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リバーブ・セッティングのイロハ 〜聴き手の感じる音〜 [ネタバレ]

ここ10年くらいのポピュラーな音楽で顕著なのはドラムやらアンサンブル全体でも非常に生っぽいアンビエンスを得ながらも、レコーディング時の音響設計やマイクロフォンやらも含めたレコーディング技術がそれまでと異なるフェーズへ抜けたためか、いわゆる「いかにも」なリバーブやらエコー感というのは少なくなったように思います。

つまり、アンビエンスと呼べる程度のコッテコテではない残響(反射音)を利用しているミックスが顕著なのであります。

そういう残響が少ない音というのは、リスナーが感じる客観的な音ではなく、どちらかと言えば演奏者の主観的ポジションの音に近いと呼べるかもしれません。しかしながら演奏者それぞれ好みはあるものの、客観的なリスナー側よりも演奏者側の方が深い残響を欲する傾向にあるのもあまり知られていない事実でもあります。

言い換えれば、演奏者がステージ側でリバーブ・タイムを調整して長目に設定するとしたら、実際にはそれよりも短めにセッティングした方がリスナーに丁度良いサジ加減になりやすい、というコトなんです。

ショートなプリ・ディレイでリバーブかけたりする程度で済ませた方がミックスを作る上では手っ取り早い時もあるでしょうが、実際にはリバーブ成分の周波数成分を下から上まで実直に通してミックスすることなどはまずあり得ず、リバーブ・タイムは稼いでも低域はカットしたり、高域もさらにそぎ落としてリバーブ成分のみの中域を巧みにEQ(特定ソースに対してピークを作る場合は1カ所のピーク付加が望ましい)施していたりするのが実際のミックスです。

で、このようにリバーブ成分を「弄った」音というのは、もはやショートなプリ・ディレイだと逆に音が変になっちゃうんですな。

今でこそあらゆる環境を模倣できるインパルス・レスポンスを応用したリバーブがありますが、このようなエフェクトを用いてもミックス時に計算しなくてはならないことは、そのアンサンブル(バンド構成)がどのような場所で、どのような立ち位置で、というようなことをシミュレートしたり逆算するのは当然のコトで、さらに重要なのは、そのアンサンブル構成の「後ろの壁面」の距離をシミュレートすることが最も重要で、これがリバーブの巧みなプリ・ディレイの取り方のコツなんですな。コレは本当に重要ですよ(笑)。実はネタバレです(笑)。


「何を意味しているのか判らない」

という方にもう少し補足して説明するとですね、反射音で最も強く現れるのは「背後の壁面」からの反射音なんですな。

例えば、ある演奏者の5メートル後ろに壁面があったとして、とりあえず気温は一定だと仮定して音速を秒速340メートルと仮定すると、はじき出される「演奏者が最も顕著に耳にする背面からの反射音」というのは、この場合だと約14.7msecとなります(※このディレイタイム値はあくまでもプレイヤーと壁面の距離であって、プレイヤー視点での間接音を演出する場合は倍のディレイタイムを用いることになります)。

15ミリ秒以下だとダブリング効果も浅く、よっぽどウェットな反射音(高域成分の吸音も少ないような)でない限り、この程度の間接音でエコー感を得るような音には感じ取れないワケですな。つまりライヴだと演奏者はリバーブをもっと得ようとしてしまいかねない、と。

ホールなどでは背面の距離は多少長くなるでしょうし、プリディレイは60〜70ミリ秒以上あることが望ましいという前提の上でステージの大きさや背面の重い吸音カーテンなど用意されていたりもするわけです。さらに客席側のイスの材質は座りは多少悪かろうとも吸音に優れていたり、カーペットも然り。

室内空間の吸音というのはOpen Window Unit、略してO.W.U.という数値で吸音率の単位が決められていて、窓が開いているという意味なのはある空間から窓を開ければそこから音が逃げていく、という根拠から生まれている言葉なんですな。

色んな吸音材ではこのO.W.U.というのが数値化されていたり、周波数特性が載っていたりしておりまして、左近治もこのような工業吸音材に関する文献や資料を幾つか持っていて、そのパラメータをReaktorに用いたりして自作したりすることもあります。

重要な事は、コンサートホールなどのステージ背面と演奏者との距離を判断してリバーブ・タイムのプリ・ディレイを算出しろ、ってこってす。いくつかのディレイをタップ・ディレイとして用いる時には素数を意識したり、背面との間接音とダブついたりしないよう計算してみたりすることも重要で、さらにはバーチャルな演奏形態であれば、そのアンサンブル自体がどのような形態や立ち位置、室内空間をシミュレートしているものなのかを頭の中で組み立ててプリ・ディレイを得ることが重要なんです。


「60〜70ミリ秒(或いはもう少し長くても可)というプリ・ディレイって長いんじゃないの?」

こう思われる方がいると思うんですが、リバーブをリバーブたる使い方をするには、直接音をいかにスムーズに「引き延ばしてくれるか」という音に味付けすることが重要で、直接音ににただ残響が付加しただけのリバーブは、本当のリバーブではないんです(笑)。

直接音に変なギラついた間接音が付加した残響で引き延ばされた音、というのも違います(笑)。イメージとしては直接音を心地良くサステインがアップしたような音をイメージしてリバーブの音を弄り、プリ・ディレイは先ほどの演奏形態をイメージして作りだす、ということを重視すれば自ずと算出されるでありましょうし、リバーブの「音作り」のイメージも判っていただけるのではないかと思います。

本来なら、色んなリバーブのプラグインやらハード機器を紹介しようが、こういう基本的なイロハを専門雑誌はきちんと掲載すべきだと思うんですが、特定の商品の製品や、発売時期に合わせてしまっているためなのか、いかにも取り上げたモノがイイんだ!みたいな風潮が生まれかねない(笑)。

少し前までのKクリでリリースしていた着うたというのは、モニタ環境をカーステ用のスピーカーやPC用の安物スピーカー、それとEQと「大雑把なリバーブ」でデフォルメしておりました(笑)。ここ1年半くらいですか。徐々にデフォルメ感を希薄にしてきているのは(笑)。こういう風に段階積まないでいきなりやってしまうと飽きられるのも早いので、左近治はこれまで小出しに(笑)。着信音業界が隆盛の時にこんなネタバレしていたんじゃいけませんし、ある意味今だからこそネタバラシできるってぇこってす(笑)。

難曲であっても元を採っておけば、音はいくらでもデフォルメできますし、後でいくらでも手直しすることも可能です。中にはこんなことは先刻ご承知でハナからデフォルメなどせずに着うたを作っている所だってあるでしょう。ただ、これはあくまでもリバーブの側面での中級ランクのイロハというか「ニホヘト」でして、他にももっと奥深いTipsと呼べるようなものなど真砂の数ほどあります(笑)。

こういう「アンビエンスな」時代だからこそリバーブを蔑ろにしてしまっている人って実は多いんじゃないかなーと思って、今回取り上げてみることにしたんですね。

どんなショートなプリ・ディレイだと感じても、聴き手の耳に届く時はちょうど良くなってしまっているという実際がライヴなんですな(笑)。それ考えると、ギターのカッティングにショート・ディレイでダブリングかけた音がリスナーにもきちんとその音として届く場合、ディレイ成分の周波数特性をどのように弄らなければならないか!?という所にきちんとアタマ働かせることができるはずです(笑)。

この手の吸音材やら資料や文献などには正直言って答は沢山詰まっています(笑)。ひとつだけの答ではないにせよ、「One Size Fits All」と呼べるようなコトが載っていたりするので、音楽雑誌だけにとどまらず、いろんな資料を参考にしてもらいたいものでありますな。ちょっと前のサンレコでも吉田保氏が手掛けたミックスがありましたが、あれこそがまさに「One Size Fits All」を物語っていたミックスだったな〜と痛感したものであります。

余談ですが、ザッパの「Inca Roads」や「Andy」作ってみましょうかね、と。