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YMOを語ってみまひょ(2) [YMO関連]

過去に自分がリリースした曲についても語ればいいモノを左近治と来たら、ついついハナシが飛躍してしまうのがいけませんな。

YMOのお三方のソロ作品ではなくYMO名義でのリリースとなると、昨年の「Shadows on the Ground」や「Limbo」になるのかな、と。「M-16」もありますが、コレは16和音の着メロ時代でもリリースしていたモノなので、左近治自身からすると着うた用に新たにリリースしたモノがやはり記憶に新しいんです。

「Shadows on the Ground」のDM9→Dm9のコード進行が好きな左近治ですが、Gentle Giantの「On Reflection」を彷彿とさせてくれる曲なので好きなんですな。

坂本龍一といえばメジャーとマイナーの相互交換とでもいうか、そういうハーモニーを前面に押し出すコンポージングをする人で、自身もそう語っているようです。テクノポリスなんかも好例ですよね。

でも、メジャーとマイナーのハーモニーの相互交換という表現は、ある意味坂本龍一自身が「咀嚼」した表現であって、実はもっと多様性に富んでいるということに気付いてあげなくてはならないと思うのであります。

2020年6月11日追記


 次の画像は「Shadows on the Ground」に用いられるヴィブラフォン風の音を模して作ったLogic Pro内蔵音源ES2を用いた物です。私が嘗て商用着信音を制作した時にはES2とNIのAbsynth2を混ぜて作っていた物でしたが、当時のAbsynthの音色パラメータを紛失した為ES2のみのパラメータとなってしまいますが、一応ES2単体でもある程度は似ているかと思いますので掲載しておきます。

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メジャーとマイナーで決定的に変わる音は3度と7度。3度は当たり前田のクラッカーですな。まあ、7度はとりあえず置いておいて、メジャーもマイナーも一緒にしたモードを導入するだけで、音階的には1音増えるので9音音階的な発想を導入できます。

通常の「ドレミファソラシド」の音階は、その並び方がどこから始めようと全音と半音のバランスが取れているため馴染みやすい音階なワケですが、そのどこかに半音を埋め込むことになるワケです。そうなると和声的に見てもメジャーかマイナーか、あるいは5度が変化するのか、7度が変化するのかetc新たなモードを導入することでダイアトニック・コードの構造が変化するため選択肢が増すことにより、多様性が増すワケですな。

で、バランスの良い「9音音階」という視点で見ると、全音→半音→全音の順番で構成されるDiminished Scaleか半音→全音→半音という順番で構成されるCombination of Diminish Scaleに大別されるようになります。まあ、他にもSpanish Scaleやら他にも多くの9音音階は存在しますが、「安定的」な9音音階となると上記の2つになるでしょう。

これらの音階で和声を作ると(ダイアトニック・コード)、メジャーを選んでいいのかマイナーを選んでいいのかという個所が必ずあります。強制的にメジャーかマイナーのどちらかを固定化させてルール作りしない限りはかなり自由度が増すというワケですが、究極的なのは、4種類のメジャー・トライアドで構成できてしまうんですな。

通常の音階で構成されたいわゆる「スリー・コード」というのは、スリー・コードの構成音がその音階の音全てを内包しているため調性が成立するワケですが、4種類のメジャー・トライアドという発想に行き着けるところがディミニッシュ系の9音音階の面白いところです。しかもそれらの各コードの隔たりは短3度。Cを基準にすれば、Cメジャー、E♭メジャー、F#メジャーとAメジャー。これらのトライアドで「C Combination of Diminish Scale」になるワケです。

わざわざこういう音階の導入をしなくとも、曲中において半音の変化をさせることで、局所的な調性の変化や解釈を変えることができるワケです。つまりは、一瞬でもこれらの9音音階の発想を導入でき、メジャー・トライアドの短3度の隔たりによるパラレル・モーションを示唆する可能性をも見出せるので、多様性に富むというのはこういった理由からなんです。

通常の音階においてどこかの音の半音の上げ下げによって生まれる解釈で曲の多様性が増す、ゆえにマイナーとメジャーを相互交換させて調性の多様性を増大させる。坂本龍一は、それらを噛み砕いて「メジャーとマイナーの相互交換」と表現しているのですが、実際にはこういう多様性がある、というワケなのであります。

もっと分かりやすく言えば、「ドレミファソラシド」の音階に「ミ♭」を加える、と。「ラ」から見た「ミ♭」はミの完全5度から減5度として、「ミ」から見れば長7度というように、「ミ」の半音の変化形としてではなく、あくまでも1音を加えることで経過音として用いずに音階を拡張するために音を導入(増やす)、と。

そうすることで、ディミニッシュ系の9音音階と共通項(コード)を見出したら、その音階が持つ4種類のメジャー・トライアドという解釈を利用して、短3度でフレーズを発展させ(パラレル・モーション)フレージングを拡大させることができる、というワケです。

まあ、こういった発想は結局はコード・トーンの重畳化に伴う非ドミナント・コードでのトライトーンの扱いや、ひいてはドミナント・コードにおけるオルタード・テンションの「オルタードではない独立的なテンションの用い方」など、或いは経過音を経過音として使用せずにフレーズを発展させるバップ・フレーズなど今に始まったことではないのであります。

こうしたことをポピュラー音楽に代用することでもっと分かりやすく美しく採り入れるという作業が坂本龍一の最たるものでありますが、こういう技法は坂本龍一に限ったことではなくて、実際にはこの手の響きが好きな作家は似たフェーズに位置し、それを具現化しているのであります。

ドミナント・コードをドミナントとして扱わなかったり、オルタード・テンションやトライトーンが現れても古典的な楽典のルールとは違う進行をさせることができたりと、古典的な調律を使用していないのだから、そんなことは実は当たり前のように使えるワケなのですが、一般的な人々が過剰なほどに「ドレミファソラシド」の音並びに呼応してしまうからこそ、こういう響きが特異なままに位置付けされてしまうのも事実。

ディミニッシュ系の9音音階が4種類のメジャー・トライアドに分けられることもできるというシンプルな発想なんて実に夢があるではないですか(笑)。ジェフ・ベックの「Scatterbrain」の6/8拍子の7thベースのメジャー・トライアドのパラレル・モーションなんかまさにそうですね。

「ドレミファソラシド」の音列を利用したダイアトニック・コードにはメジャー・トライアドが存在しますが、その内ひとつはドミナント。それを除けば長七(メジャー・セブンス)を使えるコードはCとFだけ。

メジャー・セブンスは根音と半音関係にあるとも言え、この響きに病みつきになったらもう元には戻れないほどの魅力があります(笑)。長七の母体となるトライアドはメジャーが主ですが、マイナーのメジャー・セブンスももちろんあります。

長七を持つダイアトニック・コードが4つも現れてくれる音階がありますが、これは9音音階でもなんでもなく、通常の音階と数は一緒です。並び方が少し違うだけで。それがジプシー・スケール(別名ハンガリアン・マイナー)。このジプシーの音階をモードにして曲作っちゃったのが坂本龍一の「Elastic Dummy」。高橋ユキヒロのソロ・アルバム「Saravah!」で聴くことができる名曲ですな。

音大で作曲技法を学ぶ時など「7度を使った技法」とかテーマが与えられると思うんですが、「Elastic Dummy」のような素晴らしい和声の響きをモノにする生徒さん、一体どれだけの数がいるんでしょう!?

坂本龍一の「lorenz and watson」という曲を例に挙げると、曲中には現れてきませんがD♭音が幻のように音が見えてきます。

そうすると実はGメジャーとGマイナーを行ったり来たりしているのではなく、Bメロディック・マイナーのモードを示唆してくれるように響くんですね。余談ですが、YMOの「Castalia」におけるドラムが無くなる中盤がメロディック・マイナー・モードを使用する好例です。あの響きですね。

バド・パウエル、ハービー・ハンコック、スティーリー・ダン、ケリー・ミネアー(Gentle Giantのキーボード)、坂本龍一、トム・シューマンなどの人達を追いかけていると、この手のハーモニーに出会うことが多いので、参考まで。

YMOの「ライディーン」では知ることのできない、音楽の深みとやらは色んな所に隠されているので興味のある方は研究されてみては!?(笑)。

違った曲で例を挙げるなら、ポピュラーな「たらこ・たらこ・たらこ」。これも半音の増減による変化を経過音として用いずに色んな音階の解釈を曲中で彩ることによって、ディミニッシュ(トライトーン)を増やすことでジャズとは違ったモーダルなハーモニーを維持して、ああいうショスタコービチのチェンバロが似合うような音階になったり、バルトークっぽくなったりするんですよ、実は。

着メロや着うたで耳コピをしていると、別にYMOに限ったことではなく、左近治が好きなタイプの曲をあらためて分析できて再発見があるのですね。私自身がこうした作業が好きなので、分析がてらにトラックを作っていくと結果的に着メロや着うたをリリースできるというワケなんです(笑)。まあ、言い換えると、自分の好きなタイプの曲ではない場合、途端にリリースが滞るという(笑)。

左近治の制作基準は特異で美しいハーモニーなんです(笑)。

そうじゃないのもリリースしてますけど。