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ハイサンプルレート周波数で制作する理由 [たわごと♪]

生のソースを録音するなら高音質の恩恵というのは非常に大きいワケでありますが、左近治が着うた制作する上では殆ど生の素材は扱わず、殆どはソフト・シンセやソフト・サンプラーの類でオケを作っていくワケであります。生素材の録音と比較すれば音質差というものは大きくはないものの、それとて十分出音で違いを認識できるくらいは差異感はあるものです。

ではなぜサンプルレート周波数44.1kHzのプロジェクトで進めないのか?というとですね、その理由は大きく分けると次の通り。


●概ね10kHz超の周波数をEQで操る場合、44.1k/48kプロジェクトでのEQのレスポンスとそれら以上のサンプルレート周波数では全く異なり、44.1k/48kではナイクイスト周波数に向かって強制的にロール・オフの度が強まるから。

●ソフト・シンセやソフト・サンプラーの類は大なり小なりエイリアス・ノイズを生じるので、音質に影響を与えないための回避策。


という、理由でハイサンプルレート周波数にて制作しているワケであります。「シンセのトラック数ありき!」と言わんばかりに、マシンの性能フル回転でトラック数稼ぐことは簡単。しかし、そんな環境下でフリーズトラックさせようが、結局はエイリアス・ノイズがふんだんに乗った音で、利きが思うようにならない高域レスポンスのEQでイコライジングなんかしたくもないんですな(笑)。位相すら乱しかねない(笑)。


ロール・オフ発生については誰でも認識できることなので敢えて言及しませんが、今回はエイリアス・ノイズについて述べてみまひょ、と。


例えば次の画像は、24ビット/96kHzにおいて、NI Kontakt3のPop Drum Kitを数小節ほど再生させたスペクトラム分布です。

kontakt3_default.jpg


上下にLRのチャンネルそれぞれ確認できますが、各トラックの中心付近の奇麗な水平に伸びた紫色の紋様がありますが、これはこの元の音色が44.1kHzによって作られたサンプル音というのが分かります。

無論、それより上方向は「エイリアス・ノイズ」を示しているというワケです。


サンプル元の折り返し周波数(ナイクイスト周波数)を軸に、きっかりミラーリングされているような分布になっていますね。それでも完全なミラーリングになっていないということは、ナイクイスト周波数から上に拡大するほどフィルタリング処理(内部的な)されていることが分かりますが、22.05kHz~32k付近は結構強く出ていることが分かります。

ということは、ナイクイスト周波数からリフレクト(反射)したと考えると、32kHz辺りの音は概ね出音の12kHz辺りの音に影響する、ってぇコトですな。


このプロジェクトは、この時点で96kHzで制作しているからこそ、エイリアスノイズの影響を出音に反映されていないワケでして、44.1k/48kHzで制作していれば、Kontaktがこういう処理をしてしまっている以上、即エイリアスノイズの影響を受けながらモニタリングしている、というコトを意味します(笑)。気が付きにくいだけかもしれませんが、実際には影響されてしまっているものでして、これはホストアプリケーションがなんであれ、Kontaktであろうが他のソフト・サンプラーでもエイリアスノイズは生じます。

96kHzのサンプルをソフトサンプラーに取り込んでいるなら、その場合はきちんと出力されますけどね。エイリアス・ノイズ発生は96kHz超になりますしね(ココまで解説する必要あるのかな!?)。

つまる所、サンプラーの場合は元ネタのサンプルレートがプロジェクトのサンプルレート周波数以下であれば、レンダリングによってエイリアスノイズが発生してしまうものの、発生帯域がリフレクトせずに高域に「逃げ」てくれているんで、この時点では功を奏するわけですね。元ネタがプロジェクトと同じサンプルレート周波数或はそれ以下なら出音に即エイリアスノイズが発生してしまう、ってことですな。

とはいえ、いくら高域に逃げてくれているとしても、これらのトラックが沢山集まれば高調波を干渉させたり、あるいはノイズやらの影響を受けてより強調されてしまって、ロールオフが極力少ないのに超高域の位相すら乱してしまいかねないですね。しかも耳には聴こえない領域が、デジタルデータの帯域幅としてこれだけ占有してしまうことで、他のエフェクトの演算処理の負荷を増やしかねず、CPUパワーを持っていかれることも容易に考えられます。

じゃあ、そんなオケを予めエイリアスノイズをカットしてみるという視点で、リニアフェイズのEQを20kHzを中心に48dB/octのスロープでLPFとして切ってみたらどうなるかというと、それが次の画像。

kontakt3_lpf_at20k.jpg



フムフム。取りきれてはいないけれども大分カットされております。20kHzを中心にしてスロープのキツいLPFを噛ませても取りきれていない現実に直面します。実際には20kHz辺りは元ネタの音質すら変容させてしまっているんですから、これよりも中心周波数を低く持っていくと、もっと元ネタの高域がカットされることになりますね。


でまあ、最終的に色々手を施してディザリングして、16bit/44.1kHzに落としたものを、再度96kHzにレンダリングするとどういうスペクトラム分布になっているのかというと、それが次の画像。

mastering.jpg


参考までに、某CTIレーベルのジャズのレコードから24bit/96kHzで録音したものがこちらの画像。

1974年録音の某曲です。

vinyl.jpg


70年初頭過ぎるとマスターはデジタルにしてしまって超高域が無いなどという都市伝説もありますが(笑)、中にはあるでしょうが全てのレコード会社やレーベルがそうではないので、超高域が録音されているものなどいくらでもあります。但し、テレビ放送規格を見越して走査周波数などと干渉しないような特性を持った機器が増えてきた年代でもありましょうが、それでも超高域というのは記録されているのでありますな。

画像の伸びの鋭い部分は、ハイハットのオープンが鳴っている所です。右半分側の20~36kHz付近で高域ソースが増えるのは、アコピとテナーサックスが鳴っているからです。

左半分には、うっすらと32kHzまで所々ほのかに薄く分布を示す信号があるんですが、これはARP 2600のストリングス系サウンドとシンバル類のようですな。


ま、やり方は各自色々あるでしょうが、CPUパワーばかりに目を向けずに、きちんと音を考えて制作環境を構築しないとダメだってことですな。アナログもデジタルも馬鹿にできませんぞ、と(笑)。

スペクトラム分布にはSoundtrack Pro 2、オーディオインターフェースにはApogee ensembleにて、下は-140dBのスケーリングで表示させております。