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エキサイター/エンハンサーについて語ってみよっか [制作裏舞台]

これらの名称で呼ばれている製品の特徴的なのは、倍音成分をコントロールして明るい音にしてギラつかせる所にありまして、例えば元のソースからパラった帯域をHPFに通して、さらにその音をクリッピングさせて波形を角立たせる、と。そうした音を原音に混ぜる。これがクリッピング・タイプのエキサイター/エンハンサー。

一方、位相を弄るタイプとしてのエキサイター/エンハンサーというものもあり、これらの方式の違いによって明確にどちらのタイプがエキサイターで一方がエンハンサーなのかという呼称の違いはありません(笑)。また、場合によっては全く別の名称を用いている機器もあります。

位相を弄るタイプとして特徴的な部分をおさらいすると、位相差によって生まれる遅延に対して人間の耳ってぇのは2.5kHzより上はかなり曖昧になるというのが広く知られている部分。この曖昧さを利用して、倍音成分を積極的にコントロールしようではないか!というのが位相を弄るタイプの方の特徴なのであります。

2.5kHzというと、その音声の1周期は400μ秒(=0.4ミリ秒)。MIDIケーブル上におけるたった1つのバイトを送る際の理論値が312.5μ秒だとして、概ね似た所の遅延であります。ノート・オン・メッセージには3バイト必要なので(同一鍵盤を連打してランニング・ステイタスが利いていないと考慮した場合)はその3倍、937.5μ秒ということになるので、ほぼ1ミリ秒と言って差し支えないでしょう。まあ、それくらいの領域だってぇこってす。まあ、実際には2.5kHzよりも下を中心周波数として扱う機器もありますけど、人間の耳の曖昧さを逆手に取って、より活用できる帯域が2.5kHzよりも上ということだけ念頭に置いていればいいのではないかと。結果的に出てくる音はエッジ感を強めて、より高域成分が立つという方向で音を作ろうということですから。

倍音成分を意識するにあたって視野に入れておくことは、通常自然倍音列において七次倍音より上の成分を強調すると概ねギラついてくるというワケで、そこで奇数・整数次を考慮しながらパラメータとして与えればよりエフェクターとしての性格をより強めていけるワケですね。場合によっては整数次でなくともよいのでありましょうが。

扨て、仮に2.5kHzを視野に入れて位相を180°ずらすとなると、これが「逆相」。すなわちキャンセリングされます。この場合200マイクロ秒ずれたことに等しくなります。

2.5kHzのピュアトーンがソースならともかく、実際の音のソースというのは複雑な倍音成分を有しているので、たまたま2.5kHzより上の音がカン高く鳴る音に対しても、その音が完全に消失するというのは少ないと思います、実際には。デジタル領域での複製というシーンなら有り得るかもしれませんが。

仮にキャンセリングされたとしても、180°ずらした時というのは倍音列で語れば二次倍音がキャンセリングされたと同意です。位相が90°ずらした場合だと、2オクターブ上の倍音がキャンセリングされる、それに伴って2オクターブ上(四次倍音)がキャンセルされようとも、元の2.5kHzが減衰を始める前にまた2.5kHzがやってくることになるわけで、これは強調されることになります。

つまり、コヒーレント(干渉)な視点で強調・相殺を積極的にコントロールすることでエッジを立たせる、と。位相角を弄れば元周波数のどの辺りの倍音成分をコントロールすることになるのか?ということは、自然倍音列を追って見るだけでもすぐに答は得られます。大体7~16次倍音辺りを視野に入れた上で強調できればいわゆる「ブライト」と形容できる音にはなるものであります。もっと上も弄ってイイんですけどね(笑)。

ボコーダーなども最たるものの一例で、あれも極端に狭い帯域を上げ下げすることによってエッジを立たせて強調しているというワケです。実際にはカットされている帯域も多いのにエッジが立つように聴こえる一例だと思えば判りやすいかもしれませんな。

極端なショート・ディレイにおいてもこういう視点で音を強調させたりすることは可能ですが、ディレイ部分の音の扱いと原音とのブレンド具合に対して注力しないといけないかもしれません。

ところが7次倍音やら11次とか14次倍音とかの類は、音律的には結構「ズレ」てるんですね。こうい倍音は確かに高次になればなるほど増えますが、こういう音を「器楽的」に用いて音色を彩ろうとするところが実に興味深いものであります。

ジャコ・パストリアスの「トレイシーの肖像」なんていうのは、ハーモニクスを用いて音律的にはズレた微分音を使って(実際には微分音を積極的に用いたのではなく、ハーモニクスのみによる音楽を形成するために近似的な音として使っている)いるという曲があるので、音律的にズレたという倍音を強烈に認識できる最たる例だと思いますが、こういう要素をも器楽的に用いようとする所が興味深いというワケであります。

通常なら大気を伝わる音を実感しながら聴いているので、耳は気体を通じて音を認識する器官と思われておりますが、実際には空気を伝わる音からさらに液体を通して伝わる音を得て認識しているという部分が最重要で、それ以外に骨やら腹腔、胸腔、口腔、咽頭、鼻腔やらを伝わっている音も一緒に脳が変換して認識しているものが「音」であって、音なんてぇのは材質やらその密度によって伝播速度は大きく変わるものの大気以外では概ね、水中やらコンクリを伝わる速度の方が何倍も速いワケです。人間の肉体の70%が水分、あとは骨と肉、内耳の液体成分やら水やコンクリとは材質は違えど(笑)、伝播速度は気体よりも明らかに速いのは明らかです(笑)。

それらを全て「同時」に認識させる脳の役割というのもこれまた興味深いものでありますが、実際にはズレとして認識はできなくとも、それが「デフォルト」として我々は音を認識しているのかもしれませんな。故に「位相」のズレを許容している、と。

深いぜ、エキサイター(またはエンハンサー)と人間(笑)。