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「Wasn't Always Easy」/Gary Burton&Pat Metheny 楽曲解説 [クロスオーバー]

扨て、2009年最初の左近治のKクリリリースとなります楽曲のひとつに、パット・メセニー作曲の「Wasn't Always Easy」という曲があるんですが、なにゆえこの曲を取り上げたのかというと、ハーフ・ディミニッシュト9thの使い方が顕著なので、メロディック・マイナー・モードの持つ情緒を学ぶには最適だと思いまして取り上げたワケであります。

原曲の方はというと、元々ゲイリー・バートンとのセッションで名声を得ていくようになったパット・メセニーが久々の競演ということでアルバムをリリースしたものでありまして、他にも私が過去に取り上げたことのある「House on the Hill」というのもメセニーの曲でして、こちらもメロディック・マイナー・モードの情感を得られる非常に素晴らしい曲なのでありますが、今回の「Wasn't Always Easy」の方が、ハーフ・ディミニッシュト9thの導入により、比較的簡単にメロディック・マイナー・モードの世界を理解しやすいのではないかと個人的には思っております。

ベースはウィル・リーで、サドウスキーのJBモドキと思われるベースをアルバム全編で弾いております。このJBモドキは左近治、正直あまり好きな音ではないのですが、本アルバム収録の「The Chief」のベースは「さすがウィル・リー」と思わせる音とノリで、ベース・プレイとしては非常に好きな曲ではあります。と、話が逸れましたね(笑)。

左近治がこのアルバムを入手した当時は、チャップマン・スティックを入手してどうにかこうにか扱えるようになってきた頃の時に出会ったモノで、このアルバムにおけるメロディック・マイナー・モードの世界というのはスティックを通じて非常に自分自身の和声的な世界観の構築にも役立ったアルバムのひとつでもありまして、ある種の特別な思い入れがあるんですな。

原曲の取り上げた部分の10小節という変則的な小節数ではありますが、この部分こそが結構コアな部分だと思いますんで注目してもらいたいのであります。

Cm9 --> Fm11 --> Cm11 --> Gb△9/Bb --> F♯m/Em7(♭5) --> Abm9(-5) --> A△/G --> C#m11(-5) --> D△/C --> Bm9(13)


まず一つ目のハーフ・ディミニッシュは「Abm9(-5)」。そして二つ目が「C#m11(-5)」ですな(※厳密には二つ目のハーフ・ディミニッシュはこれら2つの過程にある「F♯m/Em7(♭5)」というアッパーストラクチャーの基底部を含めても良さそうですが、Gメロディック・マイナー・モードの全音階の総和音という扱いとは少々意を異にするという解釈から、茲での説明では割愛します)。


以前にも語ったと思うんですが、メロディック・マイナー・モードを和声的に表現する際に用いるコードは、マイナー・メジャー7th(マイナー・メジャー9th含)やオーギュメンテッド・メジャー7th系のコードよりも使いやすいと思うんですな。「いかにも!」な響きが中和されて毒を隠すことのできるとでもいいますか(笑)。

チャーチ・モードの世界から少しは離れたいんだけれども、コードの特徴的な響きが強すぎて扱いづらいと思っている人は多いと思うんですが、ハーフ・ディミニッシュト9thは非常に使いやすいと思うんですな。


で、今回注目してもらいたいコードは「C#m11(-5)」。


ハーフ・ディミニッシュに9th音と11th音を付加しているわけですが、念のために構成音を羅列するとですね

「C#、E、G、B、D#、F#」となるワケですね。


「何を注目すんねんな?」

と思われると思いますが、これらの構成音から生じる「長七」の音程に注目で、「EとD#」という長七と「GとF#」という長七音程が2組生じる所が実にオイシイんですな、和声的に。


通常、チャーチ・モードの世界に入り浸っていると、ハーフ・ディミニッシュ(=●m7♭5)という和声を拡張的に考えると、構成音の上というよりも下、ルートの長三度下に仮想的に拡張してしまうきらいがあると思います。

それはそもそも非チャーチ・モードの世界に慣れていないために、アッパー部分に音がひらめかないというのも影響しているかもしれません。故に長三度下に仮想的に拡張して、ドミナント9thを潜在的に意識してしまいがちなハーフ・ディミニッシュの用い方をしてしまう人が結構多いと思うんですな(非チャーチ・モードの世界に慣れていない人)。


では、ハーフ・ディミニッシュに長九度である9th音を積み上げると、メロディック・マイナー・モードを想起しやすい和声が構築されることになる、と先ずは言いたいワケですね。

さらにそこで完全11度(=完全四度)の音を積み上げる、というワケですが、注目点は完全四度と減五度から生じる音程だという所なワケです。

潜在的に減五度を「増四度」と異名同音とはいえ同じ感覚で使ってしまっていると、こういう使い方は決して体得することはできません。

ですので、この和声から生じる2つの長七度音程で最も注目してほしい点が、完全四度と減五度の部分なんですな。実はそこには理由があるんです。


メロディック・マイナー・スケールの各音から生じるモード7種類を見て行くと、「スーパー・ロクリアン」というモード・スケールが生じます。例えばCスーパー・ロクリアンという音階を調号なしで記譜すると、C音以外に全て「♭」が付くのでこう呼ばれているのでありますが、別名で「オルタード・スケール」というのもありまして、この音列も実はスーパー・ロクリアンと同じ音なのです。


「同じ音なのに、なぜ呼び方が違うの?」


それは、オルタードというのはオルタード・テンションの音を羅列しただけのコトで、♭9th音、#9th音という9thから「派生」した音を羅列しただけで一緒になっているワケですが、9th音から派生しているため和声的に双方の派生後の音を同時使用というのは芳しくないんですな。よっぽどの理由があって現代曲などを構築したいのであれば別かもしれませんが(笑)。


つまり、減五度と増四度を混同してしまっていると、先の「オルタード・スケール」と似たような混同を招きかねないというワケです。

オルタード・スケールの第2音と第3音はいずれも9th音でありまして、スーパー・ロクリアンの第2音と第3音は前者が9th(=短二度)、後者が3rd(=短三度)で、4thは「減四度」なのであります。


メロディック・マイナー・モードたる世界の統一感を維持したい場合、スーパー・ロクリアンとオルタード・スケールにおける矛盾は敏感に感じ取ってもらえると思いますので、この辺に注意をしながら、さらにはメセニーの曲はそれを手助けしてくれるという好例でもあるのです。故に注目してもらいたいな、というコトで取り上げたワケですね。

なかなか親しむことのできないような世界観を文字だけで理解するのは大変でありましょう。だからこそ左近治は実例を挙げているのでありまして、好きな曲をリリースしてただそれを安直なレコメンをするようでは原曲に対してあまりにも申し訳ないのではないかと思うワケですな。

本来なら、聴きどころとやらをこのように紹介せずとも一般的な聴衆が瞬時に楽理的に理解できれば最も良いのでありましょうが(笑)、そうなることはないでしょう(笑)。ただし、折角このような和声の世界観興味を抱いた人が、巷の数少ない曲に出会う機会すらも少ないのが現状なのですから、手をあぐねて何年も興味深い楽曲に出会うことなく、真砂の数ほどもあるゴミのような楽曲を耳にするだけではあまりに時間が勿体無い(笑)。

機会を奪われてしまっている所に、執拗なまでに説法唱える左近治がそこに居た、と思ってもらえればよろしいかと思います(笑)。でも、こうして私のブログに辿り着いてきてくれた方というのはそれなりに和声への感覚を確認したいという人が読まれているでしょうから私の意図はお判りになっていただけるかと思いますし、私が半ば通り魔のように、知りたくもない人を拉致して説法唱えているワケではないということも同時にお判りいただけるかと思います(笑)。

なにはともあれ、ひとつのコード内で生じる複数の長七度音程(=短二度)という和声的な響きを色々追究するだけでも価値があるってぇモンです。