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もう一歩踏み込んだメジャー7thの2ndベース [クロスオーバー]

 チョット前にセカンド・ベース(2度ベース)について語りましたが、分子がメジャー7thの2ndベースってぇ時点で、分数コード(onコード含)の使い方としては一歩踏み込んでいるとも言えますが(笑)、まあ、そこからさらに先に踏み込んで少々オシャレで高次な世界へ足を踏み入れようと、まあ、今回はそういう狙いがありましてこーゆータイトルにしております。

 例えば、数ヶ月前にハットフィールド&ザ・ノースの「Calyx」をリリースしたコトがありましたが、曲の出だしからの2つ目のコードはとても印象的に感じると思います。或る意味、ジャズ畑やそれに近い人なら馴染みが有るとは思いますが、全ての人がジャズの心得があるワケではありません(笑)。


 通常なら、カンタベリー系を好む人なら概ね和声的な部分の習熟度は高い人が多いと思うんでジャズ系の和声を許容できる人も多いとは思いますが、カンタベリー系を好む人であっても「ジャズはどうも・・・」と敬遠する人も居ることは確かです(笑)。左近治自身は全く垣根無く受け入れていますけど。


Presa.jpg


 今回リリースしているアジムスの「A Presa」という曲のコード進行は、いわゆるドリアン・モードを示唆するツー・ファイヴ系ではあるものの、2つ目のコードに心酔する人は多いと思います。







 正体は、分子がメジャー7th(+5)のセカンド・ベースなんですな。先の「Calyx」の2つ目のコードもコレです。もっと言うと近年(と言っても15年ほど経ちますが)の作品ですぐに思いつくのは、Workshayのアルバム「Under The Influence」収録の「True to Life」のド頭のコードと言えばよろしいでしょうか。







 まあ、アッパーがシャープ5thのメジャー7thというコードをモード・スケールとすると、通常のモードとは少し違う世界を垣間みるコトができるワケですが、多くはメロディック・マイナー・モードの世界にあてはめる使い方をすると思います。


 とはいえ、この手の分数コードの実体は概ねオルタード・テンションを内包したドミナント7thコードの簡略形だと思っていただいてほぼ間違いないでしょう。つまり、分母側をルートとするドミナント7thを想起すれば自ずとテンション・ノートが見えて来る、というワケであります。


 ただ、ドミナント7thとして用いるには場合によっては響きが「重い」コトも多々有ります(笑)。加えて、簡略形として用いることで調性が希薄となり、独特の和声感が独立するかのように、普段とは異質の響きが映えるように響き「ハッ」とさせられるような彩りを添えるという効果もあると思います。



「A Presa」の場合は「Ab△7(+5)/Bb」、「Calyx」の場合は「G△7(-5)/A」(或いはアッパーがG△7(+11)という解釈もあります)、ワークシャイの「True to Life」は「G△7(+5)/A」という表記になりますが、これらを「重く」使えば


「A Presa」・・・Bb7(9、+11、13)
「Calyx」・・・A7(9、13)
「True to Life」・・・A7(9、+11、13)


というドミナント7thコードという見方ができます。「Calyx」の原曲ヴォイシングは、A7(9、13)の5th音オミットですが、このオミットはヴォイシングとしては定石通りの省略形でありまして、そういう事を考えると「わざわざ2ndベース表記でなくとも構わないのでは!?」という疑問を抱かれる方もおられるとは思います。今回取り上げる3曲はいずれも当該部分のコードは2ndベース表記よりもこれらを優先した方がよいかもしれません(笑)。しかしながら左近治は「A Presa」ではセカンド・ベースとしてのヴォイシングとドミナント7thとしてのヴォイシングを使い分けておりまして、この辺りの対比を感じ取っていただければな、と思うワケです。


 先述のようなドミナント7thを想起しうるのにセカンド・ベース表記を用いたのが良いのは、アッパーのメジャー7th感を強烈に出したい時(和声的な分離感や浮遊感を醸し出すための)でしょう。特にインプロヴァイズが強く要求されるような場面において、ドミナント7thで不必要なオルタード・テンションで対処されるよりも、アッパーのメジャー7thの「解釈」に幅を持たせるためにセカンド・ベース表記の方が良かったりする時があります。

 アッパーをメジャー7thとして用いた場合、それが仮にトニック・メジャー7thだとしてもリディアンで対処する時もあるでしょうし、逆に言えば、アッパーをトニックでアイオニアンと想起した場合だとかなり特殊な世界でして、下の音から見た世界というのはドミナント7thを想起しやすい世界となっているため、アッパーのメジャー7thのナチュラル5th音があったとすると、それがドミナント7thとしてはナチュラル11thとなりアヴォイドとなりかねません。

 故に、ドミナント7th解釈で見た場合の11th音が変化しているのは、アヴォイド・ノートを避けているヴォイシング(必然的なそういう世界観)と言えるワケです。


 だからといって下から見たナチュラル11thというのはそれほど回避しなくてはいけないものなのか!?というと、そればかりではありません。用意に推察しうる和声的な世界に導かれないような特殊なハーモニーを維持した世界を構築する術を持っていれば、というコトが前提ですが回避しなくてもイイ場面はあります。ウェイン・ショーターの世界は最たるモノですし、ラテン音楽にもこの手のハーモニーは結構あったりします。その場合はドミナント7th表記ではないと思いますけどね(笑)。


 先日、坂本龍一&ザ・カクトウギ・セッションの「Sweet Illusion」についてチラッと語ったのも、実はアッパーのメジャー7thの拡大解釈やら、多くの側面を見せてくれる好材料なので取り上げたのでありますが、その辺はいずれ詳しく語っていく予定なので、今回の件も念頭に置いていただいた上でセカンド・ベースの応用みたいなモンを感じ取っていただければな、と思います。


 いずれにしても、毒のある世界の入り口となるやさしいハーモニーと言えばよろしいでしょうか(笑)。あらゆる毒の世界というフェーズの共通する入り口とまでは言いませんが、今回取り上げたハーモニーをキッカケに、「あっちの世界」を少しでも垣間見ていただければな、と。


 まあ、「あっちの世界」なんてぇのは死ぬまで追究しても達することなどできないような奥深い世界だとは思うんですが、例えば坂本龍一を形容するならば「長七の人」と言えるかもしれません。ウェイン・ショーターは係留の人(実際にはsus4に留まりませんが)、ハービー・ハンコックは増六の人、チック・コリアはシンメトリックな人、スタンリー・カウエルは短九の人、みたいな(笑)。


 短九は、単音程の短二度へ転回させて更に陰影分割の音程へ還元すれば長七度ですが、音程を転回した世界とは異質の世界がやはり存在しますし、ジャズ界でなければ短九の彩りの巧みな人はヒンデミットを私は筆頭に挙げるかもしれません。まあ、坂本龍一も長七に留まらず陰陽の世界というかアシュ・ラ・テンペルもといアシュラ男爵みたいな世界観のある人ですが(笑)、みんなそれぞれ独自の世界観を構築しているワケでありますな。

 そんな特徴的な世界をひとつひとつ会得しながら語って行ければな、というのが左近治の狙いなワケであります(笑)。


 まあ、そんな所でアジムスの「A Presa」について語るとしますがこの曲は、アルバム「Aguia Não Come Mosca」に収録されているワケでありますが、以前はこのアルバム収録の「Falcon Love Call」を制作しようとして著作権絡みでポツになりリリースできない状態に陥り、忸怩たる思いを胸に歯ぎしりしていたモンでした(笑)。「Falcon Love Call」の和声は「これぞベルトラーミ!」という世界観なのでありますが、或る程度ジャズ心を備えた人ではないと許容できないような少々難しい部分があるとは思います(笑)。



 どうせならもう少しキャッチーな方の「A Presa」でリリースしてみっか!というのが今回の制作舞台裏。その昔、「クロスオーバー・イレブン」で流れていた曲だけがアジムスじゃねえんだぜ!と言わんばかりに繰り広げている左近治であります。とはいえアジムス関連で一番最初にリリースした曲は「Fly Over the Horizon」ですけどね(笑)。