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メジャー7thで遊べなくなる人 [たわごと♪]

やれツーファイヴだのドミナント7thでは水を得た魚のように躍動感溢れるほどのバップ・フレーズやらを醸し出す人は多いものの、メジャー7thとか出てくると途端に落ち着きを取り戻してクロマチックに遊べなくなってしまって、遊ぶにしても勝手に他のモードを想起している人が実に多いものです。

メジャー7thとはいえ母体となるトライアドがマイナーというマイナー・メジャー7thもあるワケですが、今回は母体が「メジャー」なメジャー7thについて語ってみまひょ、と。

リディアンを示唆する場合はメジャー7thコードにおいて自ずと#11th音で遊べるワケですが、こんなのは基本中の基本。

結論から言えばメジャー7thコードにおいては♭13th音とオーデュメンテッドな+5th音との使い分け(異名同音ではあるものの)を覚えるようになってから次なるフェーズへの道筋だと言えましょう。その次に♭9th音と増六度(=短七度の異名同音)の使い方がキモとなってきます。

コードでメジャー9th提示されているのに♭9thを選択するようでは愚の骨頂ですが(笑)、ではまずは♭13thと+5の使い分け。

+5を用いると、概ねそれはメロディック・マイナー内のモードを示唆する使い方になります。強制的に5度音が半音上がっているモードの場合、概ねメロディック・マイナー・トーナリティーの使い方ですが、完全五度音と♭13th音を使い分ける場合はメロディック・マイナー・トーナリティーではなく別のモードを示唆することとなります。

その最たるものがハンガリアン・マイナー(=ジブシー)のトーナリティーですね。短音階の中でも異色中の異色、叙情性タップリの音階なのに三大短音階には含まれることなく特殊な音階と属されてしまう音階ですな。

んで、ドリアンとなるとほぼ短音階の代用的な解釈で広く使われているワケでありますが、メロディック・マイナー・トーナリティーとなると途端に使われることが少なくなるのはただ単にボキャブラリーが欠如している表れなんですな。では何故そこまで言い切れるのかというと?


ドリアンという音階(旋法)は、長音階(=メジャースケール)の第2音から開始される音階。平たく言えばピアノの白鍵において「レから始まってレで終わる」音階なわけですな。

テトラコルドというのは、各音程が全音or半音という並び方を定義したもので、ドリアンのテトラコルドというのは上行と下行でも全音と半音の並び方が規則性を持ってます。

判りやすく言えば

「上から読んでも山本山、下から読んでも山本山」状態のテトラコルド(配列)なワケですな。


ではメロディック・マイナー(=旋律的短音階)の第2音から始まるモードのテトラコルドを見てみると、こちらも「山本山状態」なんですね。

重要なのは

ドリアンとメロディック・マイナーの第2音のモードはいずれも5つの全音と2つの半音が対称性を持った音階

というコトなんですわ。5つの全音と2つの半音で構成される音階でこれほど対称性を持った音階はこの2つだけなんです。


「マイナーをドリアンとして捉えて演奏することが多いのに、なぜメロディック・マイナー・トーナリティーとなると頻度が少ないのか?」

それこそがボキャブラリーの少なさの証左なんですね。


「メロディック・マイナーなんて全音音程がやたらと続くから使いづらい」という声も聞くことはあります(笑)。

でもですね、音階において「半音の隔たり」というのは重要なんですよ。全音音階(=ホール・トーン・スケール)を思い出せば、実に奇異で味気なく聴こえる特殊な音並びですね。

5つの全音が連続する音程を内包するメロディック・マイナーのモードの使いづらさというのもホール・トーン・スケールに類似するからかもしれません。しかし、それがボキャブラリーの少なさを示していることであるワケです。

「メロディック・マイナー・トーナリティーなんてそうそう使う場面が少ないし、ましてやマイナー・メジャー7thのコードなんて殆ど見かけないよ」

という声も私も幾度も聞いてきましたが(笑)、だからこそ「メジャー7th」コードにおいてメロディック・マイナー・トーナリティーを導入するワケですよ。「恥を知れ!」という言葉がありますが、ここでは「半音を知れ!」という風に置換することができます(笑)。


マイナーをドリアンと代用するシーンが多くあるにせよ、場合によっては9thの使い方が制限されるシーンだってあるワケですね。つまりドリアンなのかフリジアンなのか?というシーン。前後のメロディラインやら調性を読み取れば、そこがドリアンではなくフリジアンを用いた方がイイということなど沢山あるわけで、「●m7」というコード表記があればすぐにドリアンで対処しようとするのも愚の骨頂(笑)。こうして前後関係を判断しながらフリジアンにする人など、モードを理解している人なら実体験として多いことと思います。

メジャー7thコードにおけるメロディック・マイナー・トーナリティーの導入も、そういう「選択」と同じことでありまして、だからこそメジャー7th上で♭9thの音使ったり、+5(オーギュメンテッド)させたり、或いは増六度の音を導入したりして、メロディック・マイナー・トーナリティー(=メロディック・マイナー・スケールが持つ7種類の旋法)に近付くワケですね。

因みにメロディック・マイナー・トーナリティーとハンガリアン・マイナーは結構近いフェーズにあるのでそれらを使い分けている作曲者や演奏者も多いものです。

後日左近治がリリースする日野皓正(3月28日リリース)の「Key Breeze」の非常に美しいコード・プログレッションには、先述の「使い分け」を如実に知ることができる名曲です。


先日リリースした山下達郎の「Kiska」における坂本龍一のインタープレイにもそういうアプローチを垣間見ることができるんですね。

ボキャブラリーに乏しい人が聴けばただ単に経過的なクロマチック・アプローチ程度にしか聴こえないかもしれませんが、私が後にリリースする高橋幸宏のソロ・アルバム収録の「La Rosa」における坂本龍一もやはり、この方はメジャー7th上での♭13th音と♭9th音を巧みに導入しております。まあ、この方の特長ですな。YMOでスタンスを確立してからはこういうアプローチをなかなか聴くことは難しいでしょうが、氏のソロアルバム「BTTB」を聴けば、ジャジーな経過的なアプローチも遥かに顕著なモーダルな音の世界を知ることができると思います。

「メジャー7thで♭9th使ったら半音2回続くじゃん!」

まあ、確かにそうですね長七、ルート、短九と。

場合によってはルート、長七、増六という使い方もあります。こういう使い方は先の方々もそうですが、ハービー・ハンコック古くはバド・パウエルとか。ただ漠然と「クロマチックじゃん!」と聴いている方が実際には多いのではないかと左近治、確信しております(笑)。

あとはスティーリー・ダンの「Black Cow」における、歌詞2番のサビ直前の「Daylight~」の所に導入させているトム・スコットの増六度導入でクリシェさせているホーン・アレンジの部分とかが顕著でしょうかね。

※ここでの「Black Cow」の解説は、仮想的なメジャー7thを想定した上での解説なので誤解のないように。原曲「Black Cow」の実際は、この該当部分のコードはEm9(11)です。しかし、これをC△7(9、#11、13)というメジャー7th系として「想起」すると、ホーンの動きは増六、短九という音に見立てることができるという意味です。というのもウォルター・ベッカーのその後の「クセ」を聴く限り、こういう想起を行っているようで、最たるものは「Negative Girl」とか、遡れば「Glamour Profession」などにも見受けられます。全てが同じ用法ではないものの、後のフェイゲンの「Tomorrow‘s Girls」のイントロはベッカー流の発想が活かされていると思います。ベッカーはそういう「見えないものが見える」ようなコード・プログレッションが特徴です。



この手のことを追究したい方は、いずれ「La Rosa」において詳しく語る予定ですのでお楽しみに(笑)。

ただ単に無関係の曲をリリースしているのではないということがお判りになっていただきながら、音楽の深みを味わってもらえればな、と思っている左近治であります(笑)。

この春に音楽学校に進学される方も多いと思いますが、専門学校系の方面でメロディック・マイナーをこういう風に追究する所はおそらくないかと思います。もちろんメロディック・マイナーが何か?ということくらいは知ることはできますよ(笑)。どこかの雑誌に毛が生えた程度のことしか教えられない「学校屋さん」に埋没することなく学んでいってもらいたいと思うワケでして(笑)、アナリーゼとはもっと深い部分でしょう。こういうことが広く認知されていけばいいのでしょうが、楽理に興味のある人はトコトン質問して、学費の元取る以上に研究するような腹積もりで挑みましょう(笑)。