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ヒノテル「Key Breeze」アナリーゼ [制作裏舞台]

本日3月28日リリースの曲は4曲ですね。EFXシリーズはまるでスーパーマリオの地下ワールドを思わせる音楽(笑)。一応オーギュメンテッド・スケール(短三度→半音というテトラコルドの繰り返し)を用いたモチーフから作ったモノなんですけどね(笑)。まるでそんな小難しいコトを感じさせない脳幹直撃系のレトロゲーム系の音楽になってしまいました(笑)。

んで、マジ曲の方はというとですね、日野皓正のアルバム「New York Times」に収録のB面ド頭ソング(当時)の「Key Breeze」の3パターンを用意。

このアルバムは本当に密度が高いと言いましょうか、非常に良い曲が揃っておりましてケニー・カークランドのローズやトム・バーニーの「唄う」ベースなど、25年ほど聴き続けている今でも発見させられるものが多いアルバム。

左近治はこのアルバムの中でも特に好きなのが、この「Key Breeze」と「Newborn Swing」「Morning After」辺りでしょうか。

ココの所、「マイナー・メジャー7th」の使い方やら「メロディック・マイナー・トーナリティーの使い分け」をテーマに、色んな曲を織り交ぜながら楽理的に解説しているので、この曲も取り上げなくてはならないかな、と。

楽理的に語れる曲とはいえ、この曲のメロディは実に親しみやすく、幼い子供でも口ずさめるくらい(良い意味で)非常に素晴らしいメロディ。さらにはそんな親しみやすいメロディにやたらと凝りに凝りまくったコード・プログレッションという風には聴こえず、そのコードの当てはめ方も「このメロディにはコレしかないだろ!」と言わんばかりの難しさなど微塵も感じさせない自然な和声の流れ。コード・プログレッションのお手本でもありますね。

当時のフュージョンバンドのカシオペアはコード・プログレッションの偏向度が余りに強すぎて、周囲の作曲者以外のインタープレーの技量ではもはや操れきれなくなるほど自由度を奪うようなコード・プログレッションとは全く異質。まあ、それくらい自然で、且つ素晴らしい和声なんですよ。

まあ、イントロのコード進行は述べる必要もないと思うので(笑)、弱起で入るメロディではありますが、とりあえずAメロから語ってみまひょ、と。※ド頭は弱起ではありません。大ボケこきました。

因みにこの曲は当時発売されていた日野皓正の楽譜には収録されておりません。それらに収録されていた曲は倍の音価で表記されていたりしたんですが、一応ポピュラー・ミュージックのそれっぽく通常のテンポ感で解説していこうと思います。

(何を言っているのかというと、通常8分音符に聴こえるフレーズがあったとしたらそれは四分音符表記だということ。通常のbpmは四分音符=●●でして、bpm=80だとしたら、この曲を語るには以前リリースされていた楽譜の流儀にならえば二分音符=80のテンポによる楽譜表記が望ましいのではありますが、ということです。しかし、解説を判りやすくするために四分音符=80の表記と捉えて語るという意味)


Aメロは1&2拍でワン・コード、3拍4拍と各拍にコードが当てはめられます(こういうコードワークの著しさから楽譜表記では二分音符=80の書き方の方が本当はのぞましい)。

1&2拍目はE♭△9そしてFm7→D7(#9)。ここで驚きなのは4拍目においてシャープ9thを使うワケですね。このメロディの流れで。メロディの旋律に酔って(没頭)しまうと、そのシャープ9thの出現があったことすらも「ごく自然に」経過させてしまうほどの素晴らしいコードプログレッションがもうこの時点で目の当たりにできるワケですね。

もちろんジャズでツーファイブの真骨頂というのは、リハーモナイズさせる時にどの部分にツーファイヴを押し込めることができるか?という視点においてアレンジすることなど普通に行われることなので、この曲に限らずジャズ・アレンジの真骨頂とよぶべきツーファイヴを新たに当てはめるやり方は何もこの曲だけが特別なのではありません。ただ、その親しみやすいメロディとそのコード・プログレッションの自然さは特筆すべきもの、という意味です。

ただ、シャープ9thの後にはトニックに解決するのではなく代理でもう一回E♭△9に戻るんですが、その後E♭m9→Dm7(3拍&4拍)で、同主調の調性を拝借する動きにしてくるワケです。ここも実に巧みです。ここだけのたった2小節のシンプルな旋律でこういう6つのコードを当てはめてくるわけですが、そんなこと気付かせないほど自然だということがお判りになるかな、と。

その後Bメロに展開していき、着うたリリースのパターン1ではBメロは3小節までとなっておりますが、この3小節内は2拍ずつコード進行が形成されております。

E♭△13(♯11)→D♭9→Cm11→B♭m9(11)→B♭m11→D♭△7(#11)という風に。

余談ではありますが冒頭に掲げたE♭△13(♯11)は下属音を根音とする副十三の和音である為、和音構成音は自ずと[es・g・b・d・f・a・c] という事になり、表記上からは視覚的に直接見えない本位九度音を包含している事になります。一般的には基底和音を四和音にした上で9・11・13度音を括弧付きで括るコード表記或いは分数コードとして分母
四和音のE♭△7及び分子をアッパー・ストラクチャー・トライアドのF△と表記するのもおおいにありうる事でしょう。

やはり注目すべきなのはBメロ入ってから2小節目の3~4拍目のB♭m△7(9, 11)の部分でしょうな。ベースのクリシェの巧みなアレンジもさることながら、コードネームだけ見れば実に難しそうなコード進行なのに、これほど味わい深い実に親しみやすいハーモニーを形成しているという点は見逃せません。

その後着うたパターン2の頭、つまりBメロ4小節目から6小節目のF△9に解決させる一連のハーモニックリズムとなっている部分はこうなります。

F7(♭13)→G♭△9(#11)→Gm7(♭5)→Gdim△7(on C#)→B♭△7(on C)→F△9

ここで注目すべきなのはGm7(♭5)→Gdim△7(on C#)このコードの動きですね。特にGdim△7にクリシェとしてさりげなく移行する所(2017年に解説する記事のYouTubeに用いた譜例動yu画では元のコードから剥離する様にクリシェ・ラインの束が経過和音として半音下のF♯△を形成するようなバイトーナル和音式にて表記)。拍として短く聴こえるでしょうから聞き逃さないよう注意が必要ですが、ディミニッシュ・メジャー7thを使うということは、メロディック・マイナー・トーナルであることを示唆するワケでして、後に現れるハンガリアン・マイナー・トーナリティーとの差異感を認識することができることでありましょう。

その後にBメロ部4拍目、D7(#9、♭13)のキメとなるワケですが、ここの所は実際には♭9th音も使っているので「E♭m69(on D)」の方がハーモニーの精度を捉えた表記としてはこちらの方が望ましいでしょう。しかしトーナリティーの区別を判りやすくするにはD7(#9、♭13)に♭9th音を付加することを明示させるか、或いはD7alt表記にせざるを得なくなるかもしれません。ただ、alt表記で注釈が不十分だと、他のパートで和声を「欲張る」人が必ず出現しかねないので(笑)、インプロヴィゼーションを行う時ならまだしも、唄メロの時とかは注意が必要です(笑)。但しE♭音は日野皓正が奏している音であり総合的な和声として生じているだけなので、厳密な意味でのコード表記としてそこまで拘泥する必要は無いと思います。私のブログでは「総合的な和声」として俯瞰している為、便宜的に全ての音をコード表記として表しておりますので、一般的なコード表記の流儀とは異なっているので注意が必要です。例えばベルクのヴォツェックに於いては属七の和音に短九度と増九度が同居する和音が現れますが、同度由来のオルタード音が同居するという意味ではこのような先例もあるのはご承知おきを。

その後のBメロはサビまでの流れが以下のようになっております。これも2拍ずつのコード・チェンジですね。

Gm9→G♭△7(♭5)→Fm11→E♭△7(#11, 13)→A♭△7(#11, 13)→G7(♯9, ♭13)

ここでも見逃せないのはG♭△7(♭5)という硬減長七を基底とするコード。初稿時にはこの和音をF♯△7(♭13)由来と誤った見立てを立てておりましたが、ハーモニック・メジャー関連またはジプシーの類型のモードから創出される話題に導きたいばかりに誤った解釈のまま事実確認を蔑ろにしてしまって投稿してしまっていたのはお恥ずかしい限りであります。こちらの硬減長七は第5音が半音低くオルタレーションされる必要があるという事を示唆しているので、決して♯11音を付与して完全5度音オミットされているという事ではありません。

とまあ、楽理的に結構突っ込んだ文章になっておりますが、曲を聴けばこんな難しさが吹っ飛んでしまうほどの素晴らしく親しみのあるメロディとコードワークで形成されているので、なにはともあれ原曲をお聴きになることが一番かと(笑)。

で、サビはというと

E♭△9→D7(♯9、♯11、♭13)→C7→Dm7→Cm9(on E♭)→A♭△7→Gm7→G♭△9(+5)→F△9

ド頭のE♭△9ではベースがルートを刻んで13th音に行ってから5th音に流れます。一時的にはCm11っぽいハーモニーを形成するワケですが、ここはあくまでも5th音のためのクリシェとしてベースが動いているので表記的にはE♭のままです。ベースが13th音を奏でれば確かにコード表記が変わるシーンもありますが、7度音や5度音とのクリシェが顕著な場合はこういう使い方もアリっていうことです。左近治のリリースしている今田勝の「Driving the Cabriolet」のAメロのベースも13th音使ってます。
※着うたパターン3の方でのリフレイン部では、ココの部分のE♭△7だけがD♭7(9、♯11)に変化しています。原曲でもコレ1回しか出てきません。和声を欲張らせないためにC♭aug/D♭という表記の方が判りやすいかもしれませんが、トーナリティーを把握する際にはやはり先の表記の方がよろしいかな、と。

A♭△7→Gm7→G♭△9(+5)→F△9という流れは最後は8分食ったシンコペなので、ほぼ1拍ずつのコードチェンジとなるワケですな(笑)。

まあ、見逃せないのはやはりラス前イーシャンテンのG♭△9(+5)ですね。メジャー7th上の「+5」ってこたあ、♭13th音とは違うことになるんで、ここのトーナリティーはメロディック・マイナー・トーナリティーを示唆するということになりますね。

そうすると、今までマイナー・メジャー7thやらディミニッシュ・メジャー7thが出現した箇所を比較してみても、このように「使い分け」がされているというワケです。

ですから、マイナー・メジャー7thのカッコイイ使い方とかですね(笑)、メロディック・マイナー・トーナリティー(リディアン♭7thスケールも含みます)を覚えたい方は、私が紹介するこの手の曲をお聴きになってみるのもよろしいかと思います(笑)。


通常の楽譜表記だとこういう風になるから、ホントはbpmを二分音符=80で表記したいんですよね(笑)。符割を細かくすると、こういう風にケーデンスが著しい曲だと読譜力は人それぞれなので、解釈が浅いまま拍を追う人がいるものなので(笑)、深く知らしめるためにはきっかりはっきり半分の音価で表記した方がイイ時もあります(笑)。私の周囲では「読みづらい」などと愚痴こぼされたこともありましたけどね。

左近治がこうして力説する理由は、やはりメロディック・マイナー・トーナリティーやらハンガリアン・マイナー・トーナリティーを念頭に置いたモードを用いた音楽のハーモニーは「カッコイイ」から(笑)。これに尽きますね。別に最近目覚めたワケでもなく、Kクリにおいても古株の部類に属する私は着メロ黎明期からこの手の響きを用いた音楽を扱ってきたワケでして、そんな楽曲をたかだか3&4和音で「どうやって聴かせるの?」と言わんばかりの難曲を敢えて選曲してきたのでありますが(笑)、和音が乏しい時代の着メロならば結合差音を視野に入れたアレンジを施したり、と。無い知恵絞って色々やっていたワケなんですよ、コレが(笑)。

まあ、こうして語ってきてはいるものの、ホントの所、もっと力説したいのは、オルタード・テンションにおけるドミナント・モーションを伴わないomitな使い方、つまりチョット見慣れない特殊な分数コードを語りたいワケですね。こういうのはスティーリー・ダン加えてウォルター・ベッカーのそれが最も顕著なんですが、そういうのを語るには題材として高橋幸宏の「La Rosa」のリリースを待たねばならないかな、と(笑)。


近年で言えば冨田恵一のコードワークなどはやはりメロディック・マイナー・トーナリティーの咀嚼が巧みですし、少々遡れば今井美樹の「ポールポジション」の分数コードの使い方にもそういう部分を垣間見ることはできますが、いかんせんJ-POPの類は左近治、馴染みが薄いので、本当はもっと佳曲が多いのを知らないだけなのかもしれません。

ただ、一般的に多くのメディアで耳にする曲というのはやはりまだまだこういう高度なアプローチは馴染みきっていないと言えるとは思います。

高橋幸宏の「La Rosa」なんて30年前の曲なワケですよ(笑)。このブログ読んでる人の中には生まれていない人だっていると思うんですね(笑)。そんな昔から先人達は巧みに使っていたということなんですね。今と30年前。音楽を取り巻くテクノロジーなんて物凄い変貌を遂げているわけですが、和声的な部分では進化どころか退廃してしまっているのではないかと思えるくらい、殆どが形骸化したものを装い新たにしているだけなんですな(笑)。

もう少し追究していってイイんでないか、と。だからこそジャズも進化せずにいるわけですな(笑)。世界はまだイイものの、日本となると本当に目も当てられない(笑)。色香だけで購買欲そそらせようとしてたりとかね(笑)。ジャズなんて顔なんざどうでもいいのに(笑)。