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King Crimsonに学ぶサイド・チェイン活用法 [プログレ]

 扨て、前回さりげなく取り上げたキング・クリムゾンの『Sleepless』。

 この曲は、アルバム「Three of A Perfect Pair」に収録されている曲ですね。当時はこの曲、キング・クリムゾンであるというのに(笑)、12inchEPとしてもリリースされておりましてですね、ま、当時のフロア・シーン用にもリリースされていたんですよ(笑)。




 本曲最大の特徴は、Tony Levin(以下、トニー・レヴィン)によるスティングレイのスラップ音が、サムには16分音符のディレイが掛かっているのに、プルの方にはディレイ音が掛かっていないというギミックが最大のナゾなワケです(笑)。

 このギミックはですね、スティングレイのピックアップがトニー先生用にカスタマイズされたものでもなくて(笑)、別に各弦独立して音を出力させているワケではないのですね(笑)。コレこそがサイド・チェインたる『ダッキング』の応用例のひとつだからなんですよ(次の動画の埋込当該箇所)。





※スラップのプル時に掛かる16分音符タップ・ディレイ音のみ消す事を目的としており、ディレイ音を消すと雖もサムピング部分のディレイ音は残したい訳です。それを実現する為にはプルを用いる任意の音域=周波数帯域のみに「ダッキング」として掛かる様に制御されればプルにかかるディレイ音のみ消し去る事ができる訳であり、トニー・レヴィンもそうして実現しているのです。

 これまでも何度か左近治はサイド・チェインについて語ってきましたが、サイド・チェイン自体があまり重宝されないというか、意外に活用法を知らない人もいらっしゃるのは驚きでもなんでもない日常的なコトなんです(笑)。

※近年耳にする事の出来るリマスター&リミックス音源では16分音符のディレイがかなりデッドになっている為、キング・クリムゾン・ファンの新参者からすれば《何を話題にしているのだろう!?》と思われるかもしれませんが、古い音源を知る人にはお判りいただけるかと思いますのであらためてご容赦のほどを。

 エフェクト機器の多くはサイド・チェイン用の信号としてトリガーできるインプットを備えているワケではなく、結構限られたモノになるのが通常です。本来サイド・チェインは卓で複雑なルーティングを想定して、コンソール内の可変幅の広いダイナミクス系の設定との兼ね合いで実現できるワザだからこそ、エフェクト機器単体でサイド・チェイン用のトリガー入力を持っているのは少ないというワケです。

 そういう事情から、サイド・チェインというシーンに遭遇する機会が少ないのが演奏者サイド、という背景もあるワケですね。

 確かに、80年代後半辺りだとROCKTRON辺りが「Ducker」と称する1Uラックマウントのエフェクトをリリースしていたとも思いますが、ダッキングという側面だけをフィーチャーしてリリースしていた製品というのは非常に少なかったんではないでしょうか。

 エイドリアン・ブリュー、フィル・マンザネラ、トレヴァー・ラビン、武沢豊、ウォーレン・ククルロ、蛎崎弘とまあ、エフェクト御大達(笑)をことごとく研究して、可能な限り足を運んだ高校時代が懐かしい、エフェクト中毒の左近治だったワケでありますが、エフェクト中毒についての話題はまた別の機会にでも語りましょうか(笑)。先述の日本人アーティストはそれこそ日本のスタジオ・ミュージシャン界隈でのエフェクトの達人達であり(松原正樹や今剛もいますが、左近治が語るのはそれら以外の方々)、左近治は勝手に「エアクラフト系」と呼んでたりしたモンです(笑)。武沢さんはどうだったかは知りませんが、モリダイラ楽器の高級エレキ・ギターブランドの「AIR CRAFT」ですね。

 実はB’zの松本孝弘だって「エアクラフト系」界隈の人だったんですからね(笑)。まあ、また長くなりそうなんでこの辺で留めて先に進めます(笑)。

 では、Logic Pro7を例に、キング・クリムゾンの『Sleepless』のトニー・レヴィン大先生のあの音を再現してみることにしまひょ、と(笑)。

sleepless.jpg


 とりあえず、インストゥルメント(ソフト音源)トラックはMONOでEXS24mkII。ファクトリー・プリセットのBass->Slappled・・・のベース音を割り当て、と。

 これを元に、2種類のBusトラックをアサインします。双方のBusトラックともMONOでオッケー。

 画像のBus5にしている所が16分ディレイ用のBusトラック。ここにディレイを割り当てて画像の用にセッティング。その後段にゲートのプラグインを割り当てるのキモですが、これは後ほど詳しく語ります。Bus5の出力はフツーに、インストゥルメントトラックと同じ出力(ここではoutput1-2)に設定、と。

 画像のBus6はですね、これがサイド・チェイン用のトリガーとしてのダミー・トラックですね。出力も割り当てておりません。プラグインもアサインしておりません(笑)。

インストゥルメント・トラック上の各Busトラックへの送り量(send量)はですね、 Bus5→-2.7 Bus6→ 0.0 とゆー風にしております。ディレイ音部を僅かに小さくしているのは、左近治の好み(笑)。無論、ココの送り量を変えるコトによってノイズゲート上のスレッショルドやらリリースタイムのパラメータを変更させないとうまくいかなくなります(追記しておきました)。


 本来、サイド・チェイン用のトリガーとしてアサインしたトラックにはLPF、BPF、HPFなどで細かく設定して、各帯域をさらにパラっちゃったりするシーンの方が日常的なコトなんですが、本編ではですね、まず、サイドチェインによってどういうギミックを演出できるのか!?またはサイド・チェインそのものがどれほどの効果があるのか!?というコトを主眼に置いているため、こういう風にして話題を進めていこうと思います。

 で、Bus5のディレイの後段にアサインされているNoise Gateのプラグイン。このプラグインのパラメータも画像通りのセッティングで。

 後は、インストゥルメントトラック上でSleeplessの音を打ち込んであげればイイわけですが、よほど微小なベロシティで打ち込んでしまったりとかしない限り、この音源(サンプル音)での音なら、Sleeplessを再現しようとすれば「それなり」の値になると思うんで(笑)、このセッティング通りでもプルの音にディレイ音が残るようなら、NoiseGateプラグインのスレッショルドを僅かに±3くらい上下させて探ってみてください。それでもオイシイポイントを探れた所でプル時に僅かにディレイ音が残るようなら今度はNoise Gateプラグインのリリースタイムを数十ミリ秒上げ下げしてみてくださいな、と(笑)。

 ま、これでプル時のディレイ音は回避したダッキング効果を実現、と。このギミックこそがSleeplessの最大のギミックであり、このダッキングによるサイド・チェインの応用例は何てコトない、ドラムのカブり音回避策としての応用例なんですよ(笑)。

《スネアの音にハイハットの音がカブってるよ!》

 なんてこたぁ日常茶飯事でありまして、ハットの音が高域と決め込んで、トリガーとする帯域を絞ってやって、ハットの音は消しつつ、スネアの音を残す、と。こういうのがサイド・チェインとしての最も基本的なやり方なんですな。

 ハットだって「コツコツ」としたチップ部分の中低域成分は含んでいるワケですが、それはスネアの音にマスキングされるというワケで(笑)。サイド・チェインを巧みに使おうが、ゲートで完全に切るなんてコトもそうそうないワケでして(笑)、こういうことを巧みに使いながら余計な帯域をミックスに入れずに音作りをする、と。

 アナログ録音時代ですらも、余分な帯域をカットしつつ音作りしていたワケでして、デジタルの世界となるともっと神経質になってもイイんですな。

 とゆーのも、デジタルの世界の場合、耳にはあまり聴こえないような帯域でもカットされていなければ、それらが多くのトラックとなって2ミックスする時における浮動小数点の領域の扱いによって音が変わってくるワケで、帯域を目一杯活用してパッツンパッツンに数十トラックのオーディオトラックをまとめちゃったら、浮動小数点領域が少なくなったりして間引きされる量を増やすことになってしまうんですよ。

 しかもセンター付近に集中した音が多ければ、浮動小数点演算が扱う領域というのは左右として別々に演算するよりも両方に占有していることになるんで、加算演算だけで済むような部分が結局他の演算で使用されてしまうコトでその領域が狭まっているのだから、結局原音そのものに違いが出てくるぞ、と。

 左右のパンニングをもっと神経質に、且つセンター付近に集中させずにミックス、と。何もLogic Proにおけるコトではなく基本中の基本ですが、ことLogicにおいてはこういうパンニングに曖昧になってしまうと、センター付近の信号の分布やら浮動小数点領域の使用量による間引き加減で結構音が変わったりするんで、私は「環境設定」レベルで、Logicを完全にMONOなのかLなのかRなのか、と区別させて(ユニバーサルトラック無効)、その上で3dB補正は、Logicにやらせず、Pan Lawを巧みに併用するためにSonalksisのFreeGをアサインするという手法を採っているワケでございますよ(笑)。

 先述のSleeplessの設定例の画像が左近治のとは少し違うぞ!?という方はユニバーサルトラックの有効/無効かを確認してみてください。ただ、今回のセッティング例はユニバーサルトラックを有効にしていてBusトラックをMONOにしようが、効果に違いはありません。Busトラックに送られる信号量やそれをAUXに戻した時の信号量が両者に違いが出てくる程度で。また、それによってスレッショルドの値は変化するとは思いますけどね(笑)。ま、大きく変更しなければならない点は、Noise Gateのスレッショルドとリリースタイムの部分で、Sleeplessのダッキング効果は実現できますよ、と。

 インストゥルメント・トラックはハナからセンターじゃなくてパンさせてるんだけど、そうしたらBusトラックはどうすんの!?という疑問をお持ちの方はですね、Gainプラグインアサインしてパンニング情報(パノラマ情報)をBusトラックに持っていってあげたりしてください(笑)。

 本来は、これらのBusトラックはさらにAUXでまとめてあげることも重要ですが、画像ではそこまではやっておりません(笑)。つーか、そこまでやらなくてもSleeplessは実現しているし、そこまで解説するコトもないだろ、と(してるけど)思いましてですね、ハイ(笑)。

Three Of A Perfect Pair.jpeg


2020年6月12日追記
 上述の記事は2007年当時のLogic Pro 7を用いた設定例であるので、記事初稿時から13年の時を経た現今社会からみれば、任意のディレイ音のみをダッキングして音を消すという手法自体は理解におよんだとしても、それを再現する環境が現今社会と比較すると遉に乖離した感が浮き彫りとなって来た為、今回あらためてLogic Pro Xという現今のDAWホスト・アプリケーションを用いつつスティングレイの音を再現可能なMODO BASSを用いた設定例を提示してみようかと思います。

StingRay01.jpg


StingRay02.jpg


StingRay03.jpg


StingRay04.jpg


StingRay05.jpg


StingRay06.jpg


 MODO BASSのスティングレイの設定は特段変わった事はしておりませんし、Logic Pro X上のインストゥルメント・トラックでのチャンネル・インサートにエフェクト類は挿入しておりません。内蔵のアンプ系統の信号で若干の味付けがされている程度に過ぎないので、この設定を元にスティングレイの音色キャラクターを弄った場合、当然の事乍ら今回例示するゲートでのスレッショルドの設定は大きく変わる事になろうかと思うので、その辺りは各自適宜設定されたし。

 今回、MODO BASSを用いたデモを制作するという事で、YouTubeの方では本追記用のデモをアップロードしておいたので、動画を併せてご確認いただければと思います。




 この動画を見れば一目瞭然ですが、譜例としては表しておりません。単なる実音とディレイとの関係を図示した物に過ぎないのですが、最も肝心な点である「スラップのプル時のディレイ音を無効化する」という状況が視覚的に判りやすくならないかと思い、今回の動画となった訳です。

 あらためて畢竟するに、ベースには16分音符の音価でのシングル・タップ・ディレイが施されるも、ピックアップが各弦独立出力ではないのにサムピングにはディレイ音が存分に効いているのにプルにはディレイ音がかかっていないというギミックが本曲最大の特徴でもあり、これについてはエディ・ヴァン・ヘイレンが本曲を初めて聴いた時、ディレイ音だとは思わずコピーが出来なかったという逸話の方が有名ではなかろうか!? と思う事頻りです。

 いくらギタリストとは雖も、EVHがディレイ音だと気付いた事は間違いないでしょう。しかし、プル時にはかからぬディレイのギミックのそれが、実演奏だと信じ込まざるを得なかったという点は、演奏者のトニー・レヴィンのアイデアをあらためて賞賛すべきであり、エンジニア的な視点に於ても看過する事のできない一例だと思うのです。

 そういう事から「プルのディレイ音のみをゲートでカットする」という事を単純に明示する事の方が重要と思ったので、動画の方では譜例としなかった訳です。

 とはいえ、ダッキングで処理されるリジェクトされたディレイ音は、特定の帯域のみ作動する様にすれば良い訳ですが、これは従前のセッティングと異なる点があるのであらためて例示する事にします。

 この13年の間にLogicは内部ルーティングやPan Lawなど、多くの追加・変更点がありましたので、その辺りを意識する事なくLogic Pro Xに触れているユーザーの方々にもあらためてダッキング・ディレイの妙味を知っていただこうと思い、以下に設定例を示しておきますのでお試しあれ。

  とりあえず、Logic Pro Xのルーティング状況は最低限次の様なトラックで構成されなくてはなりません。1番右がMODO BASSのインストゥルメント・トラックです。Busが4系統、オグジリアリが1系統となります。

Routing1.jpg


 MODO BASSからのセンド量としてBus1&2への送り量は次の様に、Bus1が「-2.7」Bus2が「0.0」という風に設定する必要があります。同時に、Aux1のBus4への送り量が「-5.8」という所も重要なポイントとなります。出力先は「Bus3」を選択しておく必要があります。

Routing2.jpg


 最も重要なのはBusトラック類なのですが、Bus1は基本的に16分音符でのシングル・タップ・ディレイの効果を担うチャンネルでありますが、プル時には動作しない様にするというのが最も重要な設定となります。これに必要な設定がサイドチェーンの設定となる訳です。出力先は「Bus3」を選択する必要があります。これにてMODO BASSの信号とディレイ信号はBus3へ一旦まとめられる事を意味します。

 但し、Bus3には新たなバス送りとしての並列エフェクトが必要となる為、Bus3のトラック自身の出力先は「No Output」にしておき、Aux1の入力に「Bus3」を選択すれば、ひとまとめとなった信号は結果的にAux1にまとめられる事になります。

 なぜこうして手の込んだルーティングになるのかというと、Aux1上で並列エフェクトが必要だからなのです。その並列エフェクトこそが後述するローカット・デジタル・リバーブなのです。

 
 続いてBus1のチャンネル・インサーションはまず次の様に「Tape Delay」を施します。

Bus1-1.jpg


 Bus1の2つ目のチャンネル・インサーションは「Noise Gate」ですが、重要なのはサイドチェーンのタブで「Bus2」を選択しておかねばなりません。

Bus1-2.jpg


 然し乍らBus2は音声信号を出力する必要のない、サイドチェーン動作に必要な為のダミー・トラックである為、Bus2の出力先は「No Output」であるのです。

 但しBus2は音声信号として出力する必要はないものの、「特定の帯域」でしっかりと動作する様に音声信号の帯域を「絞って」フィルタリングする事で、従前の設定よりも一層ダッキング効果が見込めますので、次の様にLPFを8ポールの-48dBで110Hzのカットオフ周波数として設定します。

Bus2-DummyTrack.jpg


 扨て茲で、Aux1で必要な並列エフェクトとなるローカット・デジタル・リバーブの設定例を挙げる事にします。まずはリバーブの前段となるチャンネル・インサーションに次の様なHPFを施します。

Bus4-1REV-Cutoff.jpg


 続いて、Aux1のチャンネル・インサーション2つ目に次の様なパラメータ設定となる「Siliver Verb」を挿入。茲でのLow Cut=500Hzは、前段のHPFとダブルで効かせているという訳です。肝心なのは、このリバーブ成分に高域はそれほど必要ないのでHigh Cut=3900Hzと設定しているのです。リバーブのプリ・ディレイは60〜68ミリ秒の間であれば良いでしょう。

Bus4-SilverVerb.jpg


 斯様な設定を経て晴れて先のデモの様になる、という訳です。重要な点は、特定の帯域のみディレイ音をカットできる様にゲートとサイドチェーンを活用するという所にあります。こうしたギミックが施されているからこそ、耳を惹きつけるという訳ですね。あらためてトニー・レヴィン御大に畏怖の念を抱いて已みません。