポという「残像」が色濃く残るので、そのタイミングに等しいタイミングで次の曲の拍頭に合わすと、自ずとマッチングしたような錯覚に陥るワケですな。ラジオ放送などでもこういう「ポン出し」を行うことがあると思います。

ラジオ放送などでは実際にはSMPTEフレーム単位でのポン出しでしょうから、「厳密」とは言ってもDAW環境のようなワードクロック単位とかそういう精度よりも遥かに粗いのは現実です(余談ですが、SMPTEは80ビット)。

厳密とはいえど、ある程度前の曲のテンポのイメージを損なわないままにそこで感覚的に合わせる感じでも十分「繋がる」ように聴こえるはずです。前後の曲が4拍子ではない変拍子だったりしても、合わせる拍というものが2の倍数だったり或いは前の曲が3拍子だったりすればその倍数とかで合わせれば良好な結果が望めるのではないかと思うワケで、今作「Anomaly」はその辺りもアルバムのトータル・イメージに一役買っているワケでありますな。



私が今作で気に入った曲はまず4曲目。この「Dark Moon」に驚かされるのはギルモアって結構イイ具合にアウト感を有しているんだな、と。メセニーが弾いていてもおかしくはないような曲調においてその音使いに驚かされるワケであります。この曲はかなり好きな部類なのでありまして、主テーマから移るブリッジ部のコードワークなどでは、短三度音程の四度解体とかついつい試したくなるような非常に勉強になる曲だと思います。


5曲目「Gazelle」はフィル・ミラー/イン・カフーツっぽさを思わせる曲でありまして、ジャズ・ロック系統あるいはカンタベリー系由来の英国ジャズロック好きにも満足できる曲ではないかと思うのであります。この曲よりもカンタベリー系なジャズ・ロックしちゃってる曲はあるんですけどね、それは追々語ります(笑)。


11曲目「Anthem」については、この曲は中心軸システムとやらを体現してもらうには絶好のエチュードだと思いますな。E - Db - Bb - G・Fと行く所で、ここはバルトークのハイブリッドな和声やらオーギュメンテッドな音を使ってみて試してもらいたい曲でありますな。この曲を基にしてチェレプニン等sus4を使ったフレージングを「アウト感」を醸し出しながら練習に勤しんでいただきたい曲でもあります。テンポもゆったりしているので最適な曲ではないかと。ロックに頭でっかちになってるお兄ちゃんに聴いてほしい曲ですな(笑)。私がアプローチするなら11th音バリバリ使いますが(笑)。



13曲目「Arpanet」これは日本盤のみボーナス・トラックですが、ハッキリ言ってギルガメッシュの音です(笑)。でもフィル・リーの音ではなくてフィル・ミラーの音のギルガメッシュです(笑)。アルバム「Another Fine Tune You've Got Me Into」とか好きな方には持ってこいでしょうね。他にもアラン・ゴウエンやフィル・ミラー等の「Before A Word Is Said」とか後期RTFが好きな方にはドンピシャな曲ですね。当初、左近治は輸入盤の方買っちまおうかなと企てていたのでありますが、CDショップ店員から「国内盤にはボーナス・トラック収録のようです」と言葉を添えられ国内盤を購入するコトにしたんですが、ハッキリ言って正解です。というより国内盤買わなきゃダメですね(笑)。コレがあるから買う!みたいな(笑)。まあ、ウォルター・ベッカーの「11の心象」における「Medical Science」みたいな位置付けにも思えます。ボーナス・トラックだからと言って侮る事なかれ。これこそがキモだ、と。

いずれにしてもそれほど多くは期待してはいなかった(失礼)アルバムだったのでありますが、意外な発見があったのはとても収穫でありました。今年2010年に発売された新譜(もちろん初CD化や再発モノは除く)の中ではエリザベス・シェパードの「Heavy Falls The Night」に匹敵するくらいお気に入りとなりました。アルバム全体的に言えばエリザベス・シェパードの方が私は良いと思いますが、いずれにしても今年の暮れか来年の頭くらいにはその辺のアルバムのコメントを用意しようかなと画策しております。


CD受難の時代と言われているようですが、そもそも90年代のJ-POP隆盛が異常だったとも思えるワケでして、色んなCDショップにひとたび足を運べば判りますが、その辺りのJ-POPなんてワゴンセールで100~300円程度で売られているのが現状でありましょう(笑)。歌唱力や楽曲創作能力にも疑問符が付くような人達に音楽産業面のコスチュームを纏わせるような手法自体がそもそもどうなのかな、と(笑)。ホームラン狙いでブクブクと自分が肥えてしまうとバットすらロクに振れぬカラダになってしまいかねず本末転倒でありますな。そんな世界の片隅でひっそりと花を咲かせている方にきちんと目を向けてCDをリリースしていただきたいと思わんばかり。